1617話、???、急募、ロゼッタ騎士団
SIDE:とある市民
「ん? 今日は随分通りが賑わってるな。兄ちゃん、なんかあったんか?」
男はふと、自分の仕事を止めて周囲の人に尋ねた。
市民街で肉を売る仕事をしている彼にとって、自分の店がある通りに人だかりがあるのは珍しいことだった。
思わず通りに出て尋ねてしまっても仕方のないことである。
「あー、肉屋のおっちゃん。アレだよアレ。立札っていうのか? 今日起きたらあそこに設置されてたんだ」
立札?
店に誰か来たら教えてやるよ、という気のいい兄ちゃんに留守を頼み、男もそれを見に行った。
人込みを掻き分け、立札前へとやってくると、なるほど、確かにそれは立札だ。
地面にしっかりと突き刺さり、屋根付きの家を平べったくしたような木板に文字が書かれている。
商売をする関係上言語はある程度読める男は、その立札を読んでみる。
―― 急募! ロゼッタ騎士団団員募集
先日、私ロゼッタと部下、そしてベルングシュタット私兵団によりベルングシュタット領内の闇組織一斉摘発を行いました。これでしばらくは領地内での行方不明、殺人、人攫いなどは無くなるとは思いますが、以後継続して闇組織が組織されないようにするためにも、新たなる私設騎士団が必要であると私は決断しました。ベルングシュタット侯爵代理に嘆願し、本日ロゼッタ騎士団の設立許可を頂きました。つきましては、我こそは、と思う市民の方々に騎士団員になっていただきたく思います。
募集要項:ベルングシュタット領市民、老若男女問わず
面接場所:領主邸横の空地、本日より七日間、午後の3の鐘まで
作業内容:ロゼッタ式武闘術習得による市内の安全パトロール
ロゼッタ式基礎講座習得による領内危険度マップ等の作成
ロゼッタ式護身術習得による危険人物の捕縛等
ロゼッタ式探索術習得による護衛対象の輸送警護等
※ロゼッタ神教教団員は教会の業務優先していただきたいため入隊禁止
守りたい誰かの為に
立ち上がる君を待つ
ロゼッタ・ベルングシュタット ――
ロゼッタ……ああ、あの町中疾走してた嬢ちゃんか。
あの嬢ちゃんが領主ってなぁ驚きだったなぁ。ああいや、領主は婚約者の方だっけか。
なかなかじゃじゃ馬な嬢ちゃんみたいだし、その部下となる騎士団なぁ、苦労する未来しか思い浮かばんなぁ。
「ちょっと、行ってみるか?」
「まぁ試しに、な」
「騎士団ってことはいい給料貰えるんじゃね?」
「ねぇ、記念に行ってみる? 女の子でもいいみたいだし」
「でも私たち子供だよ?」
「酒代でるなら行ってみるか」
「誰かの為に立つ、だってよぉ、ひゃはは、俺みてぇなのでもいいのかぁ」
周囲の数名が興味を覚えたようで向かうようだ。
今日からも募集しているのでさっそく面接を受けるんだろう。
「ま、俺ぁすでに仕事持ってっしな。誰も守りてぇ奴なんていねぇし」
頭を掻きながら店へと戻る。
「お、おっちゃんちょうどいいところに。呼びに行こうと思ったとこだぜ」
「悪りぃ悪りぃ。立札見て来たぞ」
客が来たようだ。ぎりぎり間に合ったようで、早速肉の注文が入る。
はいよ、ちょいと待ってくれ。
「バラ100とヒレ100だな。これでいいかい」
肉を包んで金と交換。
いつも通りのやり取りだ。
父と母が切り盛りしていた肉屋を継いで数年。
ようやく仕事着が板についてきた。
剥ぎ取りの仕方も覚えたし、解体方法も身に着けた。
なのに、なんだろうな?
毎日毎日同じことの繰り返し。
ふと、思う。
俺は一生このままなのだろうか、と。
おっさんになっちまった。
気立てのいい彼女なんていねぇし、妻に成ってくれる奴だっていやしない。
肉に塗れ、毎日臭い血だらけ生活だ。
決して華やかな日々はねぇし、ウサギやイノシシの肉を解体するだけの生活。
あとは商品と金の交換だ。
おばちゃんたちのいつもありがとうっていう笑顔だけが生きがいだ。
いや、悪いってことじゃない。この店は俺がやらなきゃ他の誰も成り手がいねぇからな。
ただ……ただもしも、もしも俺が肉屋じゃなかったら。
託せる息子でもいてくれたなら。
一も二もなく面接、受けにいってたんじゃねぇかな。
はは、柄にもねぇな。
いいおっさんだぜ? 今更そんなもん受けてどうすんだ。
なにより、肉屋放り出したらダメだろ。
ウチに買いに来てくれてるおばちゃんたちも居んだからな。
そうだ。俺は……
……
…………
……………………
「んじゃー、次の五名どうぞー」
あ、れ?
俺、なんで面接の列に並んでんだ?
服までわざわざ着替えてよ。シャワー浴びて臭い消して。何してんだ俺は?




