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第1話 ご自由にお持ちください
子爵家同士の、良い婚約だと思っていた。
しかし、婚約は破棄された。
心が整わない。
壊れた心とは裏腹に、窓の外には整えられた庭が見える。
彼と歩いた庭。
美しいと言い合った薔薇。
私は、あの庭を――。
薔薇をすべて摘んだ。
数本ずつ束ね、箱に入れる。
看板を書き、公道へ引きずり出した。
「ご自由にお持ちください」
心が、少し落ち着く言葉だった。
どうか次も、誰かの心を癒しますように。
根も掘り起こした。
いくつかは嫁いだ姉の庭へ。
入り切らなかったものには、やはり看板を添える。
「ご自由にお持ちください」
彼にもらった食器、宝石、鞄、靴。
それらにも同じ看板をつけたところで、 父に止められた。
「売りなさい」
その通りだと思った。
全部売った。
そして私は、 トマトの苗と鶏糞を買った。




