1891話、???、終わる生命
SIDE:???
「しかし、この魔道具は便利だな」
四人の声だけが聞こえる。
随分とのんきなモノだ。
私がこうして死にかけているというのに、なぜこいつらはここで楽しそうにしているのだろうか?
「遠くの映像を見る魔道具だっけ?」
「ええ。ロゼッタお嬢様が御作りになられたとても素晴らしいものです。おかげでこの場所からでも各国の奮闘を見ることができます。ふふ、アルケー嬢も頑張っておりますなぁ」
「そう言えば老害、貴様アルケーニスを乗っ取るとか言っておらんかったか?」
「はい、言っておりましたよ老害二号ババァ殿。でも、止めました。何しろアルケーニスの新首領はロゼッタお嬢様が手ずから育てたナッシュ君ですよ! 彼を弑して首領になるなど愚の骨頂! 傍で見るに決まっているでしょう!」
「なるほど。それは傍で見るしかないのぅ」
何を言っているんだこいつらは? それよりも助けろ。
私を助けるのだ。お前らのすぐ傍で死にそうになっているのだぞ。
私がいることくらい分かっているだろう、なぜ無視している! おい、おい!!
「ああ、そうです、そこのシスター服の」
「あぁん? なんだババァ」
「レミーネさんでしたか、彼女、ケルシスという男性と結婚するそうですよ」
「ほーん。あいつ結婚出来たんだ。あの容姿でよくもまぁ」
「いえ、あんたがそうするように仕向けた姿でしょうに、ほんとクズですね」
「幼児性愛者のクソ紳士に言われたくねぇよ」
「ほっほっほ、そちらの紳士はほんとクズですなぁ」
「闇組織牛耳ろうとしてたクソジジイがよくも言いますね」
お、おい、険悪なムード漂わせてる場合じゃないだろ。お前らここで戦う気か!?
やめろよ、死にかけてんだよ。
下手したら余波で死ぬだろ、もう残りが少ないんだって。
「お待ちなさい、まったく血気盛んな輩は、場所を弁えなさい。ここはロゼッタ神様始まりの地となるのですよ。貴方たちが万一暴れてアレに傷でも当たれば苦労が水の泡になるではないか!」
「お、おう、すまない?」
どうやら老婆の剣幕に他の三人が我に返ったようだ。
何だ今の悪寒は? まさかこの私が怯えたのか?
こちらに指向されていない怒りで?
そんな馬鹿なことがあるものか。我らは神に作られた終末装置。
それが怯えるなど、神以外にないではないか、そんな存在が四つも集まる訳もない。
なんなのだこいつらは?
攻撃してくるでもなく、助けるでもなく、ただ私の前で雑談をするのみ。
「しかし、ここまで追い込まれて大丈夫なのですか?」
「うーむ、さすがにここまでは想定外ではないですかな? 私としても手伝いに向かいたいのはやまやまなのですが」
「他国の兵士共がたわいないのが問題じゃわい。じゃからロゼッタ神教に入れと全国を回ってやったというのに」
「この宗教かぶれのババァ野放しにしちまったの誰だ?」
「もうすぐなんじゃがなー」
「本当に、もうすぐなのですがねぇ」
「ああ。あと少しだなぁ」
「楽しみで仕方ありませんな」
そう告げた四つの視線が、私に注がれた気がした。
まるで獲物を見据える蛇か何かのような冷めた視線が私を射貫く。
いや、土の中にいるので実際には姿が見えないはずなのだが、なぜだか彼らには見透かされている気がしなくもない。
そろそろ、キツい。
もう、限界が近――――ああ。そうか。
私は理解した。
彼らが集まっていた理由を察した。
待っているのだ。
彼らにとっては獲物は私だ。
私が力尽きるその時を、今か今かと待っていたのだ。
ああ、では、ではもう、私を助ける者はいないではないか。
きっと彼らは神が助けに来ようとも邪魔をするだろう。
私が命尽きるその瞬間だけを見に来ているのだから。
だが、なぜだ?
なぜ私の死に様を見たいのだ?
お前たちは一体、何を求めて待っている!?
ああ、怖い。
怖いぞ、相手がなぜ私の死を待っているのか、その理由すらわからないというのは!
―― 頼む、教えてくれ ――
だから、私は残る力を振り絞り、尋ねた。
―― なぜ、なぜお前たちは、私の死を見守るのか ――
一瞬驚いたように、しかし、代表して老婆が答える。
「我らがロゼッタ神様の生誕のために」
なんだ、それは?
一瞬何を言われたのかわからず困惑し、しかし、命尽きるその瞬間、理解した。
私を殺す相手だ。
ああ、そうか。私を殺そうとしている謎の誰かは、そうか、神になるお方で、あったの、か。
ああ、ダメだ。
体力が尽きる。
私の意識が消えていく。
神よ、我らが神よ。
我に意味を与えし双神よ。
其方らの望みを行えなくて、すまない。
そして。
新たなる神を目指す者よ。
よくも、否、よくぞ我を倒した。
この三つの災厄の一つベヘモータの全て、持っていくがいい。
ああ、もう、眠……い――――




