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年下彼氏  作者: ショコラ*
番外編Short Story
8/8

秘密目標


*Thema:成田空港(帰り)

Side:リョウ



「んー……っ、あぁ、よく寝たぁ」

「顔むくんでるけど」

「え?! やだ、本当?」


 指摘した瞬間、ショックを受けたように顔を引き攣らせたカナを見て、思わず口元が緩んだ。

 おろおろしたって、何も解決するわけじゃないのに……本当に、普段はバカっぽいよなコイツ。


「ほら、寄越せ」

「ありがとう」


 一週間分の荷物が詰まったスーツケースを、カナの分も加えて2つ引っ張ってやることは出来ないけれど、その中に入れられなかった手荷物くらいは持ってやれる。

 俺が手を伸ばして促せば、カナはにこりと微笑み、持ちやすいように荷物を一つにまとめてくれた。

 こういう、何気ない気遣いが好きだったりする。


 カナと付き合うまでは、俺の周りにいた女は基本、荷物は持ってもらえるのが当たり前、むしろ持たせた方が男を立てられる、それに加えて自分が俺の彼女だと周りにアピール出来る……という思考の持ち主ばかりだった。

 まぁ女から預かる荷物なんて大して重くないワケだし、どうでも良いと思って合わせていたけれど。

 カナはそういう部分が変に謙虚で、ほっとくと俺がいても5キロの米を自分で抱きかかえて持って帰ろうとするタイプだった。

 力があるわけでも、体格が良いわけでもないくせに。

 当然見てるだけでも危なっかしいから、俺は気付いた段階でその危険性を排除するようにしている。

 自分でも、かなりの変化だと思うんだけど。

 自ら進んで、マメに「寄越せ」とか言う日が来るとは、思ってもみなかった。


「あぁ……帰ってきちゃったね。ただいま日本……」

「何落ち込んでんだよ」

「帰り道って、何でこんなに切ないんだろう」


 そう言って、心底残念そうに項垂れたカナ。

 コイツといると時々、本当にガキと一緒にいる気分になってくる。

 まぁ、純粋って意味でなんだけど。


「あーあ、家帰りたくないなぁ。あのままハワイに住みたかった」

「なら俺とはサヨナラだな。遠恋とか無理だし」

「えー?! そこは将来一緒に住もうなってカッコ付けるところだよリョウ!」

「どこの優男だよそれ。そういうのに限って、すぐ別れんだって」

「もうー夢がないー!」


 膨れるカナを無視して、ガラガラとスーツケースを引いていく。

 まぁ実際は……カナみたいに落ち込む程では無いけれど、多少淋しさは感じていたりして。

 調子に乗るから、本人には絶対言わねぇけど。


「ね、リョウ」

「何」

「また行こうね、海外旅行」

「……」

「今度はヨーロッパがいいかなぁ。それとも趣向を変えて、ニューヨークとか?」


 さっきまでヘコんでたくせに、次の瞬間には先の旅行計画。

 ホント女ってやつは、気分屋だ。


「10年パスポートかぁ……」

「……は? 何?」

「ううん。この期限が切れるまでに、リョウと何回海外行けるかなぁって」


 そう言いながらカナが手を添えたバッグの中には、今回の旅行をキッカケに作ったカナのパスポートが入っている。

 俺は既に持っていたんだけれど、カナは幼少の頃に一度海外旅行に行ったっきりだったから、期限が切れていたらしい。


「楽しかったなぁ……」


 そう言って頬に掛かった髪を払うカナを見ながら、心の中で俺も楽しかったと呟いた。

 俺にとって、カナ以上の癒しは無いワケで……この一週間は毎日カナとずっと一緒にいて、振り返れば必ず笑顔が見られた。

 それは旅行前に想像していたよりも、満たされた日々で――


(……あぁ、何で年下なんだよ俺)


 あと5年、いやせめて同い年だったら、もっと前に立って手を引っ張ってやれたのに。

 まだ俺は学生で……社会的に自立した立場じゃ無くて。

 しかも社会に出てからも家柄上、何年かは仕事に集中しなきゃいけないと言われている。

 だから少なくとも、今回の旅行の様にカナの隣を独占するまでには……

 ……プロポーズまでには、もう何年か時間を要するのだ。


「リョウ、どうしたの? 難しい顔して」

「何でも無い」

「あ、わかった! リョウも淋しくなっちゃったんでしょ?」

「違ぇよバカじゃねーの」

「ちょっと! 酷いよリョウー!」


 眉を寄せたカナにハイハイと適当に返事を返しながら、成田空港内を進んで行く。

 ここを出たら、また日常が戻ってくるんだ。

 俺が必死になって、既に社会に出ているカナを捕まえておかなきゃならない日常に。


「……カナ」

「なぁに?」

「次行きたいところ、考えとけよ」

「え……」

「俺も……まぁ、楽しかったし」

「……うん」


 照れくさくて、前を見たままそう言えば。

 カナは優しい声で、俺をからかう事なく頷いた。

 海外移住しようかなんて言える程、お前を独占出来る日はまだ遠いけれど。

 その日がいつか、ちゃんと来るように……俺はまた明日から、頑張ろうと思う。



fin.

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