命の重さ
人間を片付けるというのは大変な重労働であった。
重い肉の塊を引きずって掘った穴までもって行くのだが、手に残る柔らかな感触が何とも言えないほど気持ちが悪く、ああ、これが人間の感触なんだな、と言うような感じだ。すでに生きていた頃の面影はなく、落ち窪んだ瞳に目蓋は閉まっていない。また、ひきつった唇からは鳥のくちばしみたいに前歯が飛び出している。
これが人間の死。あっけなくて、あまりにも残酷にふりかかる。嫌だなぁ。死にたくない。
ふと見ると、砕けた頭蓋骨の内側に血管が張り巡らされているのに気がついた。中学生が作ったプリント基板みたいに複雑に絡み合った血管はどれも規則性を失って、まるで迷路みたいになっている。触るとブニブニとしていて、まだ脈打っていることが分かった。
驚くべきことに、感染者は頭が割れても心臓が停止していないのだった。てっきり、心臓は停止しているものとばかり思っていたが、感染の度合いによるものなのか、その人の抵抗力によるものなのか、死ななかった人間がいたのだった。
ここで問題となるのは、インフルエンザで亡くなる人もいれば、軽い風邪の症状だけで済んでしまう人もいるということだった。
案外、この感染者は自我を保っていて、自分の意思で攻撃してきたのではないかと推論を立てた。
どちらにしろ、俺には人を傷つけて苦しむ心は存在しないので、胸を開けて心臓も確かめてみた。
人間の心臓は、拳を握ったほどのサイズしかなかった。この小さなポンプが身体全体に血を巡らせ、命が終わるその瞬間まで仕事を続けるのだから、すごい。
触れてみると、まだ死にたくないというように、激しく脈を打つ。身体はもはや限界で、あらゆる臓器が壊死し始めていた。肺その物が溶け出してほとんど残っていない。
もう苦しまなくていい。そういう穏やかな気持ちで彼女に安らかな眠りを用意した。
命がどこかに行ってしまいそうなほど儚くて、その存在そのものが美しいと思った。
一瞬、怨めしそうな目が俺を刺したが、すぐに動きを止めた。
死んだ。眼球に触れても反応しない。
もしかして、死んだふりをした? 俺を騙すために?
……そうだとしたら、対策をたてなければ。




