1622話、とある少女、ジジババの覚醒
SIDE:テテ
「え、えい!」
凶悪な顔のミノタウロス、その脛に引けた腰でなんとか一撃を加える。
この紙おむつという装備からして、嫌な予感しかしないなぁ。
でも、強くなるためなんだし、お母さんの為に、頑張るんだ。
「ふぅ……」
ミノタウロスに一撃を加え終わると、たった一撃なのに緊張からか、足ががくがくして少し離れた場所まで歩いただけで座り込んでしまった。
遅れて恐怖が押し寄せてくる。
こ、怖かった。目を瞑ってミスするといけないからってしっかり見て攻撃するんだよ、と伝えられてしまい、鼻息荒いミノタウロスを真正面から見てしまったのだ。
あんなのと普通に遭遇したら確実に殺されてるよ。
「お嬢ちゃん、大丈夫かい?」
「あ、お婆さん、は、はい、ちょっと真正面から見たら怖くて」
「あらあら。普通の牛さんより強面だからねぇ。確かにあんな強力な魔物は冒険者時代でも倒したことはなかったかしら。ねぇお爺さん」
「ほっほっほ、ミノタウロスの乳を搾っても牛乳はでんのじゃよ。斧で殴られるから絞っちゃいかんぞお嬢ちゃん」
えっと、さすがにそんな無謀なことは、しないかな?
「お爺さん、最近ちょっとボケちゃって。一日六回はご飯食べるのよ」
それはそれで多いなぁ。
「何を言っとる! 毎日毎日儂だけ飯抜きにしおって、なんという妻じゃ。儂は毎日腹減らしとるのに!」
「お爺さん、毎日食べてなかったらお爺さんはもう死んでます」
「ほぁ!? 儂死んどったんか! お嬢ちゃん、儂死んどるらしいぞ!」
「えっと、生きてます、よ?」
「ほぁ!? 儂生きとったんか! 婆さんや、儂生きとるらしいぞ!」
あ、これ無限ループだ。
「よし、これで全員攻撃したかな? それじゃあ皆さん、これからこのミノさんを倒すので、レベルアップが一気に来ます。レベルアップ痛が凄いので気力を持って耐えてください」
へ?
「てい!」
ロゼッタ様がおもむろにミノタウロスに掌を向けた次の瞬間、ミノタウロスが消し飛んだ。
そして……全身を何かが駆け巡る。
「うっほぉぉぉ!? 来おったわ――――い!」
「あああ、お爺さんよりすごいのぉぉぉっ」
「――――っ!!」
声にならない悲鳴が漏れる。
痛い痛い痛い!?
全身から鳴っちゃいけない音が聞こえてくる。
なにこれ、ナニコレナニコレナニコレぇ!?
いつ倒れたのかわからないくらいのた打ち回った気がする。
全身で息をして、流れ出ていた涎を拭きながらなんとか起き上がる。
紙おむつの意味……わかっちゃった。
「はい、落ち着いたらこちらをお飲みくださいな」
水かな? あ、意外とおいしい。普通の水より飲みやすいし、ちょっと甘みがある気がする?
「ぬほぉぉぉ!? 意識がはっきりしてきおったわい」
「あら、痛かった腰がこんなに軽く!?」
「それから、こちらにシャワールームを用意しましたのでお使いください」
「あ、あのー。この水、もしかして普通の水じゃないんですか?」
「私特製の霊薬なんだよ。効能は体力全快、病気快癒、痴呆症も腰の痛みも吹っ飛んでいくんだよ」
それ、本当だったら凄い高価なのでは?
「あ、あの、その水、一杯分貰って帰ることはできませんか?」
「あら? どうして?」
「お、お母さんに……その、いえ、何でもないです」
「ふむ。じゃあ帰りに一杯だけあげるんだよ」
「あ、ありがとうございます!」
気休めかもだけど、お母さんが元気になれるなら。
それにしても、さっきまでと比べて体が軽いような?
シャワーを借りていろいろ綺麗にした後、元の服に戻して洞窟内に出てくると、結界内部にいるお爺さんお婆さんがものすごい速度で走ったりシャドーボクシングをしていた。
「ふほほほほ、現役に戻った気分じゃー!」
「見てくださいお爺さん! 壁だって駆け上れますよ! ああ、この感覚久しぶり!」
な、なぁにこれぇ?
「全員シャワー終わりました? じゃあもう数匹同じようにミノさん狩りますね。次からは痛みも少ないから漏らすこともないでしょう。レベル300まで上げちゃいましょう」
さん? え。 ええ? えええ――――っ!?
私は慌てて自分のステータスを確認する。
れ、レベル158? な、何このレベル!?
わ、私レベルは1だったはずなんだけど……
も、もしかしてさっきのミノタウロス……
「お、意外と上がってるね。さっきのミノさん特殊個体だったかな。普通は90前後なんだけどねぇ一体倒すと」
や、やっぱりアレ倒すだけでこのレベルになっちゃうんだ!?
じゃ、じゃあお爺さんたちがやってることって……私も、できる?
拳を握り、思い切り突き出す。
速い。自分でもびっくりするくらい速い。
わ、私、苦労せずになんか凄くなってるんだけど!?




