鷹の目ならぬ節穴
現地に入ったらまず、服装を変える。
降下したとき真っ黒な服装だったが、これを反対色に変えることで別人と思われる効果を狙う他、現地に溶け込む意味合いがある。
誰だって迷彩服を町中で着れば目立つもの。ここは都会であるから都会らしい華やかなファッションを心がけなければならない。
因みに、今は感染拡大の真っ只中ということもあって、軍用のドーランで服を汚しカモフラージュすることにも余念がない。
匂いが柔軟剤だと気を回すのを忘れたのが運のつき。
ビルを横切って脇道に入ったところで女に声をかけられた。
「あんた良い匂いがするね」
ドキリ。現地民だ。俺は茨城出身ゆえ、独特の方言が言葉に存在する。だからそれを気取られないように話さなければならない。
「洗濯機があったんですよ」
「どこに? 水も止まってる。嘘つくな」
そう。我が家は井戸水があるため水道が止まっていない。でも、大規模災害があった都市部ではインフラが途絶。夜だというのに電飾一つついていないという有り様だった。
「……どこからきたの」
「東と西の間から。それ以上は言えません」
嘘はついていない。我ながら完璧な答え。
「じゃあ急ぐので」
「ちょっと待ちなよ!」
こわいなぁ。陽キャというやつか、いきなり肩を掴んできた。
瞬間、頭の上を風が通る。ジュという音と共に、銃声が一発。ドボンというくぐもった音。サイレンサー装備。銃声と着弾が離れていない。かなりの近距離。やば。死ぬ。
汗が全身から吹き出す。
「今分かってる?死ぬとこだったよ?」
コクコクと頷いて命の恩人を見る。
不思議なもので、どんなに薄汚れていようと、カッコ良く見えるのだった。
「警察のスナイパーだよ。夜は外出禁止なんだ」
お、スナイパー。どこの部隊だろう。でも幸いにも俺はサバゲーマーだった。勿論、スナイパーライフルを使ったこともあるし、逆に狙われたこともある。
つまりそれは当たらないということであった。まして本日は夜。余程優秀な部隊でないと第二世代のスコープは搭載していない。つまり日本にはそんなものはない。さらに、スコープは倍率が上がるほど視界は暗くなる。
つまり、見えない。
そんなもの怖くない。
ビルの屋上を下から見上げるように見た。そこにはシルエットが写るはずである。人は、少なくとも見えないものを正確には攻撃できないのだから。
狩る側のふりをしたウサギはついに、そのエナメル質のヘルメットをキラリと反射させて屋上に陣取っていた。警察君さ。ほんとマジ、終わってる。
襲う側の余裕というものが感じられた。まわりを気にしていない。さらには、トイレにでも行っているのかスポッター不在の状況。そのくせ、こちらを見ながら撃っても来なかった。
弾が惜しいのか、腕がないのか。あるいは、人を殺すことを躊躇するような障害のある人間だと思われた。
要するに鴨。肉のかたまり、飯を食って糞を垂れ流す存在以外の何者でもなかった。
「ひよこちゃん、食べちゃうぞ」
ガブガブ。




