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-タンザナイト-  作者: プレイヤー1
タンザナイト――4
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タンザナイト――4―7

 舞奈に貰った飴をなめながらベンチに座っていた。

 泣き止んだ瑠璃は縮こまっていて、ただでさえ年齢不相応に小さいというのに、余計小さく感じる。


「陽平、何か言いたいこととかある?」

「……別に」

「許せる?」


 許せるかどうか。殺されそうになって殺されなかった、だから許せるか。たまたま舞奈に助けられて死ななかっただけだから許せないか。


 正直なところ、どうでもいい。殺されそうだったんだと理由をつけ、許したくないと叫ぶ自分がいれば、理久として会っていた時、悪意ではなく歪んだ好意によるものだから出来ることなら許したいと意見する自分がいる。俺の中では何となく決まっていた。


「もう殺そうとしてこないなら、か」

「お兄さん?」

「甘いというか優しいというか愚かというか、成人君主みたいなこと言うね。何だか呆れる」


 舞奈は溜息を吐くが、俺としてはハッピーエンド、とは言えないかもしれないが、これで閉めてしまいたいのだから仕方ない。


「そういえば、舞奈は何してたんだ? てっきり研究室に籠ってるものかと」

「多分、発信機か位置情報を知らせるプログラム仕込んだんですよね」

「そうだよ」


 寒気がするほど穢れないな笑顔を浮かべる。

「お兄さんはあの時、僕に殺されるかこの人に殺されるか、その二択を迫られていただけだと思います。違いますか。僕と貴女は、どこか似てますよね」

「舞奈……?」


 何も言わずに小さく肩を揺らす。


「そうだよ、うん、そうだよ。あの時この子を選んでたら、明日の日程は死体処理になってたところだよ。本当によかったよ、そんなことにならなくて」

「発信機はいつ?」


 口に溜まった唾を飲み込んで訊ねる。


「陽平が研究室を出る時」


 おそらくきっと抱き着かれたときだ。つまり、瑠璃を選んで何も気付かずに戻れば殺されていたわけか。即死トラップにしか思えない。


 これなら話し合いで解決できそうな瑠璃の方が可愛く見える。舞奈の事だから、もしかすると話を聞かず一方的に殺されていたかもしれない。毒殺や水を飲もうとした時に首を斬られる可能性もある。

 冷静を装うが、身体は正直で心拍数が上がっていく。


「なら、あの蝶のノイズは」

「なんのことかわかんないけど、そうかもね。だから、途中で止まってたのも知ってるよ。何してたのかは知らないけど」


 瑠璃に与えられた恐怖と、舞奈から現在進行形で与えられる恐怖を比べると、こちらの方が大きいのですけど。


 通話の相手が愛梨さん、女性だと知られると、殺される可能性もありそうだ。

 そうならないためにも舞奈には近いうちに説明しておいた方がいいかもしれない。


「お兄さんには、いつか絶対に、僕を見てもらいます」

「そうならないためにも陽平を私しか知らないどこかに閉じ込めておかないとね」

「自分に魅力がないからですか?」

「あっはは、その矮躯でよく言うね。その時が来る前に私がもらうし、仮に来たとしたら、その時は殺してあげるよ」


 さっきまで争っていたというのに、足りないと言わんばかりに火花を散らしている。もう少し仲良くしてもらえた方が、俺としては気分が楽だ。それともう一つ、さりげなく閉じ込められそうなのだけど、その時はどうすればいいのだろう。


 自分でもわかりやすいと感じる程の溜息が出る。


「どうしたんですか」

「どうしたの」


 二人は顔を合わせないが、互いに向けあっている殺気だけは痛いくらい俺にもに伝わってくる。


「なんでもない」


 言ってもどうしようもないだろうし、多分言わない方がいい。俺の予想する未来がそう告げているから。


 今、出来ることなら二人共から離れたい。しかし、今舞奈から離れれば後で殺されそうなので、せめて二人を剥すか、最低限、無関心くらいには取り繕ってもらいたい。でなければ、殺気で俺が死ぬ。


「舞奈って本当は、瑠璃を殺すつもりなんてないんじゃないの?」

「陽平もしかして。転んだ衝撃で頭壊れちゃったのかな」

「でもあのメッセージには、全員生きるか全員死ぬかって書いてあった。それって舞奈に殺意はなかったってことじゃないのか」


 そう、俺がそう思ったのはメッセージにそう書かれていたからだ。あの文章だと、少なくともあの時に殺意はなかったように思える。


「馬鹿なのかなー、というより馬鹿だよね。彼氏を、恋人を、殺そうとしている相手をなんで生かしておく必要があるの? 相手を助ける気があるように書いた方がきっと陽平は動いてくれやすくなるって、そう思ったから書いただけ。事実、動いてくれた。殺す気がなかったのはこの女の方」


 胸元で指先を合わせ、微笑むような表情で述べる。

 確かにその通りなのかもしれないけど、あまりいい気はしない。


「だったんだけど、剣もなくなって、いざその時が来ると殺せなかった。陽平を、裏切ることになるって思うと、殺せなかった」

「揺らいだのは貴女も同じじゃないですか」


 舞奈は何も言わない。言い返さない。

 今日はなんだかもう疲れたから、明日の朝まででいいから、その揺らぎとやらで物騒な殺意を吹き飛ばしてもらえないものか。


 なあお月さんよ。その光でなんとか場の雰囲気を少しくらいは改善してほしいものだ。

 そんな悪態も束の間、ここは愛梨さんの部屋でも、舞奈の研究室でもないというのに異様なほど瞼が重くなる。


 舞奈も瑠璃もいるのに、こんなどこなのかわからない公園で寝るわけにはいかない。わかっていても、寝ればいいという声は力が抵抗が無駄なほど強い。


 他人任せだが目を覚ました時、解決していたらいいなと、願うばかりだ。

 微笑んでいるようにも、含んでいるようにも思える笑みを舞奈に向けられながら眠りへと落ちていく。


 おやすみなさい、そんな具合に唇が動いて、最後、口の端が少しだけ上がった。

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