「その体温は優しい匂いがした」
知り合いからお題を頂き、それにそってショートストーリーを書くっていうもので書かせて頂いた作品です。
ショートショートです。
楽しんでいただけると幸いです。
昔から、私は鼻がよかった。同族の誰よりも嗅覚が優れていると自負している。
その代わりなのか、他の感覚が鈍かった。
痛みや暑さ、冷たさを感じにくいのだ。
お陰様で、日向ぼっこのつもりで公園の芝生で寝そべっていたら、お察しのとおり熱中症にかかり、動けなくなったところを近くを通りかかった人間に助けられた、という顛末だ。
それまで野良として生活していたから、人間は警戒の対象であった。
動物病院という場所に運び込まれ、なにやらちくりとしたものを前足に刺された。
気は休まらなかったが、体は思った以上に疲弊していたらしく、その晩は動物病院で世話を焼いてもらった。
次の日になると、私の体は幾分かマシになった。
そのまま住処に戻れるかと思っていたのだが、そうは問屋が卸さないらしい。
私は、私を動物病院まで運んでくれた人間の元で生活を余儀なくされた。
なんでも、まだ熱中症の症状が残っているかもしれないから経過観察とやらが必要らしい。
確かに体はまだ本調子ではないし、住処よりもずっと涼しい場所で涼んでいられるので私は人間の好意に甘んじることにした。
私を保護した人間はまだ10歳にも満たない女の子だった。
その女の子と女の子の家族が総出で私を気遣い、食事や寝床を整えてもらえたのはなんだかむず痒がったが…。
女の子は私をよく観察して率先して世話を焼いてくれた。
次第に私は女の子に心を許すようになり、自発的に女の子の傍で身を休めるようになった。
女の子は私の変化を嬉しく思ってくれているのか、よく優しく腕に抱きしめるようになった。
「名前、付けなきゃね。黒猫さんだから、オシャレにノワールとかどう?」
眩しい笑顔と優しい手に包まれて、その日から私はノワールになった。




