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杖と魔導技師と少女と魔物20

 

 新理愛がこちらの世界に来て1ヶ月程が経過した。季節は夏から晩夏へと移り変わり、強かった日差しも大分落ち着きを見せてきている。

 その間、ナーリャとリューナは商品を作りながらも新しい魔法と魔道具開発を行っていた。自分達が持つ特有の属性、ナーリャは光と重力、リューナは雷と時空をそれぞれトールの≪知識の泉≫で得た知識を元に新しい魔法の調査や魔道具への転用を進めていっていた。

 新理愛は店番を行いながら、言葉の勉強をしている。今は簡単なあいさつ程度であれば出来るようになっている。あとは子狐、クーと命名、の力の解明も行っている。しかし、風浪狗に使った時以降はまったくもって発現されていないため、遅々として進んではいない。


 そしてトールは、3人に協力しながら自分はゴーレム及び兵器開発を行っていた。これは王都での戦いや、森での風浪狗との戦いでこの世界における危険度がトールが思っていたより高いと認識したためである。

 トールは元日本人。そして一応の海外経験はあるものの、治安の悪い地域や紛争地域などいった事はもちろんない。そういった意味では、自己防衛のための武力というものには無縁であったため、そのあたりの感性は薄い。しかしこちらの世界にやって来て、これまで何度かの危険に遭遇し認識を新にしていた。そして重火器等の技術が広まってしまうことより、ナーリャ達の安全を優先することに方向転換をしたのであった。

 そういった訳でトールは今日もまた、杖の姿で護身用の銃器を作っていた。


「大分安全性も高められて、小型化もそれなりに出来たが威力がなぁ」


 工房内の机の上に置かれている5丁の拳銃を見ながら、トールはそう呟いていた。

 大きさとして、地球上のそれと一回り大きくなっている。装弾数は2発。以前試作していた散弾銃もどきと同様に中折れ式のものである。未だ弾倉式の開発は上手くいっていない。しみじみCADがほしいとトールは感じていた。


「これが護身用のものですか? 結構大きいですね」


「ちょっと重いけど、それでもわたし達にも使えそうだね」


「オモイデス」


 店も本日は休みであり、集まっていたナーリャ達はそれぞれ手に持ちながら感想を述べる。

 新理愛も片言ではあるが、こちらの言葉で話をしている。慣れるために出来るだけそうしているのだ。なお新理愛曰く、発音等は日本語に近いので理解しやすいとのこと。トールには初めから日本語に聞こえているので、分からなかった。


「装弾数は2発。それぞれ引き金を引くことで、中に入っている小さなプラーミァに魔力が送られで爆発、弾が飛び出る仕組みだ。一応ライフリングは設けてはいるが、まだ効率的とは言い難いな。あと、新理愛にも使えるように魔石を仕込んであるから、そこに魔力を込めておいてくれ」


 トールは拳銃の使い方を若干余計な事も交えて説明する。もとよりこの拳銃はこの3人に使ってもらうために作ったものだ。

 トールはゴーレムがあるし、ゴーレムが壊れたとしても≪守護者の巨人≫の能力がある。というか現状こちらの方が戦力は上だろう。その上ネックだった魔力量の件も解決済みだ。1人、というか1本で生き残るのは十分といえる。

 しかし3人は違う。ナーリャとリューナは魔法が使えるからと言って、剣で切られれば致命傷だ。ならば遠距離で速攻が出来る拳銃は護身用としては良いだろうとトールは考え、そしてこれらを作ったのである。


「これくらいの大きさであれば、ローブの内側に仕込んでおけますね。いいと思います」


 ナーリャ達が普段から着用している緑のローブを今は新理愛も着ている。従業員の制服のような物なので、ナーリャが急ぎ作ったのだ。

 ちなみに冷房や暖房といった効果も盛り込まれている。ただ新理愛は魔力が無いため、各所に小さな魔石を縫い込んである。これはリューナのローブにも設けられていた。彼女は火属性の魔力が無いので、熱に関する魔法陣を起動できないからである。


『でも銃なんて良かったんですか? その、銃刀法とか……』


『銃刀法は日本の法律だろ? ここじゃ意味ないし、自衛用としてはいいものだからな。銃というのは訓練が少なくて済むというメリットもある。まあ、元の世界だとそれに特化しているから、それ相応の訓練も必要になっているけどな』


