1878話、レグダス、ヘルツヴァルデ防衛線7
SIDE:レグダス
ああ……ヘルツヴァルデが……
我が愛しき故郷が……
終わる、終わってしまう。
一人、王城のバルコニーから眼下を眺め、私は絶望していた。
元国王として、私はここに残ることを選んだ。
息子のプレッツィルには随分と酷いことをさせてしまっている。
私の失態で王を偽証させてしまい、国から追われる身となった。
ライオネルに身を寄せて、もう二度と帰ってこないと誓ったはずだ。
なのに、不甲斐ない私は彼を我が国へと連れ戻し、死んだはずの息子と瓜二つの隠し子だと偽って王位を継がせてしまった。
他の王を立ててしまうと国が亡ぶと思ったからだ。
だが、結果を見ればどうだ?
誰が王になろうとも、このように国は滅びへ向かっているじゃないか。
息子の覚悟を無為にしてまで王位を継がせたのは、絶望させるためじゃないのだ。
プレッツィルならばこの国をよりよくしてくれる、そう思ったから託したのだ。
断じて……断じて!!
マギアクロフトなんぞに蹂躙させるために国を継がせたわけじゃない。
奴らに殺させるために国の代表にさせた訳ではないのだ。
「許さぬ……」
神だか何だか知らぬが、我が国をここまで破壊した償いはして貰う。
必ず。必ずだッ。
―― 手伝いに来た ――
「あ、ああ。確かヴァルトラッセだったか、総大将はライオネルの兵に任せてあるし、国の代表は私ではなく息子のプレッツィルだ」
―― その息子から父を守ってほしいと頼まれた ――
なん、だと?
ヴァルトラッセと言えば超巨大型相手でも戦える貴重な戦力だ。
それを私などを守る為だけに一人使用する、だと!
「ならぬ、それはならぬぞヴァルトラッセ! いや、プレッツィル! すまぬ、私を息子の元へ連れて行ってくれ!」
―― それは無理だ。向こうは前戦、万が一を考えると死ぬ可能性が高い場所に連れてはいけない ――
ぐぬ……分かっている。私はパワーレベリングとやらを受けていない。
そのせいで強化兵と出会えば即死確定なのは分かっているのだ。
だが、だがそんな吹けば飛ぶような存在を守る為に最高戦力を送って来る必要はないはずだ。
「私はいい、君は強化兵の駆逐に向かってくれ」
―― 王からの命令と元王の願いでは優先度が違う ――
「ぐぬ……」
―― それに、どうやら勝敗は決したらしい ――
なに?
あ、あれは!?
そんな、そんな馬鹿な!? これだけの戦力をもってしてもまだ、なのか!?
マギアクロフトにはまだ余力があるというのか!
遠くに見ゆるは超巨大強化兵の群れ。
朝焼けの雲を掻き分け、絶望が迫りくる。
霧のように包まれた朝靄からゆるり、現れる悪夢は人々の士気を折るには十分すぎる戦力だった。
これまででも限界だったのだ。
ヴァルトラッセの援軍で息を吹き返そうとした矢先、敵のさらなる援軍は、最高戦力の量産投入。
人々の抗う気力を悉く奪い去る神による蹂躙。
絶望的な状況で現れるさらなる絶望。その光景に、私は思わず膝をつく。
知らず、涙が溢れ出た。
ああ、神よ、神よっ、なんたる酷き仕打ちであろうか。
少しでも逆らうならば徹底的に殺し尽くす、それが神のやることなのか。
この絶望的な光景を前にしても、きっと私の自慢の息子は迷いなく戦っているのだろう。
たとえ国が蹂躙されようとも、人々が無事ならばここは守るに値するのだと。
彼もまたライオネルの教えによってロゼッタ嬢に傾倒しているから、な。
ふふ、悔しいな。
愛国心を育ててくれたのは私でもこの国でもなく、他国の侯爵令嬢だとは。
惜しむらくは息子の嫁に出来ないことだろう。
優秀な彼女が国へと来てくれていれば……
「お隣、よろしいですかな?」
不意に、私の隣に誰かがやって来た。ヴァルトラッセが警戒もしていないので敵対するようなものではないのだろうが……容姿を見る。どこかの司祭といった出で立ちの丸坊主の老人。
「何だ貴様は? ここはヘルツヴァルデ王国国王の間だぞ? 誰の許可を得てやって来た?」
「常時ならば不敬罪で処刑でしょうが、この状況です。ここが一番この国が見える位置ですからな。まさか先客がおられるとは思いませんで。ああ。初めまして、私はロゼッタ神教ヘルツヴァルデ支部の最高司祭をやらせて貰っております。じいや、とでもお呼びください」
誰が呼ぶか。不審者め。
「絶望的な光景ですな」
チッ、こちらが無視しているのがわからんのか。本当に首を斬ってくれようか。
いや、待てよ、こやつロゼッタ神教の信者だったな。
つまり、我が息子の命の恩人でありヘルツヴァルデにとって敵国を強化した諸悪の根源であり、救国の恩人である存在だ。
「まもなくです」
―― そうか、まもなくか ――
「……何が?」
「約束の時は近い。ああ、ここからだと良く見えますぞ。共にご拝謁いたしましょう」
―― 護衛は任せよ。一人増えた程度負担にもならぬ ――
そう言う問題ではないのだが。まもなくとはなんだ?
敗戦の報告か? そりゃ確かにまもなくだが……




