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[12]魔法なんてある訳無いじゃないですか!?

 情報処理教室は教室と同じフロアの反対側の方にあった。アカウント設定そのものはすぐに終わり、委員長は用意していたプリントを二枚、ボク達に手渡す。


「生徒会の組織図だけど、渡しておくわ。あなた達にお役目が回ってくることは、少なくとも当分無いはずだけど、役員の名前とクラスくらいは覚えておいてね」

「なるほどー。生徒会長に副会長、書記、会計何かで構成される執行委員に、各種実行委員会、分科会もあるのですね。いやぁ、なかなかに本格的ですなぁ……」


 本当に分かっているのか、それとも分かっていないのに分かっている振りをしているのか……とりあえず感嘆の声を上げるアヤメ。ボクもつられてプリントに目を通す――ってあれ? 何か見慣れない組織が下の方に書かれている。


「すいません。この下の方にある『白梅会』って何なんです?」

「…………」

「……井澤さん?」

「あ、ごめんなさい。白梅会ね? 生徒会の分室というか、一年生だけで構成される委員会なの。そこで生徒会の運営方法なんかを学ぶのよ。次の年の学生代表を育成する様な機関かしら?」


 おお、凄い。リアル“山百合会”みたいなものか……何か、お嬢様学校に来たっていう実感が湧いてきたぞ!

 いや……良く考えてみると山百合会の立ち位置とはちょっと違うかな? でもボクの頭の中には、小洒落た小部屋の中で淹れ立ての紅茶をすすりながら、お上品なお菓子をいただく美少女達のビジュアルが浮かぶ。


「生徒会のお姉さま方がね、目にとまった一年生をスカウトするの。凄く、名誉なことよ。もっとも、必ずしも白梅会から生徒会役員が選ばれるって訳ではないのだけど。でも殆どの場合は白梅会イコール次期生徒会役員、と見ていいわね」

「ふぅ……ん。面白い仕組みですね。まぁ、どっちにしろボクには縁の無い世界だけど」

「あら? 果無さん。案外と、貴方のところにスカウトが来たりしてよ? 何か、そんな雰囲気。その王女様っぽい感じ、白梅会が板に付きそう」

「止めてください! もし、万が一、スカウトに来たとしても全力で断ります!」

「ふふ……本当に面白いのね、果無さん。皆さんの言うギャップ萌って、その通りみたい……あ、そうそう。さっき果無さん達とお話していた風見さんね、彼女、白梅会のメンバーなの」

「えっ! そうなんだ」


 ちょっと意外だ……あの、人見知りっぽい大人しそうな女の子が、上級生、しかも生徒会役員の目に留まってスカウトされたてんだ。ちょっと小柄な香純ちゃんだったが、そんな彼女のこと、少し大きく感じる。


(香純ちゃん、きっと他の人には無い何かを持っているんだなぁ……)


 そんなことを考えていた時だった。それまで何やら難しそうな顔をしていたアヤメが、思い出したかのように委員長へと話しかける。


「あの、井澤さん。さっき、叔父さんが入院しちゃったって話してましたよね?」

「ええ。それがどうかしました?」

「あ、いえいえ。そのおじさん、なんというお名前なのですか?」

「え?……ええ、忠彦おじさんです。苗字は広野、母方の叔父です」

「なるほど、なるほど。で、お母様のお名前は?」

「…………」

「……委員長?」


 まただ。井澤さん――時々、言葉に詰まったかのように沈黙する。なんでだろう?


「――あ、ごめんなさい。お母さんね? 智子よ、井澤智子。どうしたの? 突然そんなこと」

「いえいえ、実はワタシ、姓名診断に凝ってまして……ヒロノタダヒコおじさん、っと。はい、大丈夫です! 『突然の転機逃れられざるも、運気は上昇気流。新しき出会いの予感あり、座して待つべし』と出ました! おめでとうございます!!」

「は……はぁ? ありがとうございます……」

「あ、それともう一つ」

「はい?」

「井澤さんって放課後、いつも何やってるんですか?」

「え?……委員会の集まりに出たり、部活をやってたり……」

「部活って?」

「合唱部ですわ」

「ふぅーん。金曜日は部活だった?」

「ええ。その時に携帯を置き忘れちゃったの」

「今日は?」

「もちろん、部活よ。何でそんなこと聞くの?」

「いやー、井澤さんの歌声、どんなんかなー、と思いまして」

「まぁ、合唱部に興味があるの? 今の季節は屋上で活動をしているわ」

「りょーかい! 気が向いたら見学に伺うかもしれません!」


  **


 6時限目が終わると、ボクとアヤメはカバンを置いたまま速攻で教室を抜け出す。そして、図書室の奥にある本棚の裏に隠れていた。


「では姫様。打ち合わせ通り、作戦行動を開始します」

「……うん。この状況について、まだ良く理解していないんだけど……とりあえず、キミの指示に従うよ」


 作戦行動。それは一昨日の打ち合わせ、アヤメとの会話に遡る――


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


『――じゃあ、怪物を倒した時の攻撃で、学校……白梅女学院の校舎も壊しちゃったってこと!?』

『はい。ただし、その時に王宮のセントラルシステムにあるエマージェンシー・コードが発動して、宮殿術式〈ユルイアルエアソーン〉による回復シーケンスが執り行われたのです。そのため崩壊から3.8秒後、最終空間スキャン時の状況に復元されました』