 まだ難しい言葉は理解できていないので、新理愛はトールに日本語で話しかける。それにトールも同じく日本語で返していた。

 意味の理解できないナーリャとリューナは、何となく不機嫌そうである。


「なんの話をしているの? トール」


「ああ、すまない。これは元々向こうにあった武器だからな。それを持ち込んでいいのかって話だ」


「それは……ちょっと興味深いですね。他にもあるんですか?」


 リューナはトール達が住んでいた元の世界に興味を抱いていた。自分知らない技術というのは、それだけ魅力的に映る。無論、それだけではないのだが。


「ああ、もちろん。例えばコレを大型化して攻城兵器として利用している物とか、空からプラーミァのような爆弾を落とすとか。あとは自動で目的地まで行く爆弾もあるな」


「……なんというか、こちらの物とは大分異なるようですね」


「そりゃあ、向こうは魔法がなかったからな。だとすれば魔法に頼らない技術体系になるのは当然だ。むしろ俺からすれば、魔法はずるいと思うぞ」


 物理的な法則に基づいて考えるのは、基本中の基本である。しかし魔法はそれを簡単に覆してしまっている。なにもないところから水を作り出したり火を発したり。

 魔力と呼ばれる力の源はあるにせよ、それもトールからすればはっきり言って意味不明のものだ。物質かどうかも定かではない。そしてそれは、エネルギー源として考えると恐ろしく万能だ。


 例えば自動車はガソリンの燃料としている。それが充満した密閉空間内で爆発、空気を膨張させることでピストンを押し下げる。要はエンジンという機械を使用して、熱エネルギーを運動エネルギーに変換しているのである。そしてそれは大体効率でいうと30%ほどである。他は各種損失によって失われているのである。

 次に魔力というものは、呪文もしくは魔法陣によって様々なエネルギーに変換され現象を起こす。これはかなり効率的である。エンジンは作るにも様々な会社が各々部品を持ち寄り、それを組み立てることでようやく完成する。しかし魔法は言葉を発するだけでいいのだ。

 魔法陣に至っては、記号を法則に則って紙に描き魔力を流せば現象が起こる。もしプリンターやコピー機などあれば、それだけで現象の起こし放題だ。


 そしてトールが体感する限りだが、各種属性が現象を引き起こすために必要な魔力量というのは、同等の規模であればそれほどの違いはない。つまり魔力から変換する際の損失に違いを感じられないのだ。光だろうが熱だろうが、運動エネルギーだろうが電気だろうとも。

 各属性を相性のいい宝石というものがあるが、適切なそれを使用すれば各種エネルギーへの効率はほぼ同等になると考えてよい。つまり地球人類が英知をかけて磨いてきたエネルギー変換という行為を、魔法ないし魔法陣は高効率で簡単に起こせてしまうのだ。トールにとっては、それはとてもずるいと感じる。


「ずるい、ですか? そのあたりの感覚は分からないですね」


「そりゃあなぁ。今まで当たり前にある物をずるいと言われてもピンとこないだろ。きっと君らが向こうの世界に行ったら、これずるいと思う事もあるだろうさ」


 今トールが切実に思う事は、パソコンってずるかったんだなぁということがある。自分が設計を行うという事に対して、パソコンというのは本当に便利なものであった。


「さて、話を戻すがこの武器は以前にすこし話した通り、金属製の弾を打ち出す武器だ。これをこう込めて……」


 トールは銃の使い方の説明に戻る。単純に引き金を引けば弾が出る仕組みだが、それでも武器であるからして正しい使用方法というのは重要だ。下手に弄って自らを怪我させても意味がない。

 一つ一つ丁寧に説明をつづけるトールに、ナーリャは構造の方に興味を惹かれ、リューナはその原理に興味を持ったようだった。そして新理愛は、おっかなびっくりといった感じで銃を手に取っている。


「あとは安全装置も付いている。このコックを捻ると魔石から魔力が伝わらなくなるから、普段持ち歩くときは必ず捻っておくこと。そうしないと、いきなり暴発なんてことになりかねないからな」


