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「そんな貴方にはデルフィニウムの花を贈りたい」

知り合いからお題を頂き、それにそってショートストーリーを書くっていうもので書かせて頂いた作品です。

楽しんでいただけると幸いです。

サイマは祖国・エセンから奴隷として連れ去られ、ロマーナ帝国の貴族、ファルネーゼ侯爵に買い取られ、側室に召し抱えられた。

だが公務に追われる侯爵は屋敷にほとんど帰らず、サイマは夫となった男に会えぬまま侯爵の屋敷に住むことになった。サイマが逃げられぬよう足首に鈴がついた足輪をつけ、彼女は広い屋敷の中へ閉じ込められた。サイマの味方は誰もいなかった。

行儀の授業を終えサイマが宛てがわれた自室に入ると、テーブルの上に青く美しい小さな花と一通の手紙が置かれていた。

部屋の外にいる侍女の気配を確認し、努めて音を立てないよう手紙の封を開け、中に入っていた便箋を読んだ。


『このデルフィニウムの花をもって、部屋の窓へ近づけ』


短く乱暴に走り書きされた文章が綴られていた。

見覚えのある右上がりの癖のある角張った字…。

はっとして、自室の一番大きな窓に近づくとカーテンの隙間から腕が伸び、そのまま強い力で抱き寄せられた。

驚いて声を出すことも忘れたサイマが恐る恐る顔を上げると、ずっと焦がれていたその人が目の前にいた。

「ウェスレブ…」

右目に深い傷を負った隻眼の青年、エセンのメルリー海域を騒がせる海賊、ウェスレブだった。

「遅くなった」

彼にしては珍しい柔らかな笑みにサイマは泣きそうになった。

「どうやってここに…警備は厳重だったはず…」

「大変だったが、お前を連れ出すためだ」

言葉少なくウェスレブはサイマの抱えあげ、窓を開け放ち屋敷から逃げ出した。

同時に屋敷のあちこちから荒々しい足音や悲鳴が聞こえてくる。

「陽動だ。気にするな」

どうやらウェスレブの部下たちが屋敷内で暴れているらしい。時折、爆発音も聞こえてくる。

「…相変わらず、やることが派手ね」

「これでも海賊だからな」

なんてことないように言うウェスレブにサイマは微笑み、落とされないよう強く抱きついた。

どうやってここにいることを知ったのか、とか。どうやってエセンから海を超えたロマーナへ来たのか、とか聞きたいことは山ほどある。

それらを聞くのは逃げきれてからだ。

「ウェスレブ」

「なんだ?」

「ありがとう」

「…奪われたものを奪いに来ただけだ」

強引で無口で大雑把なウェスレブ。

サイマがこの人になら奪われてもいいと心から願った人。

走る速度を落とさず、屋敷の外で馬を待たせ待機していた仲間と合流するウェスレブ。そのまま馬に跨り、港町へ向けて走らせた。そこに船を停めているという。


この日、海賊ウェスレブがロマーナで侯爵の屋敷を襲い、側室を攫ったというニュースは瞬く間に広まったのだった。

襲撃された屋敷に慌てて戻った侯爵は一通の手紙と花を手にすることになる。


「傲慢なる侯爵殿。清明なる花を返してもらう」


サイマが手に取った手紙の裏にはそのように書かれていたそうだ。

デルフィニウムの花言葉は「あなたは幸福を振りまく」「清明」「高貴」「移り気」「傲慢」

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