70話・レニファティウス、娘が無茶過ぎる。でも可愛い。好きっ。
食事の時間になった。
食事と言っても昼ではない。そう、夕食だ。
昼食時はロゼッタの行動を聞いて驚いていた後にひょっこり帰ってきたロゼッタとの食事会となり困惑状態のままだったのと、なぜかロゼッタと一緒に現れ普通に食事をしていた魔族と思しき少女が何者か分からずパニック状態のまま終わってしまった。一応、聞きはしたんだ。しれっと妹ですと言われて「そうか」としか言えなかったのは父としてちゃんとできていなかったと今では反省している。
いや、ロゼッタが拾って来た少女だというのならちゃんと飼うくらいは許可しようとは思うのだ。ロゼッタは優しい子だから人間領で一人寂しく死を迎え掛けていた魔族の子を持ち帰ってしまったのだろう。魔族であろうがロゼッタが欲しいというのならば私は国王に直談判してでも許可を取って来るつもりだ。ロゼッタに後ろ指さされるようなことはさせない、しっかりと王を脅してでも許可を持ち帰ってやる。愛してるよロゼッタ。
昼間は結局聞けなかったから、夕食時である今回は、しっかりと最後まで聞かないと。
ロゼッタを愛でたい気持はあるが、ここは心を鬼にして聞かねばなるまい。
口を引き締め顔を真面目に、崩れないように常に意識せねば。
「さて、昼間はあまり聞けなかったがロゼッタ。今朝方は何をして来たんだい?」
「もぅ、お父様。影さんに私を探らせてるんでしょう。聞かずとも分かってるくせに」
ぷぅっと頬を膨らませるロゼッタ。なんだこれは、可愛い。可愛すぎるっ。
なんという攻撃か。これは顔を強張らせねば崩壊してしまう。さすがに世の父親共のように子供に対して鼻の下伸ばしてアホ面を晒す訳にはいかない。侯爵家の家長として威厳だけは保たねば。ああ、でも可愛い。見てくれセバス、パンナ。我が愛娘は可愛いだろう?
「一応の動きは分かっているが、親としてロゼッタ自身から聞きたいんだよ。分かってほしいものだな」
「ロゼ、お願い。私にも聞かせてくれるかしら?」
私の言葉にパンナも両手を祈るように握り、ロゼッタを促す。心配性なパンナのことだ。きっと今回の話は気が気じゃないのだろう。セバス。もしかすれば途中倒れるやもしれん。任せるぞ?
セバスとアイコンタクトを交わし、私はロゼッタの言葉に注視する。
さぁ、何をしてきた? 途中までは分かる、しかし縦穴に入ってからは影の監視範囲外。そこでなにがあり、横に居る魔族の娘を拾うこととなったのか。さぁ、教えてくれ、ロゼッタ。
「ええと、ですね。まずギルドにいって仕事を受けようと思ったのですが、ダンジョンの話が聞こえて来まして。せっかくなら覗いてみようと思いました」
「まぁ、ダンジョンなんて魔物が出るんでしょ? 危ないわよロゼ?」
パンナよ。外に出た時点で魔物は出るぞ? その魔物も既にロゼッタは倒している、ふふ、ゴブリン程度は脅威にもならないとはロゼッタはさすが自慢の我が娘だな。
しかし、戦闘など教えたつもりはないのだが、ボーエンが教えたのだろうか? まぁ、護身術は身につけた方が良いからとやかくは言わんが。
「それで、どうしたんだい?」
「あ、はい。ダンジョン近くで出来る依頼を受けてダンジョンに向かいました」
レベル200推奨のダンジョンということは言わないのか? 言葉を濁すのは頂けないぞロゼッタ。ああ、もしかして親離れの時期なのかい? 反抗期? そう言えば子供には親のやること全てに反抗心を覚えるという反抗期があるのだったか。嫌だ。嫌だぞ。ロゼッタに拒絶されてお父様嫌いとか言われるの絶対嫌だからな。
「えっと、その……推奨レベル200の邪神の洞窟という場所を覗きに行きました」
「え? れ、レベル200? 貴方、確か、昔見学に行った洞窟は推奨レベル1でしたわよね?」
「ああ、初心者用の洞窟だな。あちらはEランクに上がった冒険者が最初の試験で向かう場所だ。ロゼッタ、なぜそちらに向かわなかった?」
一応、少し逡巡したあとロゼッタは正直に自分が向かった洞窟を吐いた。
パンナが驚いて狼狽しながら私に尋ねる。
そうなんだよな。なぜ初心者用洞窟に向かわなかったのか、ロゼッタ。そっちに行くことだって出来ただろう?
