生存者
家は悲惨なものであった。
何かしらの罰なのではないかと疑問になりそうなほどの有り様で、長年使い続けた飾り格子の玄関扉は半分にひしゃげて、随分、風通しが良くなっているようだった。
むわりと、この暑い中で腐敗の度合いが高くなった感染者の肉片から、腐れた匂いが立ち上って、触れそうなくらいである。
みるに、その肉の中には、子供用のソフトビニール製人形があって、妙に長い睫から真っ白な瞳が見えていて空を喘いでいた。
もちろん、家の中では空は見えない。
生存者を探して、押し入れの中で壁に顔を押し付けて固くなったままのぎんさんを発見した。彼は死んでいるのではなく、あまりのパニックに身体が硬直して動けなくなっていたので、抱き寄せても足がピンとした状態で金縛りにあったみたいだった。生存本能は人間より猫の方が上だった。
ふと、お風呂場のドアにドライヤーのコードが巻き付いていて開かないようになっているのを見た。不格好な結び目は子供が必死に結んだ靴紐のようで、縦に傾いている。
「誰かいますか?」
ほどいて中を覗くと、空の浴槽の中に黒い塊が膝を抱えているのが見えた。長い髪が腰まで伸びて、身体から痩せ細った手足がニョキりと伸びた、そのボサボサの髪の毛の中で目が合う。
「……こんにちは」
「生きてたんだ」
「うん……。多分。ここってあの世?」
しばらく見渡したが、昨日使ったシャンプーとボディーソープが同じ配置であるだけだ。できればあの世は楽園であって欲しい。
ところで、最近の人は死ぬことを怖くなったそうだ。話に聞く楽園よりも今の生活の方が質が良いからだそう。贅沢な話だ。
浴槽から抱き上げると、あまりにも軽くて、本当に生きてるのか心配になるくらいだった。
彼女の目は太陽の触れたビー玉みたいにキラキラと輝いて、目に俺の顔が写っている。そんなに抱っこされるの嬉しいのか?ケタケタと笑うガキィだが、まあ、もうしばらく一緒にいなくちゃいけないらしい。




