暴露
俺は玲子さんの首にナイフを突きつけていた。
首筋にめり込んだ銀色の刃がわずかに薄皮を割いてピンク色の肉がめくれ上がっている。
出血は、まだない。
「いいよ? 殺せば?」
「話がしたいんだけど」
「話?今何してるか分かってる?」
俺は人とは生きてはいけない。それは持って生まれた特性にある。
「俺は今、玲子さんを殺しても多分落ち込まない。もう気がついていると思うのだけれど、空気が読めない。皆がなに考えてるか分からないから丁寧に接している。」
「だからゴメンて言ってるじゃん!」
楽しみにしていたショートケーキが消えたのだった。ただのショートケーキじゃない。この世界で食べられるであろう最後のピュアピュアなショートケーキ。それも何かあったときのために冷凍保存していた虎の子をあろうことか、この人は俺に見せつけるように食べたのだった。
名前かいてなかったから食べたとのこと。
ちょっとまて。なんでこんなに人は残酷になれるのだ!?
俺の、楽しみにしていた、このゾンビだらけの世界のピュアショートケーキを!!!
「また作ればいいじゃん」
「俺が料理なんて高尚な技術を持っていると思うか?あ?」
「私できるけど」
「……」
「ケーキ作れるケド……」
マジでね、他の人と生きる理由。それは、自分に何ができて何ができないかだった。
俺は米から爆弾までの製作と、ちょっと武器が使える。
彼女は料理ができると言うのだった。
蛇が毒牙をしまうようにしてナイフを手に隠した俺は満面の笑みで彼女の説得にかかる。
「びっくりさせてごめんなさい」
「あんた頭おかしいよ!!なんで笑ってんの!?」
「基本的に笑顔は相手を油断させるために作っていると思ってほしい」
「あんまり私の目を見て話すな!怖い!」
俺は相手の気持ちを良く理解できないという特性を持って生まれた。だから相手の気持ちを知るために目を覗き込む癖があった。
湖みたいな目だ。透明な水晶体の向こうに黒い色素の光り受容体がある。レーザーセンサとほぼ同じ構造。
俺は人間といるとストレスを感じてしまう。ヤマアラシもびっくりの、寄り添うこともできない化物だった。
だがたまたま、この世界では無敵だった。
ドン引きしながらケーキ作りに取りかかってくれたナカマの背中を見ながらそんなことを思った。




