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[10]ガードの甘いボクはパンツ見られ放題らしいのだ

  今さっき“学校のトイレ”という難攻不落のミッションを何とかクリアしたせいだろうか、今朝からの緊張もかなりほぐれてきたようだ。人間には高い順応能力が備わっているというのは聞いたことはあるが、これほどの物とは思わなかった。

 だってだよ? 男のボクがセーラー服を着て、女子高の生徒になって、女の子として振る舞い、しかも女子トイレに入っているんだ。そんなの、信じられるもんか!


 ――もっとも、ボクの身体はこの間の金曜日に、完全に女の子となってしまった訳だが。


 もちろん、そんなこと心の中では1%も納得していない。ボクは男だ、男子だ、果無都だ! 果無美彌子って誰さ!?


 こんな理不尽、あってたまるか。教室に向かう道すがら、そもそもの事の発端――そう、ボクが置かれたこの状況――諸悪の根源に関わる質問をアヤメにぶつけていた。


「だいたいさぁ……」

「はい、姫様?」

「こっちの世界で怪しまれずに暮らすため、力の封印をしたっていうのはまあ、それなりに説得力のある説明なんだけどね?」

「はい?」

「なんでまた男にしちゃったのさ!」

「当然じゃないですか。姫様が中古にされちゃいます」

「……は?……」


 おいおい――当たり前のようにトンデモナイことをサラッと言ってくれやがる。


「こちらの世界はタガが外れているというか、貞操感覚ゼロ……姫様の様に魅力的な女性が純潔を守り通すにはリスクが高過ぎます!」


 あのさあ……ストレート過ぎるというか、何というか。でも、彼女の言うこと、何となく納得できる。それは土曜日のことだった。


「そう言えば一昨日、買い出しに街へ行った時は驚いたよ……何かチャラチャラした男が2、3人近づいてきたと思ったら、ナンパなんぞ始めやがって……」

「ええ、それも通算五回! たった六時間余りの買い物で、五回ですよ!!」

「ううう……今思い出しても気持ち悪い……しかも奴らやたら強引で……ホント、世の中の女の子、こんな修羅の世界をサバイバルしているのかよ。でも、キミが助けてくれてよかったよ。ボク一人であの状況を乗り切る自信は無かった……」

「本当です!……姫様を毒牙にかけようとする不埒物……対〈ストリングス〉用高エネルギー射出兵器で薙ぎ払ってくれようと思いましたが、何とか思いとどまりました。もっとも、あの時はまだ強化防護服も自己修復中で、戦闘は不可能でしたが……」

「しかも最後の一組、ありゃボクの学校……あ、今まで通っていた第二高校の方ね? そこの半グレ連中だったよ……イヤな感じの奴らなんだ。正体がバレないか、ずっと冷や冷やモノだったよ」

「そうでしたか」

「うん。まぁクラスが違うし、ボクなんて目立たない人間だからあっちも気付かなかったんだろうけど。女装趣味だなんて広まったりでもしたら……そんなこと考えると、今でも震えが止まらないよ」


 そうなのだ。最初に入った店でアヤメに押し切られるまま、思いっきり女の子の格好をさせられたんだ。白いスカートと薄緑のインナーに、やたらヒラヒラしたジャケット。

 抵抗虚しくあんな恰好で街ブラするという変態行為に甘んじた果無都改め果無美彌子。しかしこの次に聞かされたアヤメの言葉で、彼女なりの考えがあったということに、ボクもようやく気が付く。


「いえ。姫様の学校は既に第二高校では無くてここですよ? むしろ、下手に今までの格好で出歩かれてしまうと、第二高校時代のお知り合いに感付かれてしまう可能性があります」

「そうなの?」

「はい。本来のお姿に戻られたとは言え、お顔の雰囲気なんかは男バージョンの“果無都”をほぼ継承していますので」

「そっか。思い切ってイメージチェンジした方が向こうも気が付かないって、理屈では判るんだけど……でもスカートのこのスースーする感じ、まだ慣れないよ……」

「そういう意味でも、白梅女学院がお嬢様学校で良かったですね。こちらの制服はかなりトラディショナルというか、落ち着いた感じのセーラー服です。スカートの丈を短くされている生徒さんもいませんし。もし第二高校みたいだったら、大変でしたよー」

「う……うん。わかっている……多分、生き恥に耐えられず悶死していたと思う……」


 そう――まるで競うかのように短くなっていく女子のスカート。膝上十何センチという世界。それを鉄壁のガードで守る彼女達。ボク達冴えない男子は、そんな女の子達を横目で見ながら悶々とするしかないんだ。そんな第二高校時代の日常を、遥か昔のことのように思い出す。


「でも、ここも来月から夏服です。地味ーな冬服の抑圧を跳ね返すかのように、夏服ではかなりギリギリのところを攻める生徒さんも多いと聞きます。姫様も参戦します? あ、ガードがまるっきり甘い姫様は、パンツ見られ放題ですね!」

「おい、止めてくれ!!」


 そんな会話を交わすうちに、いつしか教室の近くに戻って来ていた。


『1年藤組』


 それがボク達の教室。そう、クラス名は“藤組”である。全くもって意味不明。ちなみに他のクラスは“かえで組”“はぎ組”“さつき組”……まるで幼稚園か歌劇団みたいだ。

 普通、クラスの名前ってAとかB、あるいは1から始まる数字でしょ? 何故に植物の名前が? 世間一般常識からかなり外れている。これが由緒正しい、歴史ある女学校ということか?

 ――とまあそんなことを考えていたのだが、気が付くと廊下に出ている女の子達がこちらの方をチラリチラリと見ている。隣のクラスの子だろうか? 彼女達の視線をかいくぐりながら、そわそわと歩くボク。その隣を歩くアヤメが口を開く。


「あ、もう少しで教室ですね。えっと、姫様。事前に示し合わせたように、放課後は……」

「うん、わかっている。クラスの子達からいろいろとお誘いがあるかもしれないけど、それとなく全部断って、キミと一緒に……」

「はい。作戦を開始します……この学園にやってきた、本来の目的です」


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