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渇望

 基本的に俺は人のふりをして社会を生きてきた。

 ドラマや映画の登場人物の所作を真似て物事を上手く進めようと努力したのだ。


 特に、自分が経験した事の無いような状況では、毎回焦ったように記憶を掘り返す。今回のこのような虐殺を行った後などは、必死に過去の自分にすがり、最終的には自分の記憶にある映画の殺し屋の真似をした。


 部屋で一点を見つめ、牛乳パックから直接牛乳を飲む俺を見て、玲子さんはどう思っただろうか。あの優しい彼女が、なにも写っていない黒いモニターに、座椅子へと腰を深く下ろした俺を見て何を思ったのだろうか。


 なぜ、俺がその映画の殺し屋の真似をしたかというと、その映画の冷酷なる死の使い手は、自分と同じように空気が読めなかった。そのくせ、観客からの人気を集めるキャラクターであったからだ。この僕でさえも、その顔を見ると親しみと、心の奥から感じるゾクゾクした、体を這い回る悪寒を得た。憧れていたのだと思う。彼らなきっとこうすると思った。


 どこまでも冷酷で、冷静な彼は、実のところは死というものにそれほど感情を持っていなかったのでは、と思う。他人が息をしている、という状態と同じように他人が息をしていない状態を捕らえているのだ。

 テレビ画面の向こうのアイドルを愛するように、テレビ画面の向こうの死を愛した。


 人を殺した事で一応は罪悪感を感じなければと思い、喪に服す。具体的には、彼らの家族を思い、親や、兄弟が帰ってこない彼らを待ち続ける無駄を思った。


 面倒だな。

 ああ、面倒だ。

 学校の先生は、俺に『自分の身になって考えろ』と怒鳴った。これは困る。何故ならば、自分が同じ状況におかれた場合、発生するのは純粋な怒りだけだったからである。

 この怒りは、相手を倒すだけでは飽き足らず、親子供まで根絶やしにしなければならないほどの純粋な殺意だ。


 だから、感じるべきは怒りだ。


 この世の中への怒り。


 抑圧してきた存在への怒り。

 社会、先生、警察、学校、医者。

 敵ならいくらでもいる。


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世界がこうなれば、公僕も信用出来はしない。
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