1880話、フェイル、ライオネル防衛線7
SIDE:フェイル
「ふぅ……ふぅ……はぁ……」
久しぶりな気がするな、息切れをするというのは。
随分と、強化兵相手に暴れたものだ。
すでにライオネル軍には霊薬が効かずに撤退を余儀なくされた者たちが出始めている。
彼らはダンジョン内へ避難させてあるので問題はないが、霊薬が効かなくなったのが一時的なのか、一生なのか、そこが不安要素だな。
戦況は、正直言えば絶望的だ。
私たちが訓練した意味はなんだったのか、と自分の不甲斐なさに泣きたくなる。
しかし、我々は知っている。
どれほど絶望的で、どれほど自分より危険な存在が相手であろうとも、背を見せ逃げることはせず、己の出来得る全てを使って勝利を手に入れた英雄の背中を。
「オスカーが上手くやってくれることを祈るしかないな。ふふ、我ながら他人任せとはな。ん?」
軽口告げて霊薬を飲み干し、気付く。
回復、しない?
先ほどの超巨大強化兵の一撃で全身激痛なのだが、その痛みが一向に引かない。
そうか、私もついに、回復限界を超えたか……
呪詛を吐きたいところだな。
だが、むしろ今までよく私の体を回復してくれた。
痛みはあるが、動けない程じゃない。
「フェイル総司令官、下がってください!」
「いや、私は……」
「総司令官ってのは一番後ろで陣頭指揮するもんだろ」
「ゼオール、しかしだな……」
「ちょうど近衛部隊も戦線で活躍してるしな、相方のサロックもいる、ここは……」
「俺らに任せてくださいや」
そうはいうがゼオールたちももう回復限界が近いだろう。
私だけ前線を引くのは……
「違うだろ総大将。ライオネル軍の、いや、この連合軍の総指揮者はあんただ。一番辛い立場だぜ。俺ら全てが居なくなるまで倒れることすら許されないんだ。奥で俺らが倒れる姿、その目に刻み付けておけ」
「おいセルドバレー。ったく、フェイル総大将。そういう訳なんで父さんたちがここは任せろというので、総司令官は指揮に専念してください。他国の兵にはまだ指揮者が必要ですから」
「……すまん」
最前線まで出張っていたが、ヘイデン達に任せて私はライオネル城付近まで撤退する。
そう、だな。旗はその軍最後の希望。
この旗がはためくかぎり、我々は負けていないと立ち上がることができる、はずだ。
だから、私だけは。私だけは最後まで倒れる訳にはいかないのだ。
―― む、前線がまた後退したか ――
戻ってくると、いつの間にかヴァルトラッセ達が来ていた。
助っ人に来てくれた様子だが、すまない、力足らずでもう敗戦が近いんだ……
―― 否。お前たちはよくやっている。この星の星界樹も称賛していた。ゆえに、まもなく、だ ――
なんのことだ?
―― おお、フェイルよ、戻ったか! ――
こちらの念話は、ヤマダ王ですか。
―― 悪い知らせと最悪な知らせがある、どちらから聞きたい? ――
「どちらも悪いのなら、最悪な方から聞かせてください」
―― いや、おそらく他の話が入って来なくなるだろう、ヤマダ王、悪い知らせから頼む ――
ちょ、ヴァルトラッセさん、何で情報に介入してくるんです。まさか、最悪な知らせは貴方たちもご存じで?
―― 我々の情報はこの世界に存在する草木全てからだ。なので状況は既に把握している。ゆえに、まもなく、だ ――
だからなんのまもなくなのですか。
―― 悪い知らせだが。ロゼッタ嬢が取り付けたライオネル城下町の迎撃システムが損壊した。これ以上の防衛は無理。王城も超巨大強化兵との激突で崩壊寸前。グランザムたちは既にダンジョン内に避難済み。リオネルは見当たらないが、エリオット王も無理矢理ダンジョンに押し込んだ。ここに残っているのは我々旧国の陵墓だけだ ――
「そう、ですか。ライオネルでも、マギアクロフトの猛攻は止めきれません、か」
―― 首都の壊滅は事前の議題で上がっていただろう。ここまでは想定内。ここからが想定外だ ――
っ!? ああ、そうか、これは悪い知らせ、最悪の知らせがまだ、残っていたのでしたな。
―― まず覚悟を決めろ。喫緊の指示は全て終わらせておけ。ある程度はヴァルトラッセ側で引き受けるが、早めに思考を戻してくれ ――
そんなに悪い知らせなのか?
まさか、私の妻たちが死んだ、なんてことはないですよね。
彼女たちはダンジョンにいるのでそれはないはずですが……
―― ロゼッタ嬢が、負けた ――
……は?
一瞬何を言われたのか理解できなかった。
今まで盤石に思えていた足場が唐突に崩れていく感覚、からんっと旗が地面に落ちた。
誰が、負けた?
え? 負け? 誰が?
知らず、両膝ついて呆然としていた。
それは絶対にありえない。あってはならない最悪の知らせだった。
私たちが柱としていた、ライオネル兵の根幹が、揺らぐ……
私は、私たちは――――




