表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/21

第6話 駅

 目を覚まし機関室から顔を覗かせると、そこは首都のものと似た駅だった。


 天井からクレーンで吊られる列車、専用の重機、規則正しく動く機械人形、一面金属の無機質な空間……。ただ、機械人形を含むすべてが首都のそれらより古く、20両の列車でいっぱいになる程度の広さだ。


 しかも、列車で届いた物資を運び込むために、町への入口が開いている。両開きの、重機やコンテナを運び出せる大きな扉だ。城門が閉ざされた今、もっとも無防備である駅は厳しく管理されているはずだが。やはり首都に比べると警備が緩い。


 温度センサーを誤魔化す装置も首都では通用しなかったが、ここでは気付かれる気配も無い。予想以上の自由に、ソラは興奮を抑えきれず傍らで眠っていたハツをゆすった。


「ハツ。ハツ、起きて。着いたみたい」

「……起動シマス」


ウィン、と微かな起動音の後に、ハツが空色の瞳を開いた。


「おはよ、見てあそこ。あの門の向こうに街がある。今、列車から降ろしたコンテナを中へ運び込んでるみたい。この町は警備が緩そうだから、荷物に紛れてくぐってしまおうと思う」

「承知シマシタ」


説明しながらソラは、今度は扉から機関室を抜け出し手招きした。ハツが着いて来ているのを横目で確認してから、コンテナを積んだトラックの荷台に隠れる。列車と同じく運転席に機械人形はいない。“駅員”の機械人形に見つからずに駅を出られたら、しばらく捕まる心配は無いだろう。


「このまま駅出たらこの荷台から降りて、住人ですって顔で歩く」

「それハどういう顔ですか」

「んーとりあえずきょろきょろせず見慣れてる感じを出す?」


どう説明するかと考えているとトラックが動き始め、あまりにもあっけなく扉をくぐってしまった。トラックの列を見るに、荷物はそのまま倉庫に運ばれるらしい。倉庫は塔の近くにある。少なくとも首都ではそうだったことをソラは覚えている。


「このまま塔の近くまで運んでもらおう。塔の近くは店もいっぱいあるはず」

「塔とハ何ですか」

「町で偉い人……王様?政党?みたいなのが町の機械人形の“役目”を決めてるとこ。もうやることも無さそうだけど」


“農家”の機械人形が世話する畑が、しばらく続く。食料を燃料にする機械人形もいるにはいるが、そういった機能はメインの補給機能とは別におまけとして付けられていることが多い。要するにこの畑も、街にあるだろうパン屋もケーキ屋も意味を持たない。


「ソラハ町ノことヲよく知っていますね。」

「んー、うん。俺2年前まで首都に住んでたんだよ。今探してる機械人形に育てられて。個体番号がS‐2525だからニコニコさんって呼んでたんだけど。知ってる?」

「イイエ」

「だよなぁ」


彼は“一般住民”という“役目”を与えられていた。パンを焼き、セーターを編んで、季節の行事を楽しむ。物心付いた頃からそんな彼に育てられていたから、2年前に機械人形が人間を嫌っていると知ってそれを疑った。今も疑っている。行事やまじないの意味を尋ねると、必ず「人間の真似だよ」と返って来たから。


「ニコニコさんは俺をかくまってたのがばれてお偉いさん……機械人形のトップに壊されたんだよ。その、残骸、がさ。あのスクラップ場に無かったから、そろそろ別の町も探そうかなって。もしかしたらどっかで再利用されてるかもだし」


品種改良を繰り返し、気温に関係なく栽培できるようになったサトウキビの畑が通り過ぎてゆく。味覚を持つ機械人形は滅多にいないため、彼らが作る料理はすべて30年以上前に人間が考案した料理の再現だ。


「それヲ見つけてどうするノですか」

「じっちゃんに直してもらう」


本人には直せる保障は無いとはっきり言われてしまったが、ソラが立ち直るには必要な思い込みだった。


「……駄目だったらその時考える。あんな最期……心残りなんだ」


荷台に飛び乗ってきたバッタを指でつつくと、ハツもそれを真似する。


「心、残り。ソラノ心モ無いノですか」


逃げたバッタを目で追って、そのまま遠くを見る目はやはり作り物だった。


「ん? ああ……あるよ。でも心に穴が開いたみたいな感じ?」

「でハS‐2525ハソラノ心なのですね」


思いがけない発言にソラは固まった。ハツの視線がソラに戻る。


「うん。そうかも」


ソラの笑顔を確認したハツは、再び青い麦畑を眺めた。相変わらずの無表情で。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