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異界の旅人と運命の少女  作者: はるきち
第二章『王都レグナス』
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二章1 王都からの召命

――ローデン城。

《嫉妬》のリゼリアが去ってから、三日が経った。

城内の警戒は以前よりも厳しくなっていた。

門番は倍に増員され、城壁の上には常に見張りが立っている。

終焉教団がいつ再び現れるか分からない。

誰もがそう考えていた。

そんな中――。


「ユウマ、そこ!」


「えっ――!」


――ドンッ!


「痛っ!」


中庭で、悠真が地面に転がった。


「また負けた……」


悠真は仰向けになりながら空を見上げる。

目の前には、木剣を持ったアルトリウス。


「力みすぎだ」


「力を抜いたら負けるじゃないですか」


「逆だ」


アルトリウスは淡々と答える。


「力を入れすぎれば、動きが遅くなる」


「……なるほど」


「相手の動きを見ろ。剣ではなく、身体を見るんだ」


「身体……」


悠真は立ち上がる。


「もう一度お願いします」


「いいだろう」


再び構える。

少し離れた場所では、エレナが二人を見ていた。


「最近、ずっと訓練してるわね」


「悠真は飲み込みが早い」


アルトリウスが答える。


「まだ戦いには慣れていないが、適応力は高い」


「そうなんですか?」


「ああ」


悠真が照れたように笑う。


「褒められた」


「まだ褒めてはいない」


「え?」


「基礎ができていない」


「……」


悠真が黙り込む。

エレナが吹き出した。


「ふふっ」


「エレナまで!」


「ごめんなさい」


そんな穏やかな時間だった。

だが――。

その平穏を破る音が響く。


――カン、カン、カン!


城門の鐘。

兵士たちが一斉に動き始める。


「来客です!」


城壁の上から声が響く。


「王都からの使者!」


悠真とエレナが顔を見合わせる。


「王都?」


エレナが呟く。

アルトリウスはすぐに表情を引き締めた。


「……何かあったな」


――――――――


ローデン城の正門。

そこには王家の紋章を掲げた馬車が停まっていた。

馬車から降りたのは、王国の紋章を刻んだ白い制服を着た青年だった。


「王国王宮より、正式な勅命をお届けします」


青年が一礼する。

レオンハルトが前へ出る。


「受け取ろう」


使者が封蝋された書状を差し出す。


赤い封蝋。

刻まれているのは――王家の紋章。


レオンハルトが封を切る。

書状を読み進める。

その表情が少しずつ険しくなっていく。


「……」


「レオンハルト様?」


エレナが声をかける。

レオンハルトはしばらく黙った後、書状を閉じた。


「王都からの召命だ」


「召命?」


悠真が聞き返す。


「ああ」


レオンハルトが二人を見る。


「俺とエレナ、そして――神谷悠真」


「俺も?」


「そうだ」


悠真は驚く。


「何のために?」


「それは王都で説明される」


レオンハルトの視線が、王都の方向へ向く。


「国王陛下がお前たちを直接お呼びだ」


――――――――


その日の夜。

レオンハルトの執務室。

アルトリウス、セドリック、レオンハルト、エレナ、悠真が集まっていた。


「国王陛下が直接、俺たちを?」


悠真が尋ねる。


「ああ」


レオンハルトが答える。


「終焉教団の件だろう」


セドリックが言う。


「おそらく、それだけではありません」


アルトリウスが続ける。


「王都からの召命が出るほどの問題なら、何か別の事情がある可能性もあります」


「……」


エレナは黙っている。

アルトリウスが気づく。


「エレナ嬢」


「はい?」


「王都へ行ったことは?」


「ありません」


「そうか」


「どうしてですか?」


「いや……」


アルトリウスは少し考える。


「王都では、君を知る者がいるかもしれないと思っただけだ」


「私を?」


「終焉教団が君を狙っている以上、王都でも警戒する必要がある」


レオンハルトが頷く。


「王都へ行く以上、エレナの身辺警護は俺が担当する」


「私も同行します」


悠真が言う。

レオンハルトが見る。


「お前もか」


「はい」


「危険だぞ」


「分かっています」


悠真は真っ直ぐに答える。


「でも、エレナを一人にしたくない」


エレナが驚いて悠真を見る。


「ユウマ……」


「それに」


悠真は拳を握る。


「王都なら、俺がこの世界に来た理由について何か分かるかもしれない」


レオンハルトは少し考える。


「……そうだな」


そして頷いた。


「分かった」


エレナが微笑む。


「ありがとう」


「いや、俺も王都を見てみたいし」


「ふふ」


エレナが笑う。

その様子を見ていたアルトリウスが口を開く。


「なら、俺たちも同行する」


「アルトリウスが?」


レオンハルトが聞く。


「聖騎士団も王都へ戻る必要がある」


セドリックが補足する。


「団長への報告もありますから」


「そうか」


レオンハルトは頷いた。


「ならば、王都まで共に行こう」


――――――――


翌朝。

ローデン城の門前。

旅の準備が整えられていた。


「本当に行くんですね」


フィオナがエレナの荷物を確認する。


「ええ」


「王都、楽しみですね」


「そうね」


フィオナが笑う。


「お土産、お願いします!」


「ふふっ。分かったわ」


セシリアも荷物を馬車へ積み込む。


「エレナ様」


「何?」


「くれぐれもお気をつけください」


「大丈夫よ」


エステルも心配そうに見つめている。


「王都には終焉教団の手の者がいるかもしれません」


「分かってるわ」


エレナは三人へ笑顔を向ける。


「ローデン城をお願いします」


「はい!」


そして――。

レオンハルトが馬に乗る。

アルトリウスとセドリック率いる聖騎士たちも準備を終えていた。


「出発する」


レオンハルトの声。

馬車がゆっくりと動き始める。

エレナは窓からローデン城を見る。

自分が育った場所。

そして――。

自分を守ってくれた場所。


「……行ってきます」


小さく呟く。

その隣で悠真が笑った。


「王都、楽しみだな」


「観光じゃないんだけど」


「分かってるって」


エレナも笑う。


「でも……」


窓の外へ視線を向ける。


「少し楽しみかも」


馬車は北の大地を離れ、王都へ向かって進んでいく。


――――――――


その頃。

王都レグナス。

王城の最上階。

国王エドガルド・ハインツは、窓の外を眺めていた。


「……もうすぐ到着するか」


その手には、一枚の書状。

そこには――。


神谷悠真。

エレナ・ヴァレンシュタイン。


二人の名が記されている。

そして、その横には――。

黒い紋章が描かれていた。


「異世界から来た青年と……」


エドガルドが呟く。


「ヴァレンシュタイン家の娘」


背後には王国宰相が立っている。


「陛下」


「何だ」


「本当に、あの娘を王都へ呼ぶおつもりですか?」


エドガルドは答えない。

しばらくして、静かに言った。


「……ああ」


「しかし――」


「分かっている」


エドガルドは目を閉じる。


「終焉教団が動いた以上、もう隠し通すことはできない」


「では……」


「いや」


エドガルドは振り返る。


「まだ、彼女には何も伝えるな」


「承知しました」


そして国王は、机の上に置かれた古い記録へ目を落とす。

そこには、数十年前の事件について記されていた。


――《ノクティス》という名。


しかし、そのページは何者かによって黒く塗り潰されている。

エドガルドは静かに呟いた。


「……あの子が知るには、まだ早い」


王都レグナス。

悠真たちの到着を前に――。

王国の深い秘密が、静かに動き始めていた。

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