1637話、テテ、私のこれから
SIDE:テテ
ふと、鳥のさえずりが聞こえて目が覚めた。
うっすら開かれた目に飛び込むのは天蓋。
見たこともない豪奢なベッドの天蓋に、一瞬どこにいるのか理解が出来ず、ぼーっと眺める。
はっと意識がはっきりした瞬間、がばりと上半身を起こす。
周囲を見回せば、初めて見るような豪奢な部屋。
赤い絨毯に真っ白な壁。キレイな天井につり下がっているのは綺麗な装飾の……なんだろう?
壁には絵画がいくつかかかっているし、高そうな壺もある。
こ、こんな部屋で寝てるとか、わ、私何しちゃったの!?
何があったか、思い出そうとすると、徐々に昨日の状況が鮮明になってくる。
ああ、そうか。私、家に戻れなく……なったんだ。
ううん、戻れない、じゃない、戻りたく、ない。
私はお母さんみたいに父の奴隷みたいな生活は、耐えられない。
「失礼します。入室してよろしいでしょうか?」
コンコンっとドアがノックされ、誰かの声が聞こえた。
「あ、は、はい!」
返事をすると、メイドさんが一人、ドアを開いてお辞儀をしてから入室してくる。
メイドさん、久しぶりに見たなぁ。たまに市民街の方に買い物に来てるからどういう役職の人かは知ってるけど、実際に屋敷で働いてるの初めて見たなぁ。
「お嬢様、そろそろ訓練のお時間が迫っております。食事を用意しておりますので着替えさせていただきます」
へ? え? あ、あの、やーぁ!?
有無を言わさず近づいて来たメイドさんにより強制的に着替えさせられる。
まさか自分で着替えることなく他人に着替えさせてもらうことになるなんて。
昔はお母さんに着替えさせて貰ってたけど、あの頃とはだいぶ違って事務的だった。
洗顔施設へと案内されて、その後部屋に戻るとすでにワゴンに乗った食事が運ばれていた。
これを食べろってことらしいけど、なぁにこの豪勢な食事?
パンとスープだった毎日と比べたら雲泥の差だよ!?
美味しい、美味しいけど量が多すぎて全部は食べきれない。
「残してしまっても構いませんよ。残りは下げ渡しになりますので」
さげわたし?
「身分の低いモノなどに余った食事を与える貴族のルールです。平民側のメイドや執事などの食事となります」
そ、そんなシステムあるんだ。
「といっても、ベルングシュタット家ではほぼ廃れた習わしですのでそこまで気になさらず。余った食事は別の誰かのお腹に収まる、程度に思っていてください」
ま、まぁこのまま捨てられるわけじゃないなら、いいか。
そんな食事を終えた私は、気分の浮かないままに三日目の騎士団訓練へと向かう。
守るべきモノはもうないんだけど、ロゼッタ様から今日もちゃんと出てくるようにって伝言貰ってたのでやってきた。
本日もすでにちらほらと人が集まっていて、シュクネお姉さんも私を見つけて軽く手を振ってくれた。
ただ、私の姿を見て何か気付いたのか、少し小首をかしげている。
しかし、私に何か尋ねるより早くロゼッタ様が来たので何も言えなかったようだ。
訓練自体は楽しい。
何も考えなくていいし、訓練の仕方だけを考えていればいいから。
もくもくと走って、ただひたすらに拳を打ち込んで、蹴りを行って。
軸足をしっかり付けて、腰から回して、打つ!
「なんかテテちゃん、今日真剣ね?」
「そ、そうです? いつも通りだと思います」
「あは、いつもも何も二回目だけどね」
それは確かに。
でも教え方がいいのか、昨日と比べると皆の動きが良くなってる。
運動神経がいい人は既に拳を撃つのも蹴りを放つのもびゅおっと風が鳴り響いてるし。
お爺さんお婆さんや私は本気出すと旋風が巻き起こるらしいのでかなり手加減して型取りの方を優先。
おかげである程度それっぽい型で動くことができるようになった。
そして、昼休憩の入り際、ロゼッタ様に呼び止められた。
どうやら今後どうするのか聞きたいようだ。
いくつか道を示されたので、そこから選んでほしいらしい。もちろん、他に私のリクエストがあればそちらを優先していいとか。
基本はロゼッタ様のお屋敷に住むか、ロゼッタ神教が運営している孤児院に行くか、巫女予定らしいし、教団の方がいいのかな? でもロゼッタ様、教祖のことは従う必要ないって言ってくれてるし、孤児院自体は教団の影響はほとんどないらしい。
他にも、宿を取って冒険者やったり、住み込みで商店などで働いたり、ロゼッタ様の紹介でプライダル商店って言う場所に住み込みするのもアリだって。その場合は騎士団辞めることになるけど。
こうして選択肢を教えてもらうと、家に帰れないから人生が終り、なんて考えてた自分は大分視野が狭かったんだなぁ、と思わずにいられない。
世の中は家に帰らなくても生きていけるようになってるんだ。そもそも成人したら家を出る人もいるんだから家にいないと生きられないと思う方がおかしいのだけど。
そっか、お母さんと父がいなくとも、私は、生きていて……いいんだ。
理由を聞いたシュクネお姉さんが私の家来てもいいよ、と言ってくれたし、普段私に声をかけてくる男子三人組も俺の家に下宿させてやってもいいぞ、とか言ってくれた。
理由を知った他のおじさんやおばさん、お爺さんたちまで、私の家で面倒見るよって言ってくれて、すごく嬉しかった。