「え? えっと、冒険者が噂していたのが邪神の洞窟でしたので」
「そうか」
「ダメよロゼ、危険だわ。そんな場所に入ってはダメよ?」
「えー、と、その……覗いて来ました」
あはは、と頭を掻きながら告げるロゼッタ。うぅ、可愛い。抱きしめていいだろうか? いや、威厳を保たねば。うぅ、ロゼッタ可愛いーっと抱きしめたい。ぐりぐりして痛いのよ髭がと言われてもまだぐりぐり抱きしめたいッ。ロゼッタの脇を抱えて高い高いしながらウチの娘は最高だーっと叫びながらくるくる回りたいッ。
ああ、でも血涙を飲んで問い詰めねば。
「覗いただけではないだろう。正直に言いなさい」
必死に思いを押し殺しながら告げる。ちょっと感情を殺し過ぎたか? 気まずげなロゼッタは周囲に助けを求めるように視線を彷徨わせ、隣で食事を取るクソガキ……失礼。魔族の娘に視線を向ける。
あの顔、なんでこの状況でこいつは食事してるんだ? って納得いかない顔している。
「えーっと、その、折角なので中も見てみたくて、入っちゃいました」
「そんなっ!?」
パンナが立ち上がって絶望したような驚きをしていた。
あ、これはもう許容量一杯だな。セバス。
「んで、ダンジョン進んで最初の角でオルトロスに襲われました」
「あぁ……」
感情が振り切れたようで力無く倒れるパンナ。既に倒れると分かっていたセバスが彼女を受け止める。
「すまんがセバス、パンナを自室に」
「かしこまりました」
メイドを呼んでパンナが自室へと運ばれていった。
ふぅ、ほんとパンナはロゼッタのこととなると心配性だな。前に頭をぶつけた時も気絶したし。ふふ、親子揃って可愛いなぁお前達は。愛してるよパンナ。
さて、パンナもいなくなったし、本格的に聞くとしよう。ここから先の話はパンナには荷が重かろう。私もどなり散らしたり興奮しないよう冷静に聞き取らねば。
「それで、続きを聞こう」
「あ、はい。えーっと、オルトロスに襲われたのですが、ボーエン先生に教わった防御魔法の御蔭で無傷で撃退できまして、私はトドメを刺すだけで済みました」
「ほぅ、ボーエンの防御魔法か」
やはり、あのボーエンという平民かなりの魔導師のようだ。
いい拾いモノであった。
ただ、あまり娘に近づきすぎるようなら処理せねばならんが、今の所ロゼッタはリオネル王子が好きなままのようだし、婚約者を変えるなどのことはしなくてもよさそうだ。
手続きが面倒だが、もっといい男がいるというのなら私は応援するぞロゼッタ。でも父として相手がちゃんとした相手かどうかはしっかりと尻の毛の数まで調べ尽くしておくがな。ダメだと思ったら秘密裏に消えて貰うさ。
「それで、防御魔法があれば傷つかないってわかったので、奥に向かってみました。ボス部屋に辿りついて、一目だけ見て帰ろう、と思ったのですが、出会いがしらにブレスを吐かれまして、防御魔法がその全てを跳ね返してケルベロスを撃破できたので、さらに奥に向かいました。ただ、このまま歩いているだけだと大して移動できずに昼になると思ったので、道を縦にぶち抜いて、最下層まで一気に下りてみることにしました」
「一気に、最下層?」
ん? 一気に? え? 最下層? ちょ、ちょっと待て。あの縦穴に降りた話、最下層まで直通したのか!? クソ、影共、なぜ追わなかった!? ロゼッタが最下層って、邪神と対面するではないかっ! お前ら護衛だろうが、なぜ一緒に落ちなかった! 死んででも守るべきだろうが!!
「はい、邪神のいる最下層、に封印されてたのがここに居るキーリです」
掌で隣の魔族娘を紹介。え? それ、邪神?
衝撃的過ぎて覚悟していた何かが一気に決壊、食べてたモノを思わず噴き出した。
「は? 邪神?」
「テイムしました」
「は? テイム?」
「ボーエン先生に教えて貰ったんですが、先程テイムしたと告げたらテイムはちょっとエッチな魔法だと教えられてしまって。その、知らずに使ってしまったのでちょっと恥ずかしいです」
え? どゆこと?
娘が巣立ちました。
一人でお使いではなくダンジョン攻略して来たようです。
攻略場所は邪神の洞窟。推定レベル200越え。邪神のレベルはさらに高い。
そんな場所で邪神自身をテイムして帰って来たそうだ。
テイム? テイムってなんだったっけ? あれ? 考えがまとまらな……――――
「お、お父様ァ――――ッ!?」
ロゼッタの悲鳴じみた声を聞きながら、私の意識は遥か彼方へと飛んで行った。




