[37]再遭遇(エピローグ的な何か)
「アヤメーっ、準備はできたー?」
「はい姫様ーっ。では新しい一週間の始まり憂鬱な月曜日、学校に出かけましょうーっ」
いつもの恒例、朝のドタバタ。制服に着替えたボク達二人は声を掛け合う。
「もう女の子達はみんな亜空間から救ったんだし、今週からはのんびり出かけてもいいんだけどね」
「はい! でもまぁ、人の少ない教室でまったり過ごすのも良いモノです!」
そう――津島さん達の協力もあって、この週末で任務完了。残る二人の女の子も見つけ出すことができたんだ。そんな解放感を感じながら玄関を飛び出したその時――。
「じゃ、いってきまーす……って、あれっ!!」
「おう、ミヤコ。学校か」
玄関の前で鉢合わせした人物――それは、ずっと出かけていた父さんだった。
「留守にしちゃったわねぇ。あら、アヤメちゃん。御苦労さま」
母さんもその後ろに立っている。アヤメに気が付くと、笑顔で手を振りだす。
「あわわ! 王様、王妃殿下! えっと……ご機嫌麗しゅう……」
「おいおい、堅苦しい挨拶は無しだぜ……ほら、アヤメちゃん。顔を上げて! いやぁ、疲れた疲れた。コーヒーでも飲んで、シャワーを浴びるか」
「コーヒーですか!? あ、お淹れしますですぅ!」
「いいわよう、アヤメちゃん。学校でしょう? コーヒーは私が淹れるから」
「あああ……恐れ多いです、王妃殿下!」
二人は家に入ると、リビングで寛ぎ出す――いつもの、父さんと母さんだ。
「で、王様! 〈ストリングス〉討伐の方は?」
「ああ、終わったぜ! いやぁ、今回はしんどかった。次から次へと現れやがってよ……お陰で一週間以上かかっちまったぜ」
「そうそう、こっちにも〈ストリングス〉が来たんでしょ? 報告聞いたわぁ……大変だったわね、アヤメちゃん? それと、ミヤコも」
「はい! 姫様がサクッと退治して下さいましたッ!」
アヤメが言った通り、ボクが最後に放った攻撃で巨大ストリングスは消え去った。もちろん誰かが怪我をしたり、結界を超えて現実の世界に被害を与えるようなこともなく、こうして普段通りの、新たな一週間を迎えられたって訳。
ま、そうは言ってもこんなことホイホイと信じるような人間なんか居る訳ないけどさ――でも二人はアヤメの言葉に何の疑問も挟まず、さも当然とばかりに話を続ける。
「そりゃそうだぜ。なにしろ俺たち自慢の娘だ。それこそ王宮付きの学者から千年に一人の逸材って言われてたくらいだからな。ま、このことミヤコはしらねーだろうが」
「そうよねぇ。でも、そのせいで子供の時からずっと力を封印しなきゃいけなかったのは、ちょっと可哀そうだったわね」
「仕方がねぇわな。そうでもしなきゃ、子供の悪戯で街が壊滅しかねなかったんだぜ? 洒落にならねぇ。幼児のくせに、それ程の力に目覚めちまったってんだから、驚きだ」
「ああああ……申し訳ありません王様、王妃殿下! ワタシの一存で姫様の封印を……」
「いいのよ、アヤメちゃん。そのお陰で二人とも無事だったし、この街の平和も守られたのだから! あ、何か今のフレーズちょっとカッコイイかも」
「感謝してるぜ、アヤメちゃんよ。ミヤコも分別の付く年頃になったし、もっと前に封印解除しても良かったんだけどな。まあ、本人にとっちゃ色々とショックだろうから、俺達から切り出しにくかったんだ」
「そうよね。どっちにしろ今度の誕生日にはミヤコの封印を解かなきゃいけなかったし、丁度良かったわよね」
「…………」
ボクはすっかり取り残されていた。ここにいるのは普段の両親。でも、その口から出るのは、まるで違う世界、見知らぬ人達の会話。とてもじゃないけど、その中には入っていけるような空気じゃなかった。
(いや、違う違う! この雰囲気に飲まれるな、果無都!)
そうだ。この時をずっと、待っていたんじゃないか! ボクは父さんに声をかける。
「ねえ、父さん!」
「何だ、ミヤコ。土産はねぇぜ?」
「男に、戻して!」
そうだ! この一言を口にすること、どれだけ待ち焦がれたか――しかし、返ってきたのはあまりに残酷な答え。
「おいおい。一週間ぶりに再会できたってのに第一声がそれかよ……てかよ、そりゃ無理だぜ」
「ええええっ!?」
「アヤメちゃんから聞いてるだろう? 俺に言われたって無理だ」
「…………」
半ば予想していたとはいえ、かなりショック。言葉も出ない。
「でも、な?」
「…………」
「自分でやりゃいいじゃねえか」
「……え?」
――今、なんて言った? 自分――で?
