第20話(常野真現る)
「初めまして。ジュリエール真木ちゃん」
人なつこそうな顔。パーマな長髪を一つに束ねている。先生と同年くらいだ。
「もしかして謎の妖精さん……」
「当たり。メシおごってとか言いながら、よく考えたら岩生の安月給じゃ可哀想だった。ので、今夜はスキヤキを持って来てみました」
やっぱり。聞いた事のある声だと思った。あたしを劇の本番前、励ましてくれた あの謎の声の主だ。
常野真。
先生の友人。2人は先生がラブリーベイビー時代からの、幼なじみ同士。
そして……彼はミルキー星人。
「オーストラリアから はるばる、戻って参りました」
と、先生の横で自己紹介をした。
ちょうど今夜は鍋にしようと先生が言っていた所だったので、用意する手間が省けた。四角いコタツ机の上の鍋をあたし、寿也、千歳くん、真さんが囲む。先生は真さんの横で机の角。
「ゲストとレディが優先だ」と言われ、どけられた先生。
……今度、丸い机を買おうよ、先生。
「真木ちゃん、寿也くんはカレシ?」
いきなり肉をつまみ上げながら真さんが言った。あたしの箸からマロニーが滑り落ちた。
「違うっ」
……3人同時に声を上げた。3人とは、あたし、千歳くん、先生。寿也は、ネギを口に入れた。
別に大声をそれぞれ発したわけでは無いけれど、ちょうどピッタリ同時に声が合ったので、断然拒否に聞こえた。
「何だ岩生。まさか真木ちゃんを一生嫁に出さないつもりか親ばか」
と真さんは薄い目をした。
「真木が認めた男なら、俺も寛容に受けとめよう。けれど2人はただの友達だと聞いている。それより何でお前、由高がそうだと思った? 千歳くんも居るのに」
先生はゴッソリと肉の塊をいっぺんに口に入れた。モグモグ。
真さんは「実はな……」と腕を組んで考えていた。しかしやがて話し出す。
「まあいい。暴露しよう、由高くん」
「はい」
「君の事を調べさせてもらった」
「はい?」
寿也の箸が止まった。
「プライベートな事はココでは伏せとく。とりあえず言っておきたい事は……君、賢いな。色々と驚いていた」
寿也の顔が強張る。色は変わらなかったが。
そして。
「まさか あの時のコオロギ」
と、言いながら睨みつけた。
コオロギ?
「勘も鋭い。君には感心してばかりだ。そう、俺はあの時のコオロギ」