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なら聞くけど、あんたはどうなの? もし自分が夢とすることが実現できる未来を知ったとしたら、それでも頑張るの? 精進するわけ? ……しないでしょ?

「うん、隼人のおじちゃんが、なんか探し物をしているみたいなんだ。なんでも昔の話らしいんだけど、一人でどうすることもできなくて困っているって。だからさ……」


「断る」


って、またかよ!

まだ話の途中だっつ~の!


「なにが断るだよ。話を最後まで聞きもしないで!」


「だから私たちの能力でおじいちゃんの手助けをしよう、ってところでしょ?」


「うっ……そ、そうだけど」


「私は嫌よ。助けるのはやぶさかでないけど能力は使わない」


「やぶさかでないって……華子」


「なによ? 真面目な顔して?」


「どういう意味なの?」


「お、お前な~。今はそんな事どうでもいいだろうが展開的に。ほんっと緊張感のないヤツ」


「いや、気になったことはすぐに知りたいたちなの、わかっているだろ?」


「お前のそれに付き合っていたら、会話するたびに説明が必要になるよ」


「でもさ、前から思っていたんだけど、なんでそんなに能力使うのを拒むんだ? こんなすごい能力を授かったんだから絶対に活用するべきだよ! 誰もが持っているものじゃないんだからさ」


以前から聞きたかったことを投げかけた。

あたしの考えに間違いはない、はず。


すると一瞬華子の顔に寂さが浮かんだように見えた。

けど、


「まぁね。あんたの言う通りよ」


珍しく華子が同意してくれた!


「だろ! だろ!」


喜ぶあたしを制して華子が言葉を続けた。


「言う通りだからこそ、能力を封印したいのよ」


「謎かけかい! 今は回りくどいのやめてくれって! だからなんで使いたくないんだよ!」


あたしの剣幕をものともせずに、落ち着いた表情で華子は言った。


「それは誰もがキリストになれるわけじゃないからよ」


「あ? なんでそこでキリストが出てくるんだ? お前、さては今聖書読んでいるからってその知識ひけらかそうとしてんだな? 覚えたての言葉使いたがる子供かい!」


そんなあたしの冗談を受け流して華子は続けた。


「キリストじゃなければブッダでもいいし。要するに私は神様になった時の諸々のことにとても耐えられる自信がないって言いたいのよ」


「おいおい、そんな大げさな話でもないだろうよ? 困っている人の手助けをする程度なんだから、そんなややこしい事になる恐れもないだろうに」


「あんたは気が付いていないようだけど、この力は想像絶する恐ろしさを秘めている。それこそ神の領域のね」


「でも、うまいことできているな、と思うところもあるの。未来を見ることができる私、過去を知ることができるあんた。二人が力を合わせないことには発揮できないし、なによりも片一方の事実だけでは説得力がないのよね」


「見えるものが断片だから場合によっては大したことのない情報ばかりの時もあるし、それにどっちかだけならよほど当人にしか知らないことが見えなければ当てずっぽうで終わってしまうだろうから。けど、そんなカケラでも未来と過去の両方を言い当てることができるとなると話は違ってくるはず」


「それを知らされたとしたら、その人はどうなるか? 感謝? 尊敬? どちらもないわね、絶対に。確実に気味が悪いと思うはずよ。それこそ誰にも知られたくない秘密や恥部まで覗かれているんじゃないかと思うと、もういてもたってもいられないんじゃないかな? あなたならどう?」


『確かに』


お店のお菓子やジュースをちょろまかしているのがばれたら困るし、華子がわざわざ見られないようにカギ付きの引き出しにしまっている日記を実はヘアピンで解錠してこっそり愛読しているなんてことを知られたら、それこそタダではすまないだろうなぁ……って、そんな話とはちょっと次元が違うか?


でもね、でも、でも……


「もちろん、華子の言い分もわかるよ。誰だって知られたくない秘密のひとつやふたつ、どころじゃなく、いっぱい隠しておきたいこともあると思うけど。でもさ、それ以上に、そんなことをさらけ出してもなお知りたいことだってあると思うんだ」


一気に思いをぶちまけた。

あたしが5秒以上のセリフを口にすることは珍しい。

よくスラスラと言葉になったものだと思わず関心。

それはさておき、華子だって、隼人の気持ち知りたいんじゃないの?

知りたいよね?


「ない」


あれ?

否定するの早っ!

もう少し考えるそぶりくらい見せろよ。

せっかく未來さんが考えた意見なのに。


「なんでさ! 見えるものが明るい未来ばかりじゃないからか?」


「逆よ。もし未来を見たとして、それが明るく開けていることを知るくらいなら、暗くてやるせない方がいい」


「なんでやねん……湿っぽいヤツだなぁ」


「なら聞くけど、あんたはどうなの? もし自分が夢とすることが実現できる未来を知ったとしたら? それでも頑張るの? 精進するわけ?」


「うっ……むぅ」


「しないでしょ」


確かに。

華子の言うように明るい未来が約束されていると知ったら、努力なんてしなくなるだろうな。

怠けてもそうなるのがわかっているなら、楽した方がいいもんね。


「私も将来なりたい職業ややってみたいことはあるわ。作家として作品を出版したり、学者になって研究したりね。でもさ、そうなることが分かったらそのために努力を傾けるのが途端に馬鹿らしくなる」


「だから、もし私が望むような未来像を知ったとしたら逆にぶち壊しにする行動を取る。それこそ取り返しのつかないようなことを。そのためには人殺しだって辞さないかも。約束された未来をぶち壊すためにね。それでもやっぱり描かれたとおりの未来が開けたときは……自殺するでしょうね」


「じ、自殺なんて、そんな」


「私が将来思い描くものになれたのは努力でもセンスでもない。単に、すでに決められていることなのだとしたら、すべてが虚しくなるはず。そんな人生なら、生きていたってしようがないでしょう」


「だからもし見えるなら成功していない未来の方がいいわけ。それならまだ、その嫌な未来を変えるように努力するだろうから」


「まぁ、努力したところで報われるものでもないのかもしれないけれどね。それすらすでに決定済みのことなんだろうから」


幾分投げやりな態度で締めくくった。


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