『要するに、魔法で壊れた校舎を元通りにしたってことでしょ? あ、しつもーん!』

『何でしょう、姫様』

『魔法でそんなことができるのなら、キミの服も魔法で召喚すればよかったと思いまーす』

『それは無理ですぅぅ。“費用対効果”というものがありますぅぅ!』

『は?』

『えーとですね……そもそも姫様の言葉には、かなり語弊があります。というか、魔法というのはファンタジー世界だけの存在、物語におけるご都合主義を都合よく説明するためのとっても便利な概念に過ぎません。そんなモノ、現実に存在する訳が無いです!』

『……ボクにとってはキミの存在自体が十分ファンタジーなんだけど……』

『それを言ったら、姫様の存在も思いっきりファンタジーです……というか、ほら。あれです。十分に発達した科学は魔法と見分けが……』

『あああ!……それ以上言わないで。知ってるよ! クラークの三原則でしょ? そんな陳腐なネタを引き合いに出すなんて、キミには幻滅したよ!』

『うるうるうるうる……姫様に幻滅されてしまいましたぁ……』

『ちょっとぉ! 泣かないでよ。わかった、キミの話をちゃんと最後まで聞くからさぁ』

『しくしく……本当に?』

『はいはい。じゃあ続きお願い』


 これは土曜日の夜にボクとアヤメが交わした会話。アヤメのヤツ、魔法を全否定しているんだ――訳がわかんない。そもそも異世界から来た魔法少女だろ、アヤメって? 異世界と言えば魔法、魔法と言えば異世界。それが常識というもののはずだ。

 そんなボクの戸惑いをよそに、アヤメは意気揚々と説明を始める。


『――りょーかい、姫様! ごほん。では……一見変わりがない様に見える〈魔法〉と〈高度に発達した技術〉、その間には大きな相違があります。それは後者において、そのバックボーンに“見えざる巨大システムが存在する”というものですッ!』

『うんそれで』

『先程の〈ユル・イアル・エア・ソーン〉ですが、そのシステムを維持するための巨大インフラ、そしてそのシステムは数万社に及ぶ企業、そこで働く数百万、数千万という人々によって支えられています!』

『はい続き』

『今回、王宮がこのシステムに支払った費用は、普通にあの校舎をちまちまと建てた場合の数千倍に及ぶはずです! これはまぁ、ショボイ国の国家予算並みの金額ですね』

『…………』

『ちなみに、ワタシのパンツ一枚を召喚した場合、ワタシの安っーいお給金換算で2~3年分になるはずです……コワいですね~~ 怖すぎて個人では到底使えないシロモノです!』

『はい、却下ーっ』

『えええ!? な、何でー』

『それ、もうネタかぶり過ぎ。一体、いくつの創作物が同じような設定や説明をドヤ顔で語っていると思うの? ボクが読んだ漫画と小説だけでも、軽く両手の指で数えられないくらいあるよ』

『えええっ!? こちらの世界、進み過ぎですーッッ!』


 なんか、魔法の話のはずが、給料だの国家予算だの、あらぬ方向を向いている気がしないでもない。しかもフィクションと現実をごちゃ混ぜにして、ひとり驚くアヤメ。


『で、ボクが気にしているのは誰か怪我したり……あるいは死んだり……していないかってことなんだけど……』

『そうでした。はい……えっと、一言でいいます。かなりの方が巻き込まれたはずです』

『やっぱり……』

『あああ、そんなに肩を落とさないでください! 巻き込まれはしましたが、死んだり怪我をしたりはしていません。システムの緊急回避インタラプトによって皆さん、危険が及ぶ直前に亜空間へと転送されています』

『本当に!?』

『はい。でも……』

『でも?』

『なにぶん、発動したのが超特急の緊急回避インタラプトでしたもので、誰が、どの亜空間に転送されたのか、情報が残っていないのです……つまり、リンク切れになっちゃっているんです』

『えええっ!? じゃぁ、その人達って行き先不明のまま……どうするの? 警察とか探しているよね!?』

『いえ……それは無いです』

『どういうこと?』


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ――そして、ボク達は白梅女学院の生徒としてここに通うことになったんだ。亜空間に飛ばされた女の子達を取り戻すために。


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