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1628話、テテ、ハハフッカツチチデテケテテヨリ

SIDE:テテ


「ただいまお母さ……」


 家に帰りつき、扉を開けた瞬間、酒臭い臭いに言葉が消えた。

 父がいる。

 最近お母さんが病気で倒れてから金が貰えなくなったからって家から居なくなってたのに。


「よぉテテ、待ってたぜぇ」


 家の中央にどかりと座り、すでに赤ら顔の父が半眼で告げる。

 びくんっと体が竦む。

 父は恐怖の対象だった。


 気に入らないことがあると殴ってくるし、下手に口答えすると蹴りまで飛んでくる。

 お母さんは父の酒代の為に必死に働いて病気になって、倒れてしまったんだ。

 なのに父はお酒に博打でお金を浪費し、母の治療代も生活費も奪い去っていく。


「何しに、来たの? もう、お金ない、よ?」


「テテぇ。仕事し始めたんだってぇ?」


 情報が早い。騎士団に入った情報をどっから手に入れたんだろう?


「給料日まで、お金はないよ?」


「だったらその手に持ってるもんはなんだァ!?」


 立ち上がってよろめいて。酒瓶投げ捨てふら付きながら近づいてくる。

 大柄な男の接近に、自然体が恐怖を覚える。

 思わず目を瞑って薬瓶を握る。


 ふと、恐怖に負けそうになった時、声が流れた。

 それはついさっき、絶望を抱いた時に助けてくれたお婆さんの言葉だった。

 きっと、絶望的な状況を救ってくれた人の言葉だったから、今回脳裏にかすめたんだろう。


 ―― ご加護を頂いたのに、哀れなことになるのは偲びありません、ええ。それはロゼッタ神様がお嘆きになってしまいますとも ――


 ロゼッタ様がお嘆きになる。

 その言葉で思い出すのは、今日の訓練。

 私は、そうだ、お母さんを守るために強くなったんだ。

 理不尽なことに抗うために。


 お爺さんとお婆さんを思い出せ。

 あの速度で拳を振るい、壁を走り、蹴りでミノタウロスの首を叩き折った彼らの姿。

 私も、同じことができる。だったら、だったら!

 レベル上げすらしてない父に恐怖なんて感じる訳がない!


 ―― やるべきことを成しなさい、それが貴女を幾重にも成長させるでしょう ――


 目を開く。

 キッと睨み上げると、それに気付いた父が苛ついた顔になる。


「何だァその目は!」


「これはお母さんの薬なの! あなたのじゃ、ないっ!!」


「親に対してなんてぇ態度だテテぇ!! 教育が必要だなァ!!」


 父が拳を握る。

 怖い、こわい、こわ……い? 遅すぎない?

 全身が戦闘態勢に入ったからだろうか? 父の動きがあまりにも遅くなる。

 間延びした父の咆哮と、ゆっくりと振り上げられる拳。

 

 殴れる、蹴れる、軽々避けられる。

 覚悟を決めれば簡単だった。

 父にもう、恐れる必要はない。私の方が……強い!


 守るんだ。お母さんを!

 もう、父に搾取なんてさせない! お母さんの健康も、これからの人生も、私が守る。貴方は、いらない!

 拳を握る。薬は割らないように床に置いて、一気に距離を詰める。目の前の急所目掛けて、思い切り……


 ―― 守る側になるんですから加害者になっちゃダメですよー ――


 っ!?

 インパクトの瞬間、ロゼッタ様の言葉を思い出した。

 今、全力で拳を打ち付けたら父は死ぬ。私が殺してしまう。

 それが拳を打たなくても理解できた。

 とっさに手加減を使って速度を落とす。

 それでも、父は私に反応すらできず、股間に拳が直撃した。


「こぽぁ?」


 拳を引き抜き距離を取る。

 股間を押さえ、父が崩れ落ちた。

 白目を向いて泡吹いて悶絶を始める。

 ちょっと、まだ強すぎたかも?


 と、ともかく、まずはお母さん!

 薬を取りに戻り、父の横を駆け抜けベッドに寝た切りのお母さんの元へ。

 すでに栄養状態も悪く、しわしわのお婆ちゃんみたいになっているお母さんに薬湯をなんとか飲ませる。

 うわ、凄い! さっきまで凄く苦しそうだったのに、呼吸が安定し始めた。

 

「……ん……テテ?」


「お母さんっ!!」


「私……体が、軽い?」


 ロゼッタ様の薬、やっぱり凄く高価な奴だったんだ!

 お母さんの病気も良くなって、いきなり上半身を起こせるまで回復してくれた。


「お母さんっ! 良かった! 良かったよぉ」


「テテ。ごめんね、苦労したでしょう? でも、どうやって……」


 涙で何も見えないけど、私はお母さんに抱き着く。

 お母さんの戸惑いも分かってるけど、今はただ、今だけは……


 ……

 …………

 ……………………


「あなた……」


 父の状況を聞いて、落ち着きを取り戻した私とお母さんは父を家から放逐することに決めた。

 まだぴくぴく痙攣していた父を家からだしたんだけど、ドアの先の父を見つめて、お母さんは凄く悲しそうな顔をしていた。


「お母さん、まだ父のこと好きなの?」


「……どうかしら? 昔の、素敵なあの人のことを覚えてるから、未練があるのかも。でも、テテのお金にまで手を付けるつもりなら、もう……」


「うん。父が来ても、私が守るよお母さん。私、すっごく強くなったから! お仕事も、頑張るから!」


 家にはあの人入れないようにしてね。私が留守の間は特に!

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