「おう、それだったら男の姿に変えられるぜ?」
「おおお!!」
ばんざーいっ! やったぁ……やったよ、バラ色の未来がパッと開ける!
**
「――x・i・n・n・i!」
教わったばかりの呪文を唱える――一瞬、立ち眩みの様な感覚。そして恐る恐る、胸のあたりへと手をやる――あの、プワンプワンした二つのふくらみ――そう、あの忌々しいふくらみは無くなっていた! それは1週間ちょっとぶりの感触。
「やったぞ! 男に……男に戻ったぞっ!!」
ようやく、帰ってきた! 男の、果無都に!
「あああっ、姫様ーっ!?」
アヤメの声を背にドタバタとニ階へと上がっていく。そしてきっかり2分30秒後――。
「姫様? その格好……」
「うん。第二高校の制服!」
「え?」
「と、言う訳で!」
「は?」
「ボクは第二高校の方へ行くから! じゃあねー、帰ったらまた!」
「ああああぁぁ……姫様ぁぁぁ!?」
ボクはウチを飛び出す。遂に、あの懐かしい生活が帰って来たんだ!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「――よう、果無。久しぶりだな。病気してたんだって?」
「ん?……まあね。もう、すっかり良くなったけどさ!」
「ふぅ……ん。何か、休学するなんて噂も聞いてたからよ。ま、良かったぜ」
話しかけてきたのは一番後ろの席のヤツ。一緒に昼飯を食っている間柄だ。まあ、病気で休んでいたなんて嘘と言えば嘘だが、あながちまるっきり間違いと言う訳でもない。なにしろ女体化と言う恐るべき病から、ついさっき生還してきたんだからね。
ダチとどうでもいい会話をしながら、一週間ぶりの日常を満喫。
ボクの学校、ボクのクラス、ボクの教室、ボクの机。遂に、ここへ戻ってきた! 幾つものプリントに混じって、机の中にゴミが入っていたのはショックだけど、それ以外はおおむね順調。
思えば長かった。振り返ってみると感慨深いものがある。さ、これから一週間の遅れを取り戻すぞー。いやぁ、男の身体に戻るって気分がいい――って、ありゃ。気分が良いついでに催してきた。
「果無、どこ行くんだ?」
「うん、トイレ。じゃあな」
三時間目が終わって休憩時間。ボクはトイレに発つ――と、その時。
「……?……」
一瞬立ち眩みのような感覚が……おかしいな? いや、何でも無い。きっと、男の身体に戻ったばかりで調子が出ていないんだ。
それにしてもこの廊下、この光景。ここが本来、ボクがいるべき場所だ。まぁちょっとだけ、白梅女学院への名残惜しさもあるけど――藤組のみんな、どうしているかな?
たった一週間だけど、お嬢様学校に通うことができたなんて、ちょっとした思い出だよね。今にして思えば、とても濃密で輝いていた一週間だった。
そんな物思いをしながら、廊下を歩く生徒や、端っこの方で駄弁っている生徒達を眺める。あれ?――何か、ボクの方をじろじろと見ている。一週間も休んでいたから噂になっていたのかな?
でもおかしいな。ボクはそんな有名人じゃないんだけどな? どういうことだろう……なんて考えているうちに、トイレの前に到着。
で、間違えて女子トイレに――なんてお約束の間抜けなことはしないよ、さすがに。女子トイレの前をスルーして男子トイレに。そして小便器の前! あああ、愛おしかったよ、小便器!
早速、ズボンのチャックを開け――開け――て――え?
その時、驚愕すべき違和感が。
(は? な……無い!?)
何が起きたか理解できず、慌てて個室に飛び込む。(ど……どういうことだよ……)そう言えばさっきから、制服がずいぶんとダボダボに感じるぞ?
ズボンを下ろす――「そ、そんな馬鹿な……」
胸に手をやる――「そ、そんな馬鹿な……」
何が起きたか訳も分からず、個室から飛び出す――と、その時。
「――ちっくしょー。オンナとヤリ損ねたぜ。クソったれが」
「ケケケ、欲張ってからよ! そういや、こないだナンパに失敗したすっげーマブ、リベンジ&ゲッツと思ったけどよ、歩いてなかったな」
「あのパツキン王女様に、黒髪姫カットのお嬢様か。アンだけレベルの高けーオンナ、まずイねーからな。畜生、ヒィヒィ言わせたかったぜ、クソが!」
「ありゃ、白梅女学院あたりのオンナだぜ。ガード固てぇよな」
そんな下衆な会話をしながら入って来る三人組――こないだのナンパ野郎だ。慌てて、洗面所の前に立って背中を見せる。何やら一人がこちらをチラチラと見ているが、顔を見られないように俯いてやり過ごす。
奴らが通り過ぎた後、恐る恐る鏡を――。
「え……え……え……えええ!?」
そこに写っていたのは、女バージョンのボクだった――何で!?
