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-タンザナイト-  作者: プレイヤー1
タンザナイト――4
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タンザナイト――4―6

 俺の前に降り立った人影、それは髪の先まで蒼く染まった舞奈だった。


「なりすましの猫さん、払う鳥がいないからと調子に乗らないでくださいね」

「鳥にやられるのは貴女だと思うな、探女。そうだよね、陽平のこと射殺そうとしたんだから。邪魔な鳥たち追い出して。本性が割れた時が最後って知らなかったのかな?」


 舞奈は左手に持ったミネラルウォーターのキャップを開けると、それに応じるように、瑠璃はステップを踏むようにして後ろへ下がる。


「本性がばれてしまった後は、殺されて終わるよね」

「でもそれは鳥にばらされた者の末路。僕は自分から晒したけど、猫さんはまだ、だよね。だから、これからばらしてあげないと」

「探女のくせにカラー緑だからと果物の姫を自称する? 滑稽ね」


 互いに武器となるものを構え、煽りあっていることはわかるが、鳥だのなんだのと何を言っているのか全くわからない。俺がわかることといえば、猫さんがおそらく泥棒猫ということだろうということと、この中では俺が一番弱いだろうということくらいだ。


「そう? にゃあにゃあ鳴き喚いて僕を煽るためここにいる猫さんも相当だと思うよ」


 そう言って瑠璃は微笑む。

 舞奈に向けられているとわかっているが、威圧、牽制目的のそれから漂うオーラは、歪んだ感情も相まって本当に恐ろしい。


 瑠璃も舞奈も黙り込んで、無言の圧力が俺を襲う。


「お兄さんを殺されたくない、猫さんの願い事をかなえる方法がありますよ」

「私には君が身を引くか、君の首が転がるか、くらいしか思いつかないの。よければ聞かせてもらえないかな」

「それは申し訳ないです。僕の考えはとっても一般的みたいです。僕の案は、貴女を草花の養分に変えるというものなので」


 鞘から刀を抜くように水が抜かれて、空になったペットボトルで頭を叩かれる。しゃがんでいろということだろうと思い、その通りにする。


「鬼はいつだって討たれるもの。それが勝者の歴史だから。だから、君も討たれるんだよ。今日ここで」

「ここにいたのなら僕の能力わかりますよね。夜空から消されたように、この世からも消してますよ。猫さん」


 舞奈が突然、持っていたペットボトルを瑠璃の顔へと投げつけ、身体を、首を左へ反らすと、瑠璃は剣を使って投げつけられたペットボトルを弾いた。


「本当に殺されたいみたいね。終わった時には、君の胸切開して大好きな神様に心臓捧げてあげるね」

「なら僕は、猫さんの首刈り断ち足刈り切りて、罪穢れを祓ってもらうことにしますね」

「ごめんなさい。探女だからてっきり、生皮剥いでお洋服にするものかと」

「僕だって謝らないといけないですね。猫だからとてっきり僕の頭が食べたいものかと」


 二人の会話を言葉通りに想像してみた。それはもう悪趣味とかそんなレベルではないし、そんな光景を見ているれば多分吐きそうだ。


 出来ることなら穏便に済ませたいけれど、説得や交渉なんてまるで出来る気がしないし、真ん中に出ていけば真っ先に死ぬことになるだろうからやりたくない。


「猫さんとの会話はもういいので、そろそろ殺されてもらいたいのですけど、いいですか」

「私はもう少し待ってほしいな。あんまりせっかちだと陽平に嫌われるよ」

「大丈夫ですよ、お兄さんはすーぱー無気力まんなので」


 そんな時、俺の端末にメッセージが届いた。


「それ読んで」


 気のせいかと思うほど小さな声が聞こえた。いや、聞こえたかどうかも怪しい。本当に気のせいだったのかもしれないが、舞奈の声だったと思う。

 舞奈が左へゆっくりと歩き出す。


 メッセージは舞奈から時間指定で送られたものだった。

 一歩か二歩分ほど引いたところでメッセージを読む。


『時間もなさそうだから要点だけ。私の身体がまだ動いているうちに公園中央にあるはずの星座早見盤を破壊して。依代として使われるくらいだから、全部或いは一部がラピスラズリでできているはず。ただの依代のはずだからカラー茶なら簡単に破壊できるはず。頑張って。全員生きるか全員死ぬか任せた』


