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「なんで今思い出したんだろう。なんで今まで忘れてたんだろう」

知り合いからお題を頂き、それにそってショートストーリーを書くっていうもので書かせて頂いた作品です。

楽しんでいただけると幸いです。

ヴィンは雨が嫌いだった。

雨が嫌いな水棲馬で、雨の気配を感じ取ると住処にしている湖の底に潜ってしまう。

水流の音で紛れる雨音。光が差す湖の水面で波紋が幾つも作られていく。

こういう日は決まって思い出す。

湖によく遊びに来ていたあの子のことを。

随分前のことだ。人間の姿で湖の傍で休んでいたら、人間の子供がやってきた。

その子は名前をシャーロットと名乗り、よくヴィンのいる湖に遊びに来ていた。

シャーロットはヴィンのお嫁さんになる!とよく豪語していた。

彼女よりも長く生きていたヴィンはシャーロットの求婚を本気に取っていなかったし、お前には俺よりもいい旦那さんが現れるよ、と何度も言っていた。

やがてシャーロットは6歳から15歳になり、大人の女性らしさが出てきた。

シャーロットはその歳になってもヴィンのお嫁さんになると言っていたし、ヴィンもどことなくシャーロットを女性として意識するようになっていた。

言葉を交わさずとも、二人の距離は恋人のように近かったように感じる。

ヴィンはシャーロットが16歳になった時に改めて自分から求婚しようとしていた。

だが、16歳の誕生日を迎えたシャーロットはヴィンが見えなくなってしまっていた。雨の振る日のことだった。

妖精を見る力を歳と共に失ったのだ。シャーロットにはヴィンの姿が見えないし、触れることも出来なくなっていた。

「ヴィン…!ヴィン…!どこなの?どこにいるの…!?」

「シャーロット、ここだ!俺はここにいるよ!」


抱きしめようとしてもヴィンの体はシャーロットをすり抜ける。見えないことが、触れられないことが…こんなに辛いとは思っていなかった。

そのうち、シャーロットは湖に来なくなった。

やがて村の男と結婚したと風の噂で聞いた。

それから50年は経っただろうか。

雨音を聞くと、当時のことを思い出す。そして、思い出に囚われたままの自分が嫌になる。

もうシャーロットは戻ってこないというのに。


「ヴィン!わたし、ヴィンのこと諦めないから!絶対にヴィンのお嫁さんになるから!」


聞こえてくるのは記憶の中のシャーロットの声。


「ヴィン!これあげる、ヴァレンタインの贈り物!」


屈託のない笑顔で花束を渡してくれた、シャーロットの笑み。それを思い出して胸がきゅっと締まる。


「ヴィン…私がもし、ヴィンが分からなくなったら…私のこと忘れていいからね」


記憶の中のシャーロットは酷いことも言っていた。忘れるなんて、できないのに…。


「ヴィン、大好き!」


なんで今思い出したんだろう。なんで今まで忘れてたんだろう。


「ヴィン…私に囚われないで生きてね…」


その言葉を最後にシャーロットは湖に来なくなった。


「シャーロット、もう一度君に会いたいよ…」


もう一度会えたら…もう君に囚われないで生きていける気がする。

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