聖女とギャルの、朝湯に溶ける秘めごと
静かな朝だった。
温泉宿の山霧が、ゆるやかに大地を包む。
露天風呂の湯面は静止し、湯けむりは祈るように天へと昇っていく。
そして、その中央に――ひとりの少女がいた。
白銀の髪。
薄桃の肌。
白羽のような肩が、湯面から静かに覗いている。
セラフィーナ・ホープ。
かつて神に祈り、今なお神の加護を受ける“奇跡の聖女”。
その背には、翼などない。
だが、彼女の静かな所作は、見る者すべての心を洗う――そんな気がした。
「……ふふ。今日も、いい湯です……」
小さく笑う。
裸身を包むのは、ただ白濁の湯と、陽の光だけ。
胸元には露を集め、なめらかな腹筋と曲線が、湯の揺らぎに合わせて微かに踊る。
(……あの人は、今、まだ眠っているかしら)
セラフィーナの頬に浮かんだ朱は、湯気のせいだけではない。
思い出すのは、“あの少年”――
彼女が世界に祈りを捧げた、唯一の“価値ゼロ”の存在。
けれど、今この時は誰のものでもない。
「……すべてを忘れて、浸かっていたい……そんな朝も、たまには」
「わかるぅ~~~~~~~~~~~~~~」
ドボン!
横から豪快な水音。
現れたのは――エルナ・リフレイン。
金髪ギャルエルフにして、ハイテンション精霊魔法の使い手。
長い耳をぴょこぴょこ揺らしながら、彼女は当然のように湯船に飛び込んでくる。
「ってかセラたん、朝からえっっっろすぎるよ!? その背中反則だから! 人間やめてるレベルじゃん!」
「……いきなり声を上げないでください、エルナさん」
セラフィーナは困ったように微笑みながらも、肩をすくめて隠す気配はない。
むしろ、エルナが近づいてくるのを拒むようすすら見せなかった。
「それにしても……いい身体してんねぇ〜〜〜〜……」
エルナは横に並び、あからさまに視線を這わせる。
ふともも、くびれ、鎖骨。
視線はまるで手のように、セラフィーナの全身を愛でていた。
「鍛えてるってわけじゃないのに、どこもかしこもツヤッツヤじゃん……触っていい?」
「……今なら、許します」
「マジか!?」
エルナの指先が、そっとセラフィーナの腰へ伸びる――
けれど触れたのは、肉ではなく――
「……あれ、熱っ……!?」
「湯の精霊が、嫉妬しました」
セラフィーナが微笑むと同時に、湯がエルナの指を軽く弾いた。
「なにそのチート能力!? セラたんズルすぎない!?」
「……嫉妬、ですから」
そう言って、彼女は視線を外の空へ向けた。
朝霧の中、世界はまだ眠っている。
けれど、気づかないうちに、その“祈り”は静かに届きはじめていた。
――この世界の“評価”そのものに。
そして、誰も気づいていない。
彼女の祈りが、神々すらも遠ざける“特異点”になりつつあることを。
今はまだ、ただの静かな朝。
美しい湯の時間。
しかし――
セラフィーナの祈りは、確かに“何か”を変えはじめていた。




