26話・ロゼッタ、平民街は臭くて無理だった
市場にやってきた。
どうやら市というよりはフリーマーケットのようだ。
布を広げて、そこに商品並べて座り、行き交う人が足を止めて買い物を行っている。
ここは馬車を止める場所がないらしい。
適当な場所に止まって貰って見るのもいいけど、とりあえず、どんな感じか馬車の上から見るくらいか。
平民たちが、なんだなんだとこっちを見て来る。いやん、私の方が目立ってる。
動物園に来たら動物達から一斉に観察されている気分である。こっちが動物扱いだよ。恥ずかしいな。
馬車の上から市の説明をかるぅく教わり、商業ギルドへと向かう。
市の中を歩いたりしない以上、これはここで終わりである。
いろいろとにぎわってるなーと覚えておこう。
どうも、現代世界での日本以外の市場に似てるようで、女性たちが服を両手や頭に抱えて歩いていたり、ツボに入ったコブラっぽい物を笛吹いて躍らせてるお爺さんとかがいた。
とりあえず、毒耐性くらいは手に入れてから来よう。
市場は貴族にとって魔窟なんだよっ。怖いな。
商業ギルドは、かなり大きな施設だった。明らかに儲けていらっしゃるのがすぐ分かる。
まさに複合商業施設だね。ジャ○コとかが容易に思い浮かぶよ。
馬車止める場所も広い広い。そして馬だらけだから臭い臭い。うっぷ、ここ無理。でも商業ギルドは……後日また来よう。停留所には近づかないようにして……
なんてことだ。普通に平民街移動する以前に糞尿の臭いが一番のネックなんだよ。
今更だけど私、平民街に行けるのかしら?
今回は、やっぱり外に出るのすら無理だったんだよ。
涙目で鼻を押さえて即座にサヨナラしたい気分だよ。
商業ギルドは冒険者ギルドよりもにぎわっている。
馬車が多いのは、やはり行商人が多いからだろう。
あと、馬糞清掃してる人多い。どうやら商業ギルド付きの専門職のようで、冒険者ギルドや他の施設で適当な掃除していた人達より、しっかりと掃除している。おそらく、そういう職業があるんだろう。冒険者とは違う、誇りを持った馬糞清掃業者が。
毎日馬糞掃除か。絶対にやりたくないな。病気になりそうだし。
ゴム手袋とかあればいいけど、この世界には無いようで、全員素手で掃除している。うん、絶対病気になるわ、これ。
商業ギルドから待合所へ。
ここもやっぱり馬臭い。
ここは他国や村へ向うための馬車の停留所。
個人所有のものではなく、国で管理している乗合馬車用である。
各村からおのぼりさん達がやってきたり、夢破れたおのぼりさんが村へ帰ったりするために二日に一度馬車が出るらしい。
で、数日かけて村を巡り、戻ってくるコースとか、そのまま別の国に辿りつくコースとかあるようだ。
車とかもある訳が無いので馬車での移動だ。一県分跨ぐ距離を馬車移動なので当然時間がかかる。
それゆえに何日も掛けて移動することになるのだろう。
食料などは自前で、宿も自前。金が無い奴は、そのまま馬車で寝泊まりしながら各村を通り過ぎるそうだ。
異世界って大変ね。日本の交通が懐かしいわ。
電車に車に飛行機に船。日帰り国外旅行だってできるんだから、日本って随分便利だったのね。
ちなみに、たまに野性の魔物や野盗に遭遇するらしく、この待合所の馬車にも冒険者ギルドから派遣された冒険者が常時護衛に付いているらしい。
今はごっついおっちゃんが両手剣っぽく長くて無骨な剣を肩にひっさげガハハと笑っている。
他のメンバーは弓使いの優男、魔法使いかな? 目元のキツイ、鼻もちならない態度の女性。この人はおっちゃんをジト目で見つめているからおっちゃんが下ネタでも発して笑った事を卑下してるのかな?
それと顔を赤らめ下を向いてしまっている女の子。多分回復職だ。神官っぽい服をしてる。
「野盗が出た場合って、あの人数で対処できるの?」
正直、一パーティー程度で対処できるとは思えない。
大きい盗賊団だと100人前後とかだろうし、それが一気に襲ってきたら大変だよ?
あのおっさんたちで女の子達守れるの?
一応、盗賊達とは暗黙のルールがあるらしく、冒険者達は敵わないと思ったら武器を捨てて投降することも出来るそうだ。
そうなると馬車の荷物だけを奪って盗賊達は去っていく。
たとえ冒険者に女の子が居ても放置なんだそうだ。
理由? だって、投降した冒険者を殺したり襲ったり犯したりすれば、国家やギルドへの敵対行動と判断されて、国単位で組織された兵士と冒険者の合同部隊が周辺の盗賊纏めて討伐を開始するかららしい。
普段は敵対してるらしい騎士団と冒険者も、この時ばかりは協力するから盗賊が幾ら数多くても地獄を見ることは明白。
ゆえに盗みはするけど投降するなら冒険者の命や操は保障するっていう暗黙の了解が出来たんだそうだ。
まぁ、それでも凶悪な盗賊団は問答無用で殺しにかかってきたりするんだけどね。
ただ、どんなに凶悪な盗賊団でも回復職の女の子だけは絶対に襲わないらしい。
理由は簡単だ。彼女達が所属しているのは冒険者ギルドや国ではない、宗教だ。
教会に喧嘩を売ったが最後、この世界の神への冒涜が行われたとして全国の狂信者が、こぞって押し寄せ山狩りが行われる。
不心得者は邪神の使徒として処刑される。その処刑方法があまりにもおぞましいということで、盗賊たちも教会には絶対に敵対しようとしないのである。狂信者ヤバいな。
「ここいらは比較的盗賊が少ねぇだちょな。魔物も街道さはぐれなけりゃ危険な生物は殆どいねぇし、あの人数でも充分護衛できんだや。定期運行してる馬車だし、戻って来なかったら即騎士団が動くことになっとぅし、そこまでの危険はないだちょな」
へー。ゲームでいう始まりの街みたいなもんだろうか?
それにしても、騎士団動いてもこの国の騎士団だよ。むしろ野盗に撃退されんじゃない?
国落としの野盗だ。ヤバいな。
早急に国防力あげるべきだよ国王陛下。