トイレを飛び出す――さあ、どうする? 教室に戻る? いや、それはダメだ。
思わず階段の方に――あ、下から誰かが歩いてくる。仕方が無い、上の方に――上へ、上へ――気がついたらボクは、屋上に立っていた。
**
「ど……どうするんだよ、これ……」
何が起きたのか、まるで理解できない。男に戻ったはずなのに……自失呆然と立ち尽くすボク。その時だ。
「姫様ーっ」
思いがけず、上の方から声が聞こえてくる。その声の方へと振り向くと――
「アヤメ!?」
――そこには、機動歩兵に変身したアヤメが浮かんでいた。
「果無さんー……男子の、制服姿ですぅ……」
箒に跨った香純ちゃんも一緒に。もちろん、彼女も魔法少女の姿だ。
「あ……あはは……これって……一体どういうこと?……」
「話を最後まで聞かないで飛び出していってしまうんですから……」
アヤメはボクの聞きたいこと、分かっていたようだ。ふわりと屋上に降り立ち、解説を始める。
「じゃあ、説明しますね? えっとですね、姫様。男の身体に変身するのは、時間制限ありなんです!」
「……え?……時間制限?」
「はい。王様の話によりますと一週間で三時間くらいらしいんです」
「……三……時間? は?」
「ええ。本来のお姿……つまり女の子の状態を続けていれば、変身する力が溜まっていくそうで。で、そのペースっていうのが、二週間で六時間、三週間で九時間……つまり、一日中、男の身体で過ごすためには八週間は女の子でいないと」
「うがあぁぁぁぁ!!」悶絶するボク――そう、だったのか!?
っていうか……八週間……八週間で、たったの一日かよ!?
「それで、姫様!」
「……何?」
「早速ですが、一緒に来て下さい!」
「……何処に?」
「私達の学校、白梅女学院です! 当然」
「……何で?」
投げやりな言葉を返すボクに、今度は香純ちゃんが語りかける。
「実は新たな敵、〈糸胞〉が現れたのですぅ!」
「……は?」
「このままだと……キノコ人間に育った彼らに占領されちゃいますぅ……」
「香純ちゃん!? 何言ってるの? キノコ人間?」
「はい! 実は魔法少女の皆さま……いろいろな敵と戦っているみたいで」
――そんなこと、聞いていないぞ? たった今、初めて聞くぞ?
「と言う訳で、姫様にも手伝ってもらいたいのです!」
「果無さんの荷物は持ってきましたぁ……」
「さ、早く行きましょう! 白梅女学院に」
「津島さんや浅見さん、あとクラスの皆さまも心配してましたぁ……戦闘が終わりましたら、元気な姿を見せて欲しいですぅ……」
まぁ、いわゆる脱力感。何も、終わっていなかったんだ。つまりこの一週間は始まりに過ぎなかったってこと。でも、悪い気分じゃなかった。
アヤメや香純ちゃんと、これからもずっと一緒にいられる――それも悪くない。
せっかく和解した津島さんや浅見さん。彼女達とも――もう少し親しくなりたい。
クラスのみんなとも、何とか上手くやっていけそうだし――心の中で行き場を失っていた何かが、収まるべきところに収まった――そんなすっきりとした気分。
その思いを胸に、ボクは応える――。
「うん、了解。あ……でも、授業すっぽかして怒られるかなぁ……」
「えへへっ。〈デュープ・パペット〉を姫様の代わりに連れていきましたので、大丈夫ですっ!」
「っておい! ヘマをやらかさなきゃいいけど……黒歴史は勘弁だよ?」と、一応言ってみる。でも分かっていた。そんなこと、些細な問題だ。「……まぁいいや。じゃあ行こう」
特別大サービスで、ありったけの笑顔を二人に送ってみせる。
アヤメと香純ちゃんも、素敵な笑顔を返してくる――とても眩しい笑顔。
そして、ボクは唱える。
「urR=kraft!」
ここまでお付き合いくださった皆様、ありがとうございます。お陰さまで何とかここまで漕ぎ着けました。話の展開としてもまあ、綺麗に一区切りついたかな、などと勝手に納得しているのですがどうでしょう?
さて、エピローグと銘打ってますが、続けます。して、次の展開ですが……皆様、お気付きになられたでしょうか。魔法少女のお約束、“アレ”が登場していないことに。もちろん、○○○や○○、○○○○○として登場はさせません。テンプレを踏襲しつつ、斜め上を行くのが私のモットーです。さて、何が出てくるやら。
それとスミマセン、次回更新まで少しお時間を頂きます。では、また次回。よろしくお願いいたします。




