体調不良の人間に嫌味を言うパート達に反抗してみた2
いつものことだったのだろう。道野に嫌がらせをしてやろうと軽い気持ちで手伝いの高校生バイトを巻き込んだ3人組は、奏介の容赦ない言い返し方に面食らったようだった。
「す、菅谷君」
道野の戸惑ったような声。奏介は全力で睨みつける。
「は? 賠償? 難しいこと言えばビビるとでも思ってんの?」
三十代の勝ち気そうなパートがすぐさま、噛みついてくる。不意打ちの効果はあまりなかったようだ。
「頭が足りなくて理解できなかったなら、簡単に説明します。今の時代、体調が悪いっつってる人間を無理やり働かせて良いと思ってんのかって言ってるんですよ。被害者が自殺しただの、訴えただのやってるでしょ。この状況パワハラでしょ」
三十代パートは言葉に詰まったようだ。と、四十代パートが割り込んできた。
「ちょっと! 何がパワハラよ。そこの道野さんはね、よく休みを取って旦那と遊びに行ったりしてるんだから。今日もどうせそうなんでしょって話」
「休み取ってるんだから、遊びに行こうが何しようが道野さんの勝手でしょ。なんで仲良くもないあなたみたいなのが道野さんのお休みの過ごし方に口出ししてるんですかね? あなたが道野さんの生活費でも出されてるんですか? そうじゃなかったら関係ないでしょ。気持ち悪いな」
「な……! なんですって!?」
「そもそも休みと体調不良での早退を一緒に考えてるのは、どういう理論なんですかね。明らかに辛そうだし、熱が出てきたって言ってるのにグチグチグチ文句言っちゃって。普通、早く帰れって怒るでしょ」
五十代パートが前に出る。
「道野さん、お休みが多いのよ。今日もサボりなんじゃない?」
「周り見えてます? 現場が回らないから無理して出てきて、やっぱりダメだから手伝いのバイトを呼んで、欠員を補充出来たから、彼女は今帰ろうとしてるんです。サボる時なんか、電話一本で済むでしょ? 他の日はどうかしりませんが、今日は道野さんの体調が悪いのは明白です。疑う前に状況を見て判断して下さいよ。何年社会人をされてるんですか」
カッと五十代パートの顔が赤くなる。
議論に持ち込んだものの、パート達の目的はただの嫌がらせなので、理詰めされると言い返せなくなるのだろう。
(これだから、大人のいじめっ子は)
奏介はイラ立ちつつも、続ける。
「ていうか、このまま道野さんがシフト通り勤務を終わらせて、病院に行ってインフルエンザとか診断されたら、あなた達どうするんですか? 他の店の人達に『道野さんを無理矢理働かせてたのは自分達です。インフルエンザが皆さんに感染っていたらごめんなさい』とでも謝罪するんですか? しないですよね。どうせ、道野さんがインフルと知らないまま出勤したことを責めるんでしょ?」
悔しそうに睨んでくる三人。完ぺきに
図星なのだろう。
「そ、そんなの。その時にならなきゃ分からないじゃない!」
「その時にならなきゃ分からんから、念のため帰ってもらったほうが良いでしょ。てか、体調悪いって言ってる人に対してよく陰湿なイジメをしようと思いますよね。何考えてるんですか?」
「は? イジメなんてしてないわよ」
「んなわけないでしょ。何を今さら責任逃れしようとしてるんですか。パワハラの証拠を取ってあるんだから惚けても無駄です」
三人は録音されていたことを思い出したのだろう。はっとして顔を見合わせる。
「……あのさ、それ勝手に録音したってことだよね? 偉そうにしてるけど、ストーカーみたいじゃん」
「確かに、気持ち悪いわよね」
「本当は、何に使う予定だったわけ? 女子トイレとか?」
馬鹿にしたような言い方。すると、道野がさすがに耐えかねたようだ。
「待ってください……彼はお手伝いに来てくれてるのにそんな言い方」
五十代パートがふんと鼻を鳴らす。道野相手には強気になるようだ。
