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国王を最初に失った我が国は、呆気なく隣国に負けた。
それから、人身売買など後ろ暗いことを行ってきた貴族は隣国の法で裁かれ、また、今まで重税や奴隷制度に苦しめられてきた民は、隣国の法によって救われた。
私は、満足だ。
ようやく光が差した。ようやくこの国の停滞していた淀んだ空気が押し流される。
だから、隣国の王と王妃の御前に簡素なドレスで出されても、私の心は凪いでいた。
「そなたがカサハイン国の最後の王族か」
「左様でございます」
カサハイン国に一挙に集結した隣国の重臣たちの視線をビシビシと感じながらも、私は凜と返事をする。
ちなみに、私には兄姉が六人いた。もう処刑されてしまったようだが。あと、彼らのお母さんたちも処刑されたらしい。私のお母様は家格が低いことを理由に、私が幼い頃に他の妃に毒を盛られ死んでいる。
そんな私の家格が低いのにお父様に愛され続けた理由。それはひとえに魔法が使えたから。王族であろうと魔法が使える者は貴重で、だからこそ私はお父様から優遇され続けた。……まあ、それが火種で虐められることもあったが。
そんなことを考えている時に、隣国の王が二言目を発した。
「そなたに下される罰は決まった。……第一王子ユベールの使用人となれ」
「………………はっ」
あまりにも突拍子のないことに、私の口から息だけが漏れた。
なぜ? 疑問だけが止めどなく脳を回る。
だって、私は、あの国の王女である私は殺すに限る筈だ。隣国にとっても、いままで搾取され続けたカサハイン国の民たちにとっても。
現に、私以外の王族は皆処刑されているのだ。
私だけ、使用人として生き残るなんて。そんな甘い罰、あって良い訳がない。
私は『悪逆な王女』だった頃と同じように口を開いた。
「……陛下、発言をしてもよろしくて?」
「ああ、許そう」
私は、声が震えそうになるのを懸命に堪える。
そして、いつも通りの、自信満々な笑みを作ってみせた。
「私は、貴方たちに奴隷のような扱いを受ける気など、更々ありませんわ!
そのような扱いを受けるくらいなら、お父様たちと同じくあの世に私も送ってほしいです」
王が片眉を上げた。
そう、それでいい。不敬罪で私を処刑して。
そうしたら、ようやく私はあの名前たちを思い出すこともなくなるから。
「……そなたが使用人なのは、三カ月後にある戴冠式までだ」
「戴冠式」
この国を統治する王がいなくなったのなら、誰かがその代わりを務めなければならない。その者を国王として正式に認め、かつカサハイン国の民たちに紹介する為に催されるのだろう。
それは良い。正式に王が決まれば、その王が賢王なら、これほど嬉しいことはない。
……だが何故、そこまで私を生かしておく必要があるのだろうか。
思考を巡らしていると、ふいに靴音が聞こえた。その音は、まっすぐ私の下へやって来る。
私のすぐ側で止まった靴音の持ち主を探ろうと、私は顔を上げた。