体調不良の人間に嫌味を言うパート達に反抗してみた1
とある平日。
桃華学園は学校の事情で午後の授業がカットになった。奏介がバイト先のスーパーに、少し早めにシフトに入れると連絡すると、別の場所に手伝いに行ってくれないか、と頼まれた。
とりあえず、スーパーに着いて店長に話を聞くことにしたのだが。
「え、隣町ですか?」
「ああ、うちの姉妹店で1ヶ月くらい前にオープンしたんだけど、今日従業員が1人休みなんだってさ。駅近で夕方から夜にかけて忙しいから菅谷君、お手伝いに行ってもらえないかな?」
「1人休みって、そこのメンバーでなんとかなりません? 人数ギリギリなんですか?」
「いや、それが。なんとかなってるんだけど、風邪気味で体調が悪い人が無理して出てきててね。帰らせてあげたいらしいんだよ」
「あぁ、なるほど」
人数はギリギリ、体調不良の従業員が帰ると、現場が回らなくなるのだろう。
「あ、でも隣町だと」
「大丈夫、高平君に車で送らせるから。丁度、お客さんが少ない時間だしね」
「分かりました」
それなら交通費もかからないので、奏介の負担は最小限だ。
着替えなどを準備して、隣町へ向かうことになった。
「なんで、オレが送り迎えなんだよ」
平日の昼間。道はかなり空いている。運転しながら、運転席で不満そうにする高平、奏介は荷物を抱えながら、助手席で息を吐いた。
「仕方ないだろ。俺は運転出来ないんだから」
「マジな反応するなよ。分かってるっつーの。てかさ、お前ピンチヒッターで行くの?」
「そう聞いてるけど。なんだよ」
含みのある言い方だ。
「店長め」
高平、舌打ち。
「まぁいいや。実は隣町のスーパー、従業員同士でいざこざがあってさ。人間関係が結構ヤバイ状況らしい。さっき、車の中で説明してくれって言われたんだ。手伝いのスタッフに何か嫌がらせするとかはないと思うけど、気をつけてってさ」
「ああ、そういう」
簡単に言うと、イジメがあると分かっている職場に手伝いに行かされる、と。
「まぁ、店長は菅谷なら半日くらい大丈夫だろって思ってんじゃね?」
「あぁ、ただの手伝いだしな」
手伝いに行った現場では、仕事の仕方が分からないのは当然のこと。言われたことをこなしていれば良いのだ。ある意味楽ではある。
現場のスーパーに着いて、高平はすぐ戻ることになった。車で20分ほどだった。
「んじゃ、夜にまた迎えに来るわー」
「ああ、よろしく」
現場へ入ると、隣町スーパーの店長自らが迎えてくれた。
「菅谷君、だったよね。バイトだっけ。今日はありがとね」
「いえ。半日、よろしくお願いします」
簡単な挨拶をして休憩室に通される。そこにはマスクをした三十代くらいの女性がぐったりして座っていた。
「あ……」
奏介の顔を見て、動揺する彼女。
「ああ、道野さん。こちら、菅谷君。隣町のスーパーからお手伝いに来てくれたんだ。今日はもう上がってくれて良いよ」
「! ……ありがとうございます。そちらも忙しいのに」
道野が頭を下げる。
「今日、俺はシフトに入っていなかったので大丈夫ですよ」
「じゃ、菅谷君。道野さんの後ろにあるカーテンを閉めて、着替えてね。ロッカーは2番を使ってもらえる?」
店長はそう指示をして、すぐに出て行った。
「……じゃあ、その、お言葉に甘えて、上がりますね」
「はい。気にしないで下さい。お大事に」
すると道野の目に涙が浮かんだ。じんわり涙目。
「あ、ありがとう」
相当辛かったのだろうか。体調が悪い時はメンタルをやられるから分からなくもない。
着替えて来ていた奏介は2番ロッカーに荷物を閉まった。
すると、ふらふらと道野が休憩室を出て行くところだった。
「大丈夫ですか? ご家族のお迎えとかは」
「旦那は今日仕事なので……でも家は近いから大丈夫」
奏介は休憩室のドアを開けて上げた。
「ありがとね」
女性に下手に触れられないものの、従業員口まで見送ることにした。
通路を歩いていると、後ろから声がした。
「え、ちょっと、ほんとに帰んの?」
「えー……? ただの風邪なんでしょ?」
「辛いアピールまでしちゃってサボりじゃない」
道野の肩がビクンッと揺れる。見ると、彼女の額に汗が浮かんでいた。
奏介はそれを確認して振り返る。
「ねー、道野さん? 挨拶もなしに帰んの?」
パート三人組。それぞれ、30代、40代、50代前後だろうか。寄せ集め感が凄い。
「す、すみません。やはり体調が悪くて。少し熱っぽくもなってきたので、上がらせて頂きます」
「子育てしてるわけでもないのに、自分の体調不良で帰るとか。大人のすることじゃないわね」
「体調管理出来てないのよ」
「旦那って自動車メーカーの役員なんだっけ? これから仕事すっぽかしてデートとかなんじゃないのー?」
道野はプルプルと震えている。
「あの、違……か、管理できてないのはすみません。き、季節に変わり目で。治ったら、出勤して取り返しますので……よろしくお願いします」
奏介が一歩前へ。
「道野さん、本当に体調が悪いんだと思いますよ。今日は俺がお手伝いに来たので代わりに入りますので」
にこやかに言うが、三人組は馬鹿にしたように奏介と道野を見る。
「ふーん。なら、道野さんそのバイトの子に仕事教えてから帰ってよ。代わりに入れるなら」
「え……」
道野の顔色が青くなる。
「それ良い。あたしら、教えなくて済むし」
「手伝いのバイトなんか邪魔なだけなのにねー」
「抜けるなら、それくらい責任取るべきでしょ」
道野は震え始めた。涙を浮かべる。
「わ、分かりました。も、もう少しの、残ります。菅谷君にお仕事を」
奏介が道野の前に立った。
「ではあなた達の言う通り、道野さんには残ってもらいます。ただし」
奏介はスマホをタップ。録音された音が流れ出す。
『「す、すみません。やはり体調が悪くて。少し熱っぽくもなってきたので、上がらせて頂きます」
「子育てしてるわけでもないのに、自分の体調不良で帰るとか。大人のすることじゃないわね」
「体調管理出来てないのよ」
「旦那って自動車メーカーの役員なんだっけ? これから仕事すっぽかしてデートとかなんじゃないのー?」
「あの、違……か、管理できてないのはすみません。き、季節に変わり目で。治ったら、出勤して取り返しますので……よろしくお願いします」
「道野さん、本当に体調が悪いんだと思いますよ。今日は俺がお手伝いに来たので代わりに入りますので」
にこやかに言うが、三人組は馬鹿にしたように奏介と道野を見る。
「ふーん。なら、道野さんそのバイトの子に仕事教えてから帰ってよ。代わりに入れるなら」
「え……」
「それ良い。あたしら、教えなくて済むし」
「手伝いのバイトなんか邪魔なだけなのにねー」
「抜けるなら、それくらい責任取るべきでしょ」』
スマホの再生ボタンをもう一度押す。
「体調不良の人間に仕事を強要したことを証拠に取ったので、道野さんの症状が悪化して、どうにかなった時は責任取ってもらいますよ」
三人組が固まる。
奏介は目を細める。
「分かってますよね? こんなフラフラな状態の道野さんに何かあったら、その時は全てあなた達が、賠償するんですよ。それで良いんですよね? 分かりましたよね?」
体調不良の時にキツイこと言われた記憶は一生忘れません(笑




