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[36]魔法少女と共に

 つまびらかにされる学園のヒロイン、津島深央の隠された正体。要するにかなり起伏の激しい女の子ってことらしい。ついでに、ちょっと変わった性癖を心の奥底にしまっているってことも。


 ちなみに浅見さんの説明によると、時々ボロを出しそうになるのを演技で誤魔化しているんだって。いや――そんな演技をできること自体、凄いことだけど。


 まぁ、この件に関しては一件落着なのかな?

 そうなると、残るは目の前にある問題だけか。そいつを何とかしないとボク達に未来は無い。現在の状況を確認しようと、アヤメに声をかける。


「で、残りの〈ストリングス〉はあとどれくらい? 終わりそうなの?」

「それが姫様……あれ、見てください……」


 アヤメの指さす方を見て、ボクはポカンと口を開けたまま凍りつく。それはずっと向こうまで伸びる送電線、それを支えている鉄塔の一つ。そいつに巻きつく巨大〈ストリングス〉だった。


「何だよ、あれ!?」

「はい。次々と集まっては絡みつき……ナント! いつの間にか一つに合体してしまっていたんですっ!」

「あは、あはは……」


 河川敷の鉄塔を足場に、まるで小山の様になっている〈ストリングス〉の姿を見て力なく笑うしかなかった。そんなボクを前に、アヤメはすがるような目で戦況報告を告げる。


「もう、巨大になり過ぎて、攻撃も何も受け付けないんですぅーッ!」

「こんな所でのんびりしている場合じゃないだろーッッ!」

「そうなんですーっ!」


 いや……でも、ありがちのパターンと言えばそうかもしれない――もっとも、それは創作の世界での話だけど。そっち方面には多少明るいボクが言うんだから間違いない。

 敵味方入り乱れてぐちゃぐちゃの状況。ひっちゃかめっちゃかになって、事態の収拾がつかなくなってしまった時、とりあえず敵を一つにまとめた上で、状況の打開につなげる――そんな手法だ。

 で、そいつはやたら強いけど、それさえ何とかしてしまえば無理矢理問題を解決できる。B級映画なんかによくある終盤の展開。で、そのフラグが今、立ったってこと!


 そう、フラグだ! お約束だ! ご都合主義の権化は、ボクの口を借りてこう告げる――。


「よし! じゃあ、こっちは巨大ロボを召喚して戦うんだね!」

「そんなものはないですーっ! しっかりして下さい、姫様!」


 あ――そうなんだ。残念。仕方が無いので、ちょい真面目に問いかける。


「じゃ、どうするんだよ? 勝つ見込みは?」

「それが……」


 心配そうな顔をしたボクに、まず津島さん。


「マナの量が残り少ないわ。後……二、三回大技を出したら底をついてしまう。でも、アレを相手に全然足りない……」

「私も同じようなものだわー」


 相槌を打つのは浅見さん。相変わらず能天気な喋り方だったが、それとは裏腹に、彼女の言葉は絶望的な状況を伝えていた。


「私は……さっき言いましたように、強力な攻撃は出せないですー」


 香純ちゃんは防御担当だった。攻撃魔法は――。


「ワタシの場合、強化防護服の残りエネルギーは多少ありますが……でも、アレに有効な攻撃を出す術を持ってないです……」

「あれ、アヤメ? キミの持っている〈ルナケフリ〉とか言う武器は?」

「連射し過ぎて、オーバーヒートしてしまいました……というか、そもそもあんな巨大な怪物相手ですと……たとえ儀仗兵器と言えど、数百発は撃ち込まないと話にならないです」

「オーバーヒート……何か、物凄く昭和的でロートルな響きだぞ? これで本当に異世界の超技術なのかよ……」


 異世界のテクノロジー、要するに魔法もどきの胡散うさん臭い科学技術も遂に音を上げたらしい。つまり、お手上げ状態……どうするんだよ!?

 まるで終電の過ぎた見知らぬ街に、財布も無しに放り込まれたような気分。そんな思いを胸に彼女達を見渡す――と、その時。不意にアヤメと目が合う。


「それで……なのですが」


 突然――そう、突然だ。アヤメは思いもよらない行動に出る。彼女は膝をつき、ボクの前にかしずく。


「我が王国を統べし王家の御子、栄えある王女殿下。正当なる第一王位継承者にして、我が親愛なるミヤコ王女――」

「???」


 突然のどうしたんだアヤメ? あまりに急なことで、ボクは言葉が出ない。しかし、彼女の言葉は続く。


「――たった今、御生還成なされたばかりの御身。無理は重々承知の上、お願い申しあげたい儀が。今一度、我らの命を御救い願いたく、臣下たるこのワタシ、第一近衛師団所属、アヤメ=ジーノからの、心よりの情状にございます」


「ちょっと、アヤメ!?」何を――言っている?


