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-タンザナイト-  作者: プレイヤー1
タンザナイト――4
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タンザナイト――4―3

 テーブルの向こう、ソファに座る舞奈を俺は見下ろすように立っていた。もう、何分もこうして無言の時が流れている。

 わざわざ呼んだのだから、話が出来るくらいには落ち着いたと捉えてもいいのだろう。


「私は、話を聞くって言ったから、聞かせて。私は、そう言って君を追い出したんだから」

「なら言わせてもらう、というかもう一度言わせてもらう。多分、舞奈はあの花でなんか勘違いしてるんだろ。あれはこの前も言ったように、知り合いの男の子から貰ったんだよ。やましいことなんて何もないし、第一、あるんだったら隠そうとするだろ」


 舞奈は何の反応も示さずにまたジュースに口を付ける。まさか、本当に聞くだけということなのか。右手に力が入る。

 俺は本当のことを言っているだけだ。なんなら、明日にでも理久の前に連れて行って紹介し、こいつに貰ったんだと、言ってやってもいいくらいだ。


「男友達、君はそう思っているかもしれないけど、向こうはそう思ってないかもしれないよ」

「いや、意味がわからん。舞奈は何が言いたい」

「そうだね、そうだよね。陽平はそういうの疎そうだからきっとわかってなかったんだよね。少し考えてみたり、興味持っても良かったんじゃないかな。君の周りに反応してる人がいたのなら」


 なかなか結論を言わないことがじれったく、悪く言われるよりもそっちの方が苛立ちポイントが高い。


「そんなこと言ってないではやく教えてくれてもいいだろ」


 舞奈はまた黙り込む。少しくらいは考えろ、ということか。

 仕方がないので溜息を吐いてから思い返してみる。

 舞奈は、言わずもがな相手を女性だと思っていた。


 愛梨さんはというと、たしかに女性だと思っている節があり、それで一度もういらないと断ろうとした覚えがある。

 七尾さんは、よくわからないがあの時の事なら浮気だなんだと言っていたようなきがしなくもない。


 何で皆、たかが花だけで女性だと判断したんだ。男性が男性に花を贈ることがこの世界では無いのか、或いは何か花言葉的なものが原因か。そのどちらにしても俺は知らない。

 理久は一度、花をくれる時に何か言っていたような気がする。


「考えてくれたかな」


 理久の言葉を思い出そうとしていた時、舞奈が口を開く。


「何か、花言葉とか、慣習的なものか。だとしたら俺は知らない」

「だから、疎そうだって、言ったじゃない」

「どんな意味があるんだよ、それに」

「あの花、スプレーマムの花言葉はね。あなたを愛しています、なんだよ」


 妙にゆっくりと落ち着いた声で淡々と告げる。

 あの花の意味を、俺の頭の中に刻み付けようとでもいうのか。


「私が何で怒ってたか分かったかな?」

 その声は怖いくらいに落ち着いていた。

 今までジュースしか見ていなかった蒼色の目が俺の方へと向けられる。


「だから、見た時はすっごい嬉しかった。あんな、言わせただけみたいな告白でも、ちゃんと好きになって、愛してくれるんだって思ったから。でも違うって知ってしまったら、落とされたみたいで、捨てられたみたいで感情制御なんか出来ないし、怒ってるのか悲しんでるのか自分でもわかんないし」


 まだ暫く続きそうな勢いっだたのに、舞奈の言葉はそこで途切れた。


「ごめん、えっとそれで、陽平の男友達の話なんだけど」

「あ、そうだ。あなたを愛しています、が花言葉ならあいつは俺の事が好きってことになるよな」

「人の趣味嗜好はその人の勝手だから私は何も言わないけど。白だったから、あなたを慕っています、とかそういう意味だったのかもしれないよ」


 慕う、慕われるは確かに性別なんて関係ない。


「でも俺、あいつに好かれるようなことも慕われるようなこともした覚えがないんだけど。特に、慕われる要素なんて皆無だぞ。無気力なところしか見せてないんだからな」

「そんなの私にはわかんないよ。その人にとっては陽平の生き様か、その無気力なところとかが慕うに値するものだったのかもしれないし。その人の事は陽平の方が詳しいでしょ」


 名前を言えばもしかすると、その子この学校の後輩とか心当たりがあるかもしれない。名前もどんな相手かも伝えていないのだから、わからない方が自然か。

 それこそ、群青の彼の仲間でもない限りは。


「今晩そいつと会うことになってんだけどその辺りは聞いた方がいいのか」

「ほんっとうに、男の子なんだよね」

「ほんっとうに男の子だよ」

「なら好きにすればいいじゃん」


 なんと適当な、少しくらい相談にのってくれても、なんてこぼしそうになったが、それはつまり、今日は鍵をかけて閉じ込めるような真似はしない、という意味でもあると気付き、直前で抑えることが出来た。


「行ってもいい、今日は閉じ込めるようなことはしない、という事でいいのか」

「好きだっていう、愛してくれているその証明を、君がしてくれるのなら」


 舞奈は徐に立ち上がると、靴を脱いでベッドの上へ場所を移し、誘うように胸元のボタンを外す。


「証明の仕方は君に任せるよ」


 舞奈が右手を素早く動かすと、カチッという音がして窓が黒く変色し、カーテンが閉まる。やはり、舞奈の端末で操作できるようだ。

 立ち止まったまま一歩も動かずにいると、また一つボタンを外し、下着がはっきりと姿を現した。


 着痩せしているわけではなく、元々胸は小さいようだ。

 俺としてはそれよりも、舞奈の身体に触れたいという欲望と、まだ見えない部分を思い、想起することによって得てしまった興奮で頭がいっぱいだった。


 ハニートラップなんて無縁だと思っていたが、自分がこうも落ちやすいなんて、舞奈に仕掛けられるだけでこれ程簡単に落ちてしまうなんて思いもしなかった。

 思い切り目を閉じても、本能が焼き付けたい、汚して壊したいと訴えかけてきて開けてしまう。


 更に一つのボタンを外され、もう臍まで見えてしまいそうだ。

 とうとう欲望に負けてしまい、証明するためなんだと肯定し、言い訳を思い浮かべながら歩き出す。

 やっと来た、そう言いたげな顔で舞奈は手袋を外し、細い指も現れる。


 俺は舞奈を押し倒し、引き込まれるようにして、汚したくなるほどに綺麗な蒼色の瞳を見つめる。

 息は荒くなり、心臓の鼓動は聞こえそうだ。

 抱き着いて、肺の中いっぱいに舞奈の匂いを吸い込んでから、足をばたつかせて乱雑に靴を脱ぎ捨てる。


 正直なところ、好きだとか愛するだとか、そんな言葉は知らなかった。だから俺は、欲望のまま舞奈に合わせるしかなかった。


 指を絡ませキスをする。

 ゆっくりと開かれていく柔らかな唇を舌で無理矢理開いて押し込む。

 キスなんかしたことない。する相手がいなかったから。上手いとか下手とかそんなのは知らない。それでも舞奈は応えてくれる。

 舌を絡ませキスをする。


 舞奈だけを見て、舞奈だけを考えて、舞奈だけを思い、舞奈だけを求める。それでもやはり俺にはこの感情が好きというものなんて思えなかった。舞奈の身体を、肉体を求めているだけの情欲にすぎないのでは、と。

 唇を離して舞奈の顔を見てみると、頬を赤らめて恍惚とした表情をしていた。

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