「うん、分かったよ。気を付けるね」


 一通りレクチャーを終えると、今度は工房からつながっている庭へと一行は出ていく。試射をするためだ。

 トールは事前に用意しておいた木で作った的を、盛り土して作っておいた小山に立てかける。


「さて、これから試しに売ってもらうんだが……誰からいくか?」


「じゃあ、わたし!」


 ノリノリで手を挙げたのはナーリャだ。彼女は以前トールが使用していた時から使ってみたいと思っていたのである。

 これは武器としてという訳ではなく、一つの魔道具として興味を持っていたのだ。使い心地を知りたいと思っていた。


「じゃあナーリャからだな。出来るだけ下の方と狙ってくれ。下手に飛んでいくと危ないしな」


 庭は来て出来た柵が設けられているが、それでも銃弾を防ぐには心もとないだろう。下手すると貫通して人に当たりかねない。

 そのため、出来るだけ低い方へと向けて撃っておきたい。そうトールは思っていた。


「うん。弾が飛び出すから、それが変なところに行かないようにだね。それじゃ撃つよ」


 ナーリャは安全コックを捻り安全装置を解除すると、的に向けて銃を構え引金を引いた。

 引金を引かれた銃は、その目的にそった動作を行う。撃鉄が落ち、魔石から銃弾に魔力の回路が接続される。つながった回路は銃弾に火薬として入っているプラーミァへと魔力が送る。そしてその魔力を受け取ったプラーミァは、銃筒の中で発光、膨張した後爆発を引き起こした。

 トール達にはパン、と軽い感じの破裂音が聞こえただけであるが、銃から弾が飛び出し的に命中する。そして木で作られた的は、弾が当たった箇所から木目に沿って割れていた。


「ふわぁ~。なんかすごいね」


 ナーリャは反動で少し銃口が上を向いた銃を、そのままの体勢で見ながらゆるい感想を述べる。

 飛び出した銃弾は、的を貫通して盛り土の部分にめり込んでいた。


「撃った感覚はどうだ?」


「そうだね。この引金を引いてから、少し時間が経ってパン、って音が鳴ったみたい。そしたら的が割れてたよ」


「少し時間が経って、か。やっぱりタイムラグがあるな。魔力伝達から爆発まで一瞬で起こせればいいんだが……」


 トールも使って気が付いていたことだが、引金を引いてから銃弾が飛び出すまでにタイムラグがあった。

 そしてその原因は分かってはいるのだが。


「今のプラーミァではコレが限界でしょう。元々爆弾として作られている物ですから、かえって魔力込めたらすぐ爆発は困りますよ」

「そうだよね。手元で爆発なんかされちゃあ、困っちゃうもん」


 プラーミァを銃弾の火薬として利用している為、どうしても爆発までのタイムラグが発生してしまっていた。出来るだけ改良をしてはいたのだが、コンマ数秒どうしてもラグが発生してしまっていたのである。


「やっぱそれ専用の火薬でも作らんと無理かな。まあ、そのあたりはおいおいやるか。それじゃあ次はだれがやるか?」


 新理愛は銃を撃つというのに気が引けるのか最後に、と言って自体する。そうして必然的にリューナが次に試すこととなる。

 リューナも安全装置を解除した後、的に向かって引金を引く。破裂音と共に飛び出した弾丸は、的に命中してこれまた綺麗に的を二つに割っていた。


「ふむ、確かに時間差がありますね。狙ってから撃つとなると、ちょっと気にはなります。ただ威力はやはりそれなりにありますし、何より目視できないのがすごい所ですね」


 もう一度割れてしまった的の方へと銃を構えると、リューナは引金を引く。合計2発を撃ち終えたところで、パカリとグリップの上の部分から銃を分けると、残っている薬きょうを取り外す。そのまま直接手で薬きょうを取り出すには熱が籠っていて危ないので、それ用のレバーが設けられていた。


「確かに直接手では無理ですね。そのためのレバーですか」


「ああ。俺であったら大丈夫だけど、流石に君らに同じことはさせられないよ」


 銃から取り外された薬きょうは地面へと落ちて、少し煙を上げていた。それだけで高温になっているというのが見て取れる。

 トールは冷めるのをまってから光る腕でそれを回収して、袋の中へとしまい込んだ。


『それじゃああとは新理愛だな。大丈夫か?」


『は、はい。やってみます』


 新理愛もナーリャ達と同様に、替えられた的に向かって銃を向ける。

 若干引け腰ではあったが、無事命中させて的を割ることに成功していた。


長々と更新できずに申し訳ございませんでした。

もうしばらくの間、更新が不定期になってしまうと思いますが、何卒本作をよろしくお願いいたします。

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