表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/19

棚に隠したローリエの葉

こちらはわたしが適当に思いついた文章の羅列(題名)にストーリーを付けたらこんな感じかな、という作品になっています。


主人公のコヨミは毎朝同じメニューの朝食を食べるのが億劫だった。

同じ部屋にいるヨウくんに促され、食事は後にしてカフェオレを飲む。

二人でカフェオレを飲んでいると、ヨウくんはおもむろにこんなことを尋ねてきた。

「お前は、俺が幸せになるのは許せない?」と…。


1000文字超えたのでショートショートとは呼べませんが、短編です。

楽しんでいただければうれしいです。


 


 寝巻きのまま、ベッドから這い出すようにダイニングへ向かうとテーブルに一人分の冷めきった朝食が置かれていた。

 丸い皿に盛られ、ラップに包まれた…サラダや薄めに切られたベーコンに卵焼き。その横に添えられたバターロールが一つ。

 味気ない、いつもの朝食。

「食べたくないの?」

 テーブルの向こう側で、片手で頬杖をついたヨウくんが問いかける。

「そういうわけじゃないよ」

「じゃあ、気分じゃない?」

「…わからない」

 目の前の食事がどうしても美味しそう、食べたい、とは思えなかった。

 食事が冷えきっているからじゃない。

 食事の内容がいつもと変わらないからじゃない。

『なんとなく』食べるのが億劫なんだ。

 息を一つ吐いて、食べるはずだった朝食を冷蔵庫の中にしまう。

 サラダも、薄いベーコンも、卵焼きも、バターロールも、今は見ないでおきたかった。

「せめて着替えておいで。それからカフェオレを飲もう」

 ヨウくんの提案に従って、そろそろと寝室に戻る。寝巻きを綺麗にたたんで、枕元に予め用意していた、クリーム色のTシャツと黒のパンツを履く。

 再びダイニングに戻って、食器棚から適当なカップを二つ取り出す。

 冷蔵庫で冷ましていたアイスコーヒーと牛乳を1:1の割合でカップに流し込み、自分の分とヨウくんの分をそれぞれ作って、テーブルの定位置に置いた。

「ありがとう」

 ヨウくんがカフェオレを一口飲んだ。

 それから、悲しそうな顔をして問いかける。

「なぁ、お前は…俺が幸せになるのは許せない?」

「そんなわけないよ。ヨウくんには幸せでいて欲しい」

「じゃあ、俺が幸せになって、俺の中からお前との記憶が薄れるのが怖い?」

 何も答えなかった。答えられなかった。

 ヨウくんは手を伸ばして、触れるか触れないかのギリギリで止めた。

「お前を忘れたわけじゃない。今でもお前を想っている。でも、ずっとお前を想いながら生きていくのは辛いんだ」

「…わたしを想い続けるのが辛いから、忘れたいんでしょ?わたしを忘れて、いま付き合っている彼女と幸せになりたいんでしょ?」

「いま付き合っている彼女も、俺がお前のこと想っているのを知っている。知ってて、いつまでも居なくなったお前に囚われちゃイケナイって、前を向くべきだって言ってくれたんだ」

 ヨウくんの新しい彼女…。無条件に、彼と生涯を歩める子。わたしが、ヨウくんの隣を譲った子…。

「お前との記憶は宝物だ。ずっと忘れない。忘れたくない。この記憶を抱えたまま俺は生きる。どうか、もう少し待ってて欲しい。俺がお前の横にいけるまで。俺は俺の人生を歩んで、ちゃんとお前のとこにいくから」

 そうだ、ヨウくんはこうだった。

 真面目で、裏表が無くて、嘘が付けない…わたしが大好きになった人。

「ヨウくん、わたし、ご飯食べる」

 え?とヨウくんが驚いた顔をした。

「ヨウくんは、今の彼女さんを大切にして。わたしのことは、偶に思い出してくれるだけでいいよ。それだけで十分。だから、幸せになってね」

 ヨウくんの目が大きく見開いていく。

 段々、顔がくしゃくしゃになって、目の端に涙を溜めて、彼は静かに泣き出した。

「ありがとう…」

 嗚咽混じりの言葉。彼が、自分を許した言葉。わたしを、過去に流す言葉。

 でも、いい。これでいいんだ。

 彼は生きる人だ。いつまでも、居なくなった人間に囚われちゃいけない。

 わたしは努めて笑顔を見せた。

「ヨウくん、元気でね」

 笑えているだろうか、泣いていないだろうか。彼を送り出せているだろうか。

 ダイニングチェアから立ち上がる彼を見上げる。

 目元を拭って、涙をこらえて無理した笑顔を作った彼。

「コヨミ…」

「なぁに?」

「大好きだ」

「わたしも」

 このやり取りもこれで最後だ。もう二度と交わされることはない。

 ヨウくんは、そのまま夢から覚めた。

 もうこの部屋には来ない。

 夢と現実の狭間のこの部屋は、これで終わりを迎える。

 わたしを過去に流せない彼が作った、わたしと、彼自身を閉じ込める部屋。

 でも、彼がわたしを過去に流したから、この部屋は消える。

 彼の罪悪感から留まったわたしも、これで…次へ向かえる。

 冷蔵庫に入れた冷たい朝食を食べる。

 ヨウくんの部屋に泊まると決まって出てきた朝食のメニュー。

 サラダは乾いているし、ベーコンはカリカリに焼きすぎて、卵焼きは甘すぎて、バターロールだけマシな朝食。

 でも、これがヨウくんの味なんだ。

「ちゃんと幸せになってね」

 甘いはずの卵焼きが、ちょっとしょっぱかったのは、気のせいだったと思いたい。

bgm:カトラリー 有機酸

上記を聞いてこの話を書いていました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