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[11]ほんわか少女と、しっかり委員長

「……じゃぁ……あのぅ……果無さんと紫野さん……親戚同士だったのですか……はぁ……ビックリですぅ……」


 そう語るのは、やたらのんびりした口調の少女。その立ち振る舞いも喋り方と同じようにのんびりしていて、見ているこっちまでホンワカしてくる。

 眩しそうにボクを見つめる、ちょっと目尻の下がった瞳。マシュマロの様にやわらかそうな頬、髪質はかなり細めでふわふわ。そんな雰囲気の、ちょっと小柄な子だ。


 ちなみにボクとアヤメが“親戚”同士というのは、もちろん嘘。なにしろ二人同時にこの学園に現れ、しかもお互い知り合いという、何それ的な状況なのだ。その不自然さを少しでも和らげようとするための設定が必要になって来る。もちろんその設定自体、不自然さを助長している気がしないでもないが。


 この癒し系美少女に、今度はアヤメがさっきの設定の続きを口にする。


「はい! で、ワタシは姫様のお宅に居候させて頂いているという訳です」

「……姫様……ですかぁ……そうですよねぇ……果無さん、まるで王女様のような雰囲気ですもの……羨ましいですぅ……」

「あ、カザマさんもそう思いますか!」

「ちょっと、二人ともやめてよ」


 休み時間の度に入れ替わり立ち替わりやってくる女の子達。興味新々でやってくる彼女達を相手に、同じ話を何回繰り返したかわからない。でも、アヤメが“カザマさん”と呼んだ少女――風見かざま香純かずみちゃん――と話したのは、この昼休みが最初だった。


 彼女の席はボクの前。それまでも何回か、ボク達の方に振り向いて、話しかけてくれようとしていたのは何となくわかっていた。でも、その度に別の子がやって来て、その小さな背中をビクリと震わせると、小さな背中をさらに縮めて、丸くなっちゃうんだ。

 きっとこの少女、帰り道を横切る蟻んこの行列を横切ることができず、ペコリとお辞儀して踵を返し、遠回りして家に帰っちゃうような、そんな感じ。


 その気弱そうな少女が、意を決したように後ろを振り向くと『……お昼……一緒に……いかがでしょう……あ、もし、良かったらですが……』なんて言ってきてくれたんだ。

 しかも、昼休みが始まってもお弁当箱を開けないまま、ボク達が戻ってくるのを待っていたみたいだ。うーん、カワイイ!


 で、彼女とすっかり打ち解けたって訳。今日、この学校に来て初めて良かったと感じた瞬間かもしれない。


「――果無さん、一人っ子なんだって? じゃあ、姉妹きょうだいができたみたいで楽しいでしょう? どう? やっぱり、紫野さんは妹みたいな感じ?」

「うーん、どうだろう……どっちかっていうと、アヤメの方がお姉さんというか、小姑みたいな感じかなぁ……」

「あ、酷いですぅ、姫様ーッ!」

「へぇー、ちょっと意外ーっ」


 ボク達の周りには、3人くらいギャラリーが集まっていて、彼女達を加えて他愛のない会話を続けていた。


「意外って言えばさーっ、果無さんの喋り方、イメージしていたのとは違うよねーっ」

「そうそう、ギャップ萌っていうの?」

「変……かなぁ? そもそもボクに対するイメージがどんなのか、想像もつかないんだけど……」

「あーっ、それそれ!」

「おおーっ、ボクっ娘だーっ!!」

「最初見た時、いかにも姫キャラだーって思っていたら、自己紹介で凄くぶっきらぼうだったでしょ? おおお! この人、クールすぎる、なんて」

「ところが、蓋を開けてみるとボクっ娘だし、ちょっとトボけた感じだし!」

「庶民派王女様、だよねー」


 ――なんか、持ち上げられているのか、おちょくられているのか……。

 ちなみに、喋り方についてはアヤメのアドバイスで、普段通りを押し通すことにしたんだ。変に女の子っぽくすると、自分でも無意識のうちに違和感バリバリの話し方になっちゃうし、女の子の会話も男のそれとそんな違いは無いものらしい。

 それ以前に、ボク自身の尊厳のため喋り方を変える気はサラサラ無かったけど……。そんな決意表明を心の中だけで宣言したその時だった。


「果無さん、紫野さん。少しよろしいですか?」


 そんな挨拶と共に、ボク達を囲む輪に入ってきたのはクラス委員長――井澤いさわ里沙りささんだ。分からないことがあれば彼女に聞いてくれと、先生から紹介されていたので、顔と名前は結びついていた。

 優等生タイプ――というのともちょっと違うかもしれないが、勉強からスポーツ、友達関係までそつ無くこなしそうな、そんな女の子だ。その委員長はボクに目を合わせると、ゆっくりとした口調で用件を伝えてくる。


「情報処理教室のアカウント設定をお昼休み中にお願いしたいのだけど、時間があったら声をかけてくれるかしら。あと、できれば生徒会運営組織の説明なんかもしたいわ」

「あ、はい。もうお昼は食べ終わるところなので、今行きます」

「ワタシもオッケーです! では皆さま、しばしのお別れです!」


 風見さん達を後に、ボクとアヤメは委員長に付いていく。情報処理教室に向かう廊下の途中、委員長は何人かの生徒に呼び止められる――彼女、結構顔が広くて、人気者らしい。

 そしてまた、彼女を呼び止める声が――。


「おーい、りさっちー」

「はい?……あ、浅見さん。ごきげんよう」

「ごきげんようじゃないっしょー。日曜日、約束していたのにすっぽかすなんて酷いよー」

「…………」


 どうしたのだろう。委員長は一瞬、不思議そうな顔でその少女の言葉を黙って聞いていた――が、その直後。照れ笑いの様な笑顔を作ると、彼女は申し訳なさそうに言葉を返す。


「ごめんなさい。叔父が急病で入院してしまって、急にその準備と、お見舞いへ行くことになってしまったの。連絡しようとしたのだけど、金曜日に携帯を学校に置き忘れてしまってて……」

「ありゃりゃ、そうなんだ」

「学校から帰って、すぐにあっちへ行っちゃったから、誰とも連絡が付かなくて困ってしまったわ……本当に、申し訳ないわ。今度、埋め合わせをさせて」

「ううん、いいってことよ! でも、大変だったねー。叔父さん、大丈夫だって?」

「うん。命に別状は無いって。2~3週間療養すれば大丈夫みたい」

「で、携帯は見つかったー?」

「うん、部室に置きっぱなし。おかしいわね、いつもだったらそんなこと、絶対に無いのに……」

「おお。あぶねー、あぶねー。ストーカーみたいのに盗まれたりしてたらヤバかったじゃん。気をつけろよー、りさっち。それじゃ、また後で。じゃねー」

「うん、そうね。じゃぁ、後で連絡するから」


 ふう……ん。しかし、親戚同士とは言え週末つきっきりでお手伝いとは、随分と緊密な親戚付き合いだ。はっ!? まさかその叔父さんと彼女は親戚以上の、イケない関係とか……あ、だめだ、だめだ。思わず変な妄想を始めてしまった。

 そんな妄想を抱いたことに気まずくなり、視線を委員長からアヤメに移す――と、なんかアヤメの表情が変だ。じっと委員長を見つめて、考え事をしているみたいな。


(あ、まさかアヤメのやつ、ボクと同じことを考えてるんじゃないだろうな……)


 ふと、そんなことを思い描く――が、再び歩き出した委員長を前に物思いは中断。ボクとアヤメは情報処理教室へと向かう。


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