男じゃあねぇぜ
ルーナ=レオーネと名乗った美人は微塵の躊躇も容赦も無く俺の右腕に掛けている力を強めていく。
だがここで勘違いしないで欲しいんだが、決して俺が貧弱だからこの娘の十字固めを外せないんじゃあない。
そしてさらに言うなら、この娘に俺は今腕を折られかけているが、それは別にこの娘が特別怪力な訳でもそれこそプロレスラー並に十字が巧い訳でもない。
と言うかこの娘の力は本来、かなり弱い部類の筈だ。
勿論、人を見かけで判断すると痛い目に遭うのは知っているが、この娘の細腕ではどんなに特殊な鍛え方をしていようと俺の骨を折るのは不可能だ。
俺は試しに右腕に力を込めて動かそうとしてみる…………
が、俺の右腕は残念ながらびくともしない。
……ん、確定だな。
この世界にはほぼ確実に魔法、または超能力に準ずる何かしらの『能力』が存在する。
恐らくその『能力』を使われてるから俺はこの娘の十字固めを外せないのだろう。
俺の腕が折れそうなのはまぁかなり苦しいが、滅茶苦茶十字固めが巧かったという事でなんとかならんでもない……が、俺の腕力まで低下しているのは明らかにおかしい。
俺だって伊達に何度も異世界に行ってる訳じゃねぇからな(いやまぁ、異世界に行ってる間に起こった肉体への変化は元の世界に戻るとほぼ確実に全部無かった事になるんだが……)、筋力にはそこそこの自信がある。
少なくとも、身長170前半ぐらいの女の子一人なら十字極められてようが関係無くブン回せるぐらいには余裕である。
という事は、恐らくこの娘の『能力』は対象の弱体化ってトコか?
……いや、もういっこ有るな
さっきから右腕に走ってるこの激痛、十字のせいかと思ってたがこれもおかしい。
さっきからこの痛み、異常な程に痛過ぎる。
いくら関節極められてるからってこんな痛てぇ訳ねぇ。
多分、痛覚を敏感に………否、強化か
恐らく痛覚を強化されてる筈だ。
つまり、この娘の『能力』は対象の弱体化と強化ってトコだな。
「いや、だから何って話だけどさぁ!」
冷静になって考えた結果、能力がわかりました。
だから何なの!
アァン?能力がわかったからどうなんの!!
どうにもなんねーよっ!!!
依然変わりねぇよ!!
俺が十字受けてんのは依然変わりねぇんだよ!!!
と、俺が激痛で死にかけていると(ちなみにルーナちゃん…だっけ?はずっと無言、無表情、無慈悲に俺に十字を掛けている)正に天使の声が聞こえた。
「あ、あのールーナちゃん?
私はもう気にしてないのでそろそろ止めてあげませんか?」
その鶴の一声に反射的に顔を上げて声のした方を見るとそこには俺が優しく声を掛けた(セクハラした)女の子が立っていた。
てっ、天使やぁ!
ホンマ物の天使やでぇ!!
さっきまで言語が違ってたのに何で喋れんだ?とか、そんなちんけな疑問は頭から一瞬で消し飛んだ。
ただ、混じり気の無い純粋な感謝だけが俺の心を支配していた。
「…………本当に良いのかリーゼ?
言っておくがコイツは絶対に反省してないぞ?」
ルーナとか呼ばれてた女の子は俺をまるで生ゴミを見るような目で見ながらそう言った。
ふざけんな!ちゃんと反省してるわ!!
「うーん、そう言われるとちょっと心配だけど……折角頑張って呼び出したんだし、一応話だけでも………ね?」
そう言ってリーゼと呼ばれてた女の子は唇を少し尖らせて小首を傾げた。
勿論、人差し指を下唇に添えるのも忘れていない。
正に、完璧なおねだりポーズと言えよう。
その完璧なおねだりポーズにヤられたらしく、ルーナちゃんは
「そうか………リーゼがそう言うんなら止めよう。」
と、いかにも不承不承と言った感じで俺から離れた。
………自由って素晴らしいなぁ
と、俺が激痛から解放されて爽やかな気分になったのは言うまでも無いだろう。
「んん、気を取り直して………改めて、自己紹介をさせて貰いますね?
私の名前はリーゼ、リーゼ=チェレステと言います。」
しかし、どうやら神様だか女神だかはよっぽど俺が嫌いらしい。
「一応、わかっていると思いますけどあなたをここに召喚させて頂きました。」
本当に何で俺ばっかりこんな理不尽な目に遭わなきゃなんねぇんだよ………
「あなたを召喚のは他でもありません。
今、この世界はかつて無い脅威に晒されているのです。」
俺何か悪いコトとかしましたかねぇ?
「その脅威とは、強力で強大な異能を持つ四天王と呼ばれる能力者達です。
彼らの力は最早、私達だけではどうしようも無いのです………
ですから、どうか………………どうか私達に力を貸して下さい。」
そう言うとリーゼちゃんはゆっくりと地面に膝を着けて………
「って、何やってんだよ!!?」
咄嗟のコトだったからつい大声で怒鳴ってしまったらしくリーゼちゃんの体がビクッと震えた。
「あの……何とは?」
リーゼちゃんが少し怯えた感じで尋ねてきた。
「何って、リーゼちゃん今土下座しようとしたろ?」
「………………それが何か?
頼み事をしているんですから当たり前でしょう?」
「あのなぁ、俺には女の子土下座させて喜ぶ趣味は…………趣味は……………えっと………
ま、まぁ俺の趣味なんざどうでもいい!
とにかく土下座何かすんじゃねぇ!!」
まぁ、いくら面倒くせぇからって
「では、私達の手伝いは………」
「あー、やるやる!
やりゃあ良いんだろ、やりゃあ!!」
ここでやんなきゃ男じゃあねぇぜ!!!!
俺の返事を聞くと、バネでも仕掛けてあんのかって感じに立ち上がって目を輝かせながらとびきりの笑顔で言った。
「それではこれから、宜しくお願いしますっ!」
「おう、任された!!!」