「王国に仇なすあの怪物、あれを御自ら、王家の力を持ちて滅せられんことを!」

「王家の力……って?」

「はい、姫様! 出会ったあの日、私を救っていただいたのと同じ技です――ハガルイスラグティールウル――そう、あの大技です!」


「でも……」そう言われても、ボクは躊躇を隠せなかった。「あれは強力すぎて、結界すら破ってしまうんじゃ? それが原因で何人もが亜空間に飛ばされたっていうのに……」

「それについては……ワタシ達が、受け止めます!」


 アヤメの言葉に、津島さん、浅見さん――そして香純ちゃんが頷く。


「私達四人が、異形のモノを挟んで果無さんの対角に……防御魔法を全力で展開するわ。四重の防御魔法、それで受け止める」

「ちょっと! それで受け止められなかったら!? キミ達はどうなる?」

「そうならないように、がんばるわ……」

「…………」

「姫様?」

「アヤメ……?」

「これしか、無いんです。そうしないと、私達も、この世界の人達にも、未来はありません……実は結界も、もうすぐ切れそうなんです……」

「そう……なのか……」


 他に選択肢は無かった。そう、魔法少女――いや、機動歩兵かな?――になったボクに、これ以外の選択肢は無かったんだ。それはきっと、アヤメと出会った時から、運命の歯車で決められたことわり。ラプラスの悪魔によっていざなわれた決断の時がボクの目の前、今ここに現れた――そう確信する。


  **


 ボク達は行動を開始する。ボクを残し、四人は飛び立つ。彼女達は巨大〈ストリングス〉の脇を四手に分かれて掠める。

 怪物は彼女達に気を取られ、ボクには気付かない。それが放つ鞭のような攻撃に何度も当たりそうになる魔法少女達。その度クルリと身を翻し、紙一重でかわす。


 やがて、彼女達は怪物の向こうへと消える。そして〈ストリングス〉の足元から幾つもの魔法の蔦が伸び、それを絡め取る――そう、これが合図だ。


 三人の魔法少女と一人の機動歩兵は怪物の動きを封じる。そしてもう一人の機動歩兵(ボク)は動きの止まった怪物に向け、最強の攻撃をぶっ放す。たった、それだけのこと。


 でも、その先には大切な人達の命がかかっている。失敗は許されない。


「召喚……æ(アッシュ)(シゲル)(ケーン)!」


 目の前に現れた錫杖しゃくじょうを手に取る。それはアヤメと見たあの映像――エーデルワイスの衣装に身を纏った王女、封印を解かれたばかりの少女が手にしたのと同じもの。

 アヤメが言っていた――それは生命と暦を司る祭祀兵器。コアとなるのは特別な対称性を持つ結晶体。百年以上の歳月と王国の全精力を傾けながら、しかし五本しか製作できなかったとされる〈多次元ペンローズ・パターン型高次対称性結晶体〉だった。


 その結晶体に、呪文とボク自身の“能力”を媒介にしポテンシャル変動を与えることで生み出された結晶格子に対する“対称性の破れ”。南部ゴールドストン・ボソンの奔流は、特別な再帰構造を持つ結晶格子の特異点で同時多発的な相互干渉を引き起こし、ヒッグス場を揺さぶり、時空そのものに対して一種の共鳴現象を導く。

 その結果もたらされるのは強大なエネルギー。それはこの宇宙の摂理さえ歪め、そして飲み込むことができた。その覚悟を胸に姿勢を正す――背筋を伸ばし、ボクの背丈よりずっと長さのある錫杖を怪物に向ける。


トネリコ(アッシュ)よ、邪を滅して均衡を維持せよ。母なる浄罪の力を持ちて――ハガル・イス・ラグ・ティール・ウル――」


 錫杖を中心にいくつもの光が乱舞する。纏っているエーデルワイスの衣装――否、強化防護服パワードスーツ。そのアシストに従い錫杖の角度を微調整――意識を集中する。

 数メートル間隔、空間に現れる光の輪。それは力の奔流を導く照準。慎重にそれを操る――みるみる収束していく照準。

 狙うのは〈ストリングス〉のど真ん中。少しでもズレれば展開された防御魔法を弾き飛ばし、ボクの大切な人達もろ共、この世界から消し去ってしまう。



「――みんな、しっかり受け止めてくれよ――穹双枝聖骸ウィッシュボーン・アッシュ ~ 発動エーリィ!」



 力は放たれた。一直線に伸びる質量を持った光。この光を中心に、この世界は真っ白に輝く。

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