崖から落ちた……と思ったら隠れて落ちたふりしていたのだ。 生きていやがった。 「ちっ」「華子! お前今舌打ちしなかったか!」「気のせいでしょ」本当に落ちればよかったのに。
「そういえばいよいよ消費税が導入されますね」
最近世間を騒がせているニュースだ。
「ああ、そうだねぇ」
「何の話だ? っと、こいつ! ちょっと待てや!」
未來が割って入ってきた。
相変わらず棒きれを振り回している。
どうやら目の前を飛んでいる蜂を狙っているようだ。
当たるわけがないだろうが。
それよりもなによりも、いま世間で一番と言えるぐらいの関心ごとに対して、なんの知識もないというのはどういうことか?
しかもお店を経営している我が家にとっては特に他人事ではないのだ。
「まったく関心ありません!」
という態度がありありなくせに、わざわざ首を突っ込んでくるのも腹が立つところだ。
なので放っておく。
「政党の存続に関わってくるんじゃないでしょうか? ときどき世間の価値観から思いっきりずれた施行をすることがありますけど、あの手のことを堂々と言える人ってなんだかなぁって思うんですよね」
「こらっ華衛門! 何の話だって聞いてんだろが!」
お前には聞いていないんだよ。
「勉強の話だ」
こう言えば黙るはず。
「あっそ。こら! 待て~!」
即無関心。
蜂との戦いの方が重要らしい。
やはりではあるが、もう少し関心持てよ。
とはいえ話には加わってほしくないので、いまはまぁいいか。
「未來ちゃん気をつけてな。崖から落ちたら大変だよ」
「大丈夫だって! おらおら~!」
山道は舗装されていないけもの道。
道のすぐ横は崖になっているがガードレールなどあるわけもなく、かなり危険な状態。
と、その時、
「あっ!」
未來の声がしたかと思うと、そこにはすでに姿がなかった。
「ま、まさか!」
おじいちゃが驚いて未來がいたところに駆け寄った。
そして、
「未來ちゃん、驚かさなさないでよ」
「へへっ、あせった?」
見ると、一段下がったところに足場があり、そこに隠れて落ちたふりしていたのだ。
生きていやがったか。
「ちっ」
思わず舌打ちが出る。
「華子! お前今舌打ちしなかったか!」
「気のせいでしょ」
本当に落ちればよかったのに。
「まったく……」
「ふふふ、まあまあそう怒りなさるな。これが未來ちゃんなんだから」
『おじいちゃんまでも……』
優しく場を収めるのがなんとも気に入らない。
なぜみんな、未來に対してはそんなに甘いのだろう?
未來なら。
未來ちゃんはさぁ。
未來だから。
双子としての宿命なのだろう。
似ていると受け止められたくはないし、ましてや同じに思われるのはもってのほか。
けど、扱いの違いを分かってしまうことのいらだち。
未來なんて、本当にどうしようもないバカなのに、なんでみんなは見捨てないのか?
いや、それどころかさらに後押ししてさえいるのだ。
そこがいろんな意味で気分が悪いのだ。
自分の価値観からは到底肯定などできない所業の数々に鉄槌が食らうどころか、人気すら集めている不条理。
もし私が(絶対にないけど)こんなことをしようものなら、どんなふうに扱われるのか?
いや、私以外の人間だとしても、未來のような振る舞いをすれば大体において怒られるはず。
怒られるはずなのに……。




