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第65話(許さない)

 あたしが許さない――


 ジットリと、嫌な汗が寿也の背中を伝う。さわやかだった風は、緊迫した空気に変わっていた。

「僕は……」

 寿也の握る手が、震えていた。やがてそれは広がって、口元も、足も、目も耳も。全身が、小刻みに震え出していた。

 寿也の中のものが、我慢できないと苦しく飛び出そうと騒いでいた。

「 母 さ ん が 無 事 な ら …… !」


 パンッ。


 寿也の頬が叩かれた。「甘ったれんじゃないよ!」……


 ……


 しばらく2人とも動けず、時間が流れた。

 寿也をにらみながら、声を張り上げる母。眉をつり上げ、しんに迫る。

「もう帰んなさい。あんたを皆が待ってる。心配して待ってる。あたしゃ嬉しいよ、自分の息子がこんなに皆に愛されて。この、ぜいたく者」


 母強し。寿也は目をこすった。

 しっかりと立って、スタスタとドアの方へ歩み出た。そして母親の方に振り返って……。


「くそばばあ!」


 ……。


 ピシャンッ。

 ドアを乱暴に開け、出て行った。バタバタバタと……走り去る音が段々と遠く。

 いつの間にか窓の外の日は あんなに高く。光は熱線となって、地上を照りつける。

 逆光となった母親の顔は真剣に。

「早く帰れ、寿也。もうすぐココが、火の海になる……」


 声を押し黙らせ……泣いた。



 病院を出てから真木たちが待つタイムマシンへと戻るまでの田んぼ道。カエルの合唱がやかましく、トンボが空を忙しく。青空は白い雲や風を自由に遊ばせて、陽気さを演出していた。

 寿也の気持ちは歩くたんびに だいぶ落ち着いていったが、それでもなかなか思考と感情はおさまりきらず苦しんでいた。

 怒りよりも悲しみ。悲しんだ後はまた怒りが、寿也を襲ってくる……。


(せっかく助けに来たのに……「もう帰れ」か……)


 怒りと悲しみシーソーが続いていると、やがて歩いている道の先 向こうから元気な声が聞こえてきた。

「寿也ー!」

 手をブンブン振っている。おしゃぶりはしていない。

 真木だ。それから隣に真。2人とも、寿也に笑いかけながら「おかえり」と言っている。


 寿也は小走りに駆け出した。

 さっき言われた言葉が、背中を押しているかのように。足が、寿也を真木たちの待つ所へ連れて行く。



“あんたを皆が待ってる。心配して待ってる。

 こんなに皆に愛されて。この、ぜいたく者――”




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