第7話 尻
黄色い小さな花を愛でる日々は、思っていたよりもあっという間に過ぎていった。
やがて、花は小さな緑の実を結ぶ。
丸く、頼りなかったが、日ごとに少しずつ膨らむ。
やがて見違えるほど立派になる。
実はついに艶やかな紅へと変わった。
張りつめた皮。
陽を受けて輝く丸み。
……なんて可愛らしいのかしら。
それが、記念すべき収穫第一号だった。
私はセバスチャンとジョセフ、それからジョアンナを呼んだ。
みんなで育てたのだもの、ナイフで丁寧に四等分する。
せーの、で口に運んだ。
……。
…………。
皮、厚いわ。
驚くほど分厚い。
果肉はほろほろしている。
甘みはほとんどなく、酸味だけがやけに堂々としていた市場市場に並ぶ実とはほど遠い。
けれど――。
「……なんて、面白いのかしら!」
私は笑ってしまった。
決して売り物にはならなそうな味。
けれど、あの小さな花が、緑の実が、赤くなってここまで育ったのだ。
そう思うと、この妙に酸っぱいトマトさえ愛おしい。
「これ、美味しくないわね!」
思わず明るく言うと、
セバスチャンとジョセフは静かに目を逸らした。
ジョアンナだけが、私と一緒に吹き出した。
「でも、次はもっと美味しくできます!」
その言葉に、私は力強く頷く。
育てていると、可愛くて、つい水をやりすぎてしまう。
……きっと、それも原因のひとつなのだろう。
それから、土のことももっと考えたい。
ミミズ任せにしていたけれど、
追肥も必要ね。
次はもっと。
次こそはもっと。
やってみたいことが次々浮かび、胸が少し忙しい。
けれど、数日後。
期待に胸を膨らませながら畑を見回した私は、言葉を失った。
赤くなり始めた実の先。
その末端が、黒い。
……あそこも。ここも。
熟す前に、黒く傷んでいる。
水を減らしたのがいけなかったのかしら。
それとも、病気?
せっかく、どの苗もあんなに元気に育っていたのに。
しかも、ひとつではない。
いくつもの株で、同じように。
呆然と立ち尽くす。
「ーーーどうして………」
その時だった。
「尻腐れですね」
ふいに、落ち着いた男の声がした。
顔を上げる。
そこには、よい身なりの、明らかに貴族と思しき男性が立っていた。
整った服装。
無駄のない姿勢。
穏やかそうな顔立ち。
……そして今。
この人は、尻の話をした。