「そもそも、道野さん? あなたが体調を崩すようなことするからこうなってるんだからね?」
「! は、はい」
強気になったものの、道野は再びしゅんとしてしまう。
「はぁ。体調不良で人が弱ってる時にそうやって嫌味を言うって恥ずかしくないんですか? 赤ちゃんに暴力振るう親と同類ですよ」
「っ! 赤ちゃんは関係ないでしょ? 話をそらさないで」
「体調不良なんて誰でもあるでしょ。それを責めるってあなた風邪引いたことないんですか?」
「体調管理はしっかりしてるから」
「馬鹿は風邪引かないって言いますけど、本当なんですかね」
間髪入れずに返され、押し黙るパート。
「てか、あなたの理論だと、例えば病気で入院してる人達は全て本人の体調管理の問題だとほざいてるわけですよね? 頭大丈夫ですか? 癌闘病中の方に食生活が悪いとか平気で言えるんでしょうね。いやぁ、酷すぎる。クズですね」
「だ、だから、話をそらすのを止めなさいよ。道野さんの話をしてるのに」
「そうそう、がん患者とか知らないし」
「例え話がお嫌いなら、ストレートに聞きますけど、道野さんに体調管理の問題を説教して、あなた達は最終的にどうしたいんですか?」
「は?」
「だから、道野さんを責めて無理矢理働かせた後、道野さんにはどうなって欲しいんですか? 最悪、あなた達の対応が原因で辞める可能性があるのに。辞めさせたいってことなら、この場で道野さんに直接言えば良いんじゃないですか? 邪魔だから辞めろって」
「そうね」
三十代パートがため息。
「邪魔だから居なくなって欲しいってのが本音かしら。旦那と2人暮らしで楽しそうにしてんのがムカつくから」
「はぁ? 人手不足のこの状況で何言ってんすか? まさかの私情? ただのパートでフルタイムじゃないくせに、道野さんのカバー出来んのかっつーの。現場回ってねーのに偉そうなこと言ってんなよ。仕事なめてんじゃねーぞ」
「うぐっ……。あ、あんたが直接言えって」
「いや、そう言われて従っちゃうのヤバくないですか? 頭回ってないんですね」
三十代パートは床に足をダンッとつけた。
「じゃあ、辞めてやるわ! こんなところ」
「責任ないパートって凄いですねー。パワハラの末に逆ギレ、正論言われて尻尾を巻いて逃げると」
奏介は鼻を鳴らした。
「高校生バイトに怒られちゃったら立場ないですもんね」
「あんた、そういうこと言っていいと思ってんの? 訴えるからね」
「じゃあ、パワハラの証拠でこちらも然るべき対応させてもらいます」
その瞬間、三人の表情が恐怖に変わった。勝てない、と悟ったのだろう。
「し、仕事戻ろう。こいつ、頭おかしい」
「ヤバイよね。行こう」
そそくさとフロアへ戻って行った。
「道野さん、後のことは俺に任せて帰ってくださいね」
「いやいやいや、君凄いね!? 強くない!?」
壮絶な奏介の対応にちょっとだけ元気になった気がする。
「ああいう調子こいてる輩は許せないので」
奏介はため息を一つ。
「まぁ、でも辞めちゃうかも知れませんね。店長に謝っておかないと。申し訳ないです」
「……あの人達辞めたら、もしかすると上手く回るかも」
「え?」
「なんかこう、派閥みたいなの作ってて、この人とは仲良くしちゃ駄目とかあの人は無視してとか色々ルール作ってたから。辞めちゃった人もあの人達が退職したら、戻ってくるかも……」
「なるほど。うちの職場にもイジメして新人さんを辞めさせる奴がいたことがあるんですけど、いなくなったら雰囲気が変わったのでそうかもしれませんね」
高平の顔を思い浮かべる。
(あいつはなんかいつの間にか成長したけど、あの3人は無理そうだよな)
仕事終わり。
迎えに来た高平の車に乗り込んだ。
「どうだった? やべえおばさん達がいたんだろ」
「ちょっと頭が軽かったな」
高平はゴクリと息を飲み込んだ。
「まぁ、その……だよなぁ……」
高平が遠い目をしていた。