 見間違えかなにかにしたかったが、もう一度読んでる時間もなさそうで、とりあえず書かれていたこと、星座盤をぶっ壊すことはやらなければならないらしい。

 これを俺にやらせるために左へずれたらしい。


 二人とも武器が金属製ではないためか、甲高い金属音は響いてこないが殺し合いを始めている。

 瑠璃に目をつけられないよう、はじめはこっそりと場所をずらす。


 まさか、異世界に来て初めての特殊能力イベントが命がけとは、来る前は絶対に思わなかっただろうな。後で笑い話くらいにはなってほしいものだよ、本当に。


 瑠璃の視界には間違いなく入ってないであろう場所まで移動出来たところで、真ん中の光目指して走る。


 しかし、急に胸が締め付けられるような苦しさに襲われ、勢いよく転ぶ。

 苦しくて気持ちが悪い。腕は擦りむいたのかひりひりするし、頭も痛くて揺れているように感じる。

 痛くて苦しくて気持ちが悪い。涙で視界が滲む。


 急に現れた胸の苦しみは消えるのも急で、嘘のようになくなった。やはり瑠璃のせいなのだろう。どうせなら、この吐き気と頭の揺れも無くなってくれればよかった。

 立ち上がって中央へ小走りで向かう。小走りでも吐きそうなほどに気持ち悪い。


 俺の胸のあたりの高さに浮かんでいて知っているものより厚みがあったが、光っているものは確かに星座早見盤だった。

 ラピスなんとかなんてものが何かは知らないが、茶色で破壊できるならきっと石なのだろう。


 だとすれば、そのラピスなんとかは外周と嵌められている十二個の装飾で、わずかに厚みを持っているのは装飾を嵌めるためだろう。


 しかしそれがわかっても能力の使い方がわからない。

 直感的に悟ってくれたってよかっただろうに。


 舞奈は俺を守るために戦ってくれている。俺はあの中に混ざって刃を交えるなんて出来る気がしない。だから、これをやるしかない。


 壊れろ壊れろ壊れろと、何度念じても壊れるどころか微動だにしない。

 能力の使い方なんて知らないんだ。誰か、教えてくれ。

 せめて、何かヒントでもないのか。違う。今までにあったのか。


 瑠璃は生体操作系能力だと言っていた。

 愛梨さんは金属操作系能力で七尾さんは心情操作系能力、群青の能力は時間操作、空間操作、天体操作、事象操作等とのことだ。


 舞奈の能力が何と言うのかわからない。しかしあいつは岩石操作系能力と言った。

 なら、俺の能力と言うのは。

 俺は知らない。もしかすると、対象を破壊する能力だってあるかもしれない。しかし、今の俺にはこれしか考えられなかった。


 目を瞑り、俺なら出来ると信じ、やらなければならないと言い聞かせて光を放つ石を想う。

 今までにない感覚だった。何かと繋がったような。

 すると、頭が揺れて吐き気に襲われる。

 手足も震えだし、耐えられずにしゃがみ込むと、いつの間にか繋がっていた感覚は消えていた。


「お兄さん、この女が静かになるまでの間くらいは大人しくしていて欲しいです」


 俺と瑠璃の距離が間違いなく縮まっていた。


「陽平相手にエネルギー割くなんて、余裕そうね」

「全然余裕なんかないですよ」


 瑠璃の意識が途切れたのか、吐き気も震えも見事に消え失せ、俺なら出来ると再び立ち上がり石を想う。

 どうなれば破壊したことになるのかはわからない。だから俺は、俺の思う破壊された状態に変える。


 ひび割れ、粉々に砕けたところを想像する。

 すると、俺が思っていた通りに石が砕け散る。群青色は淡い光となって霧散し、星座早見盤は地に落ちる。


 散った光を目で追うと星空もまた、飴細工のように砕け、本物の夜空が現れるのを見た。

 星空のかけらも降り注ぐ前に光となって消えゆき夜闇に溶けていく。

 瑠璃の周囲にも同じように群青色の光が舞い、星空のような剣は消滅していた。


「負けたって、認めてくれると嬉しいな。殺さずに済むから」

「嫌です。まだ、生体操作があるので。でも……」


 瑠璃が上を見るので何かあるのかと思って俺も見上げるが、夜空が広がるだけでそれ以上は特に何もない。


 あるとすれば、わずかに残った星空の残骸くらいだ。それもじきに消える。


 頭を悩ませていると二人の方から物音がした。

 どちらかが相手を殺したのかと思って目を向けると、瑠璃が倒れていた。

 ただ、舞奈の手が血に濡れていることもなければ、瑠璃の身体に致命的な傷も見当たらず状況が飲み込めない。


「今ならまだ、お兄さんを殺せる。僕も死ねる」


 咄嗟に一歩引いてしまう俺に対して、舞奈は微動だにしない。


「僕は、何がしたかったんでしょうね。猫さん殺せばいいのかな」


 まるで、それをしないことをわかっているかのように舞奈は動かずに瑠璃を見据えている。

 公園は白い月明かりに照らされる。嗚咽だけが聞こえる。


「僕は願ったんです。お兄さんと、添い遂げたいって。なのに、なんで」

「簡単だよ。君は人を殺すことを躊躇ったから。迷ったから私すら殺せない。惑いが君の殺意を揺らがせる。殺されることを思えても、殺意を自立させることは出来なかったから」


 俺にはその声が夜露のように冷たく感じた。


「一緒にいたかった。でも、いられないって。だから、殺してしまって、死んで、全部なかったことにすればいいって。でも、もう出来ない」

「怖いから、もう支えはないから臆病な君は動けない。君が何を怖がっていたのか、私はこれだと言えない。でも、何となく、わからないこともないような気がする」


 一瞬泣き止んだようにも思えたけれど、すぐ、声をあげて泣き出した。

 疎いと思われるかもしれないが、悲壮感は伝わっても俺には何で泣いているのかわからない。

 それ以降俺は数歩引いて、舞奈と瑠璃が話しているのを見ているだけだった。


 任せきりは悪いと思っても、かける言葉が見つからないのだ。

 ついさっきまで自分を殺そうとしていた相手、だから、思わず暴言を吐いてしまう事もあり得る。落ち着く時間が必要なのは、きっと俺も同じだ。


 二人の会話は嫌でも聞こえる。聞こえてはいても聞いてはいない。目を閉じ、何も考えないようにしていた。

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