表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/118

映画館

10月14日 晴れ


 今日はストレス解消のために映画を見に行ってきた。

 家でDVD を見れば良いじゃないと思われるかもしれないが、あの空間からしか得られない幸福があるのだった。俺は、家の音響だと我慢できないたちだった。とくに、腹を揺らすような重低音は映画館の方がずっとリアルだ。その点、我が家のホームシアターは比べるべくもなくお粗末だった。


 映画館は町の中にあった。駅近の商業施設の複合体の中にあったその映画館は、大変にたどり着きにくいものであった。


 まず、駅は閉鎖され、ホームには人が沢山いらっしゃった。感染初日に駅は感染封じこみを目的として駅のシャッターを下ろした。本来それは洪水等の災害や、浮浪者が駅のホームを根城にしないようにするためのもので、健常者を閉じ込めておくには強度不足だった。


 鍵付きのドアを蹴破って、あるいは駅のホームから直接下の道路へと飛び下りた乗客の中には感染者がいて爆発的に広がった。

 それでも駅に残る決断をした人々は、そこで感染して今も、さ迷える死体となって闊歩していた。


 飛び下り防止の目的でホームには自動開閉式の柵が設けられている。当然、食えるものは無くなるなかで、感染者達はハトに目を付けた。そこには多量の羽が中を舞っていた。

 満員状態で停止したままの電車はもっと悲惨で、スモークガラスのようになった窓から辛うじて動く壁が見てとれた。


 共食い。まさに、コドクのような惨状である。なかでも強い個体が弱い個体を食べて生きている。絶対に開けてはならない。


 ゴミだらけの改札口を抜けて暫く、ライブのポスターが地面に落ちていた。駅前の庇の下ではライブパフォーマンスをしていたらしく、そのまま楽器が放置され、そのまわりには大量の感染者の姿があった。


 セーラー服を着ている人も、ベビーカーを押している人も、スーツを着た人も、警備員風の格好の人もいたが、皆一様に目が白濁とし、身体からは夏の掃除されていない公衆トイレのような異臭を放ち続けていた。有り体に言えば、ウンコ臭かった。


 空だけは雲1つ無い青空だったのだが、どこからかヘリコプターの羽音がする。

 感染者がその音に気を取られている隙に横を走り抜け、大階段の前まで到達すると息を飲んだ。


 持っていた鉈を落としそうな程驚いた。


 その日、ここではフリーマーケットをやっていたらしい。

 ひきたおされ、血塗れとなった露店商が10個あまり、そこに400人ほどの人がひしめき合って右に左にと揺れていた。


 こちらに気がつけば構わず向かってくるだろうと思った。


 手すりに立って、商業施設の2階のバルコニーへとすがり付き、そこから中へと侵入した。


 ここは商業施設である。当然そこは営業中であった。そう、あの日も。


 むしろ店内の方が致命的であった。

 店のショーウィンドーでは、ガラスに写った俺に噛みつこうと血塗れのババアが飛び上がってベチリ!と音を立てた。その音を聞き付けて、死んで尚もショッピングカートを押しているおば様が一瞬にしてこちらを見た。


 おいおいおい。まずいって。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