表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/63

自分の小さな幸せを守るために、もしかしたら他の人には大きな不幸が訪れることになるかもしれない。それを見ぬふりして自分さえよければOKとする感覚、あなたはどう考えるのかしら?

「あとね、あたしが早川君のおじいちゃんの未来を見たくない理由はもう一つあるのよ。おじいちゃんに限らず、近しい人は全員」


「えっ? それはなんで?」


「近い人の未来を見ると、そこには私の身近にいる人たち、愛すべき人の未来が混ざっていることも考えられるじゃない? パパやママ、それに山田。そんな大好きな人たちに悲惨な未来が待っているのを知った場合、あなたならどうする? 助けてあげたくないの? でも助けることでもっと不幸なことになるかもしれないなら、いったいどうするわけ?」


「華子」


「何?」


「そこにあたしの名前が無いのはなんで?」


「そ、そこか~」


華子がずっこけた。

ずり落ちた眼鏡を人差し指で直しながら、


「まぁ未來の名前は意図的に外したと言えなくも……」


「あんっ? なんだって? 聞こえないぞ?」


「なんでもないなんでもない、こっちのことよ。だからさ、助けたいのに救うことができないなんて、すごく悲しいことじゃない。目の前の人にこの先不幸なことが訪れるのを知っているのに、こちらは指をくわえたままそのシビアな現実に耐えるしかない手がないなんて」


「それが元気な人、優しい人だとしたらなおのことね。私たちが目撃する不幸はテレビや映画を鑑賞するのとはわけが違うの。それにね、その場をしのぐことができれば一部の人間には幸せかもしれないけれど、別の一部の人たちには不幸が訪れることも忘れてはいけない」


「そんなことわからないだろ? なんで人を助けることで誰が変わりに不幸になるんだよ?」


「なるわ。これはほぼ確定なのよ。押せばなにかが突出するのと同じ道理ね。風が吹けば桶屋が儲かるって、昔からも言われていることなんだけれど、全員が幸せになるなんてありえないから」


「誰かの幸せは誰かの不幸せというのは残念ながら決定していることなのよね。自分たちの視界に写っているのが世界のすべてではないから。忘れがちなことだけれど。だからその場での幸せの割を食うのも近くとは限らない」


「全然見えない、関係のないところで不幸せとなって降りかかるかもしれないわ。これってすごいエゴだと思わない? 小さな幸せを守るために、もしかしたら他の人には大きな不幸が訪れることになるかもしれないんだから、それを見ぬふりして自分さえよければOKとする感覚、あなたはどう考えるのかしら?」


「それって本当にいいことのなの? そしてその後はどうなるわけ? その影響を受けておかしな波紋が広がるかもしれないわね。また未来も変わっていくかも」


「明日、明後日、一週間、一か月、一年、十年、百年、千年……私たちが勝手な都合で未来を変えたことで、もしかしたらとんでもない事態へと発展するきっかけになるかもしれないのよ。それこそ世界が悪い方向へ流れる起源になるかもしれないし、世界を恐怖のどん底へと誘う導火線になることだって考えられる」


そこまで言うと華子はいったん言葉を閉ざして一息つき、間もなくして話始めた。


「未来を見るのは私。そしてそれを告げるのも、また黙って背負うのも私。そのすべての責任を私が背負わなければいけない。そんな重い気持ちを一身に受けなければならない……こんなこと生身の人間に耐えられると思う?」


「うん……」


「神様になるって例えは決して大げさではないのよ。一人を救うことでその後のその人、その環境、その未来など、すべてをしょいこまなければならない。だからさ、未来なんて絶対に知らないほうが幸せなの。それが幸不幸にかかわらずにね」


「……」


「あとね、やっぱり知らなくていいことってあるのよ。マジックの仕掛けと同じ。からくりを知ってしまったら、途端につまらなくなるでしょ。一度きりの人生なのに、その仕組みを知ってしまったら……もう、ここから先は言わなくてもわかるよね?」


「……むぅ」


渋い顔を作る。


「そんな顔しないで。未来と過去を見るのは反対だけれど、おじいちゃんの手助けはするからさ」


やった!

これなら隼人とうまいこと関係を持たせることができるぞ!


「ホント!」


と、喜んだのも束の間、


「ただし、早川君には言わないことを約束して」


となぜかのがっかり発言。

なんでそうなるんだよ!


「なんでさ? 隼人も加えてやろうよ」


「それはダメ。守れないなら私は降りる」


「だからなんでさ!」


「あんたも分からない人ね。さっき話したばかりじゃない。おじいちゃんの事を調べるうちに、早川君が知りたくない過去を掘り起してしまったらどうなるわけ?」


考えの深さでは、やっぱり華子にかなわない。


「ちぇっ、わかったよ」


ふてくされ気味にあたし。


「じゃあ、もう寝なさい。明日は朝から走るんでしょ」


「うん……」


何も言い返すことはできなかった。

華子の言いたいことは分かるし、間違ってはいない。

たぶん正しいのだろう。


けど、けどね、正しさは決して一つだけじゃないと思うんだ。

絶対に。

いまのあたしの知識や経験ではうまく説明できないけれど。

そう絶対にね。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