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第4話 心(ハツ)

 老人があっけにとられる背後で、今度は列車に燃料が詰まれる音が響いた。


「……あんま入れ込むなよ。トロッコ弄ってやっから邪魔すんな」

「ありがとじっちゃん!!」


トロッコの隣に道具を並べる老人を見届けてソラは機械人形に向き直った。


「俺はソラ。君の名前は?」

「名前ハ、アリマセン」


機械人形の声は子守唄が似合う心地よさだったが、言葉の発し方からは一切の熱を感じない。水色の瞳に宿る光も、ガラス玉のように冷たい。それでもソラはかまわなかった。未知の機械人形と、とにかく機械人形と話せる状況に興奮した。


「ごめん、名前は無いよな。個体番号は?」

「個体番号ハ、アリマセン」

「個体番号も?」


個体番号とは、町の機械人形すべてが持つ名前のようなものだ。人間が与えたものではなく、30年前から機械人形のトップが機械人形に付けるようになった。個体番号を覚えていないということは心臓と共に別個体に引き継がれたか棄てる際にリセットされたかだろうか。


「じっちゃ……」


思わず老人を呼びそうになって、彼が集中すると聞こえなくなるたちだと思い出し踏みとどまる。


「まぁ、そんなこともあるか。……そうだ、ちょっと身体動かしてみて。それで動かない関節があったら教えて」

「承知シマシタ」


ソラの指示に従って機械人形が立ったり跳んだりして見せる。心臓が無いから動けないかとも思ったが、幸いこれは頭から信号を送るタイプだったようだ。心臓がバッテリーとメモリーだけを担っていたとしたら、燃費が悪いくらいしか弊害は無いかもしれない。大抵の機械人形は光や水、その他燃料で動く。この曇り空である程度動けているならば心配はいらないだろう。


「問題なし、かな。よかったぁ。座っていいよ。他、なんか知っときたいものとかある?」

「“役目”ヲクダサイ。」

「無いの?」


ほっと安堵の息をつくソラに機械人形が詰め寄った。想定外の質問にソラは目を瞬かせた。


「あ、そっか。覚えてないもんな。」


機械人形は決められた仕事のみを行い、それ以外で動くことは基本的に無い。“役目”とは、機械人形の存在意義である。しかしその“役目”を決めるのは町を収めている機械人形の“役目”であり、個体番号を持たない機械人形が得られるものではない。


「でも俺はあげられないんだよなぁ。それ以外で頼む。」

「私ノ心ハドコデスカ」

「心?」

「心ガ宿ッタ、心ノ部品ハドコデスカ」


ぎこちない発音が繰り返される。はじめて聞く単語に、ソラの胸が高鳴った。


「何それ! 詳しく教えて!」

「心ハ部品ニ宿リマス」


聞いたことが無いが、記憶を失くした機械人形が唯一覚えているとなればむしろ信憑性が高いかもしれない。


「君、心臓の部品が無いんだってさ。それのことかなぁ」

「心ノ部品ハドコデスカ」


機械人形が“役目”以上に興味を示すことがあるとは。ソラの胸に好奇心とは別の、淡い企みが根付いた。


「心ノ部品ヲクダサイ」

「じゃあさ、ハツって呼んでいい?」

「ハツ」

「そ。心臓って意味だった気がする」

「シンゾウ」


機械人形は何度か心臓、ハツ、と呟いてソラの目をじっと見た。


「承知しました。これから私ハ、そノ名前ヲ名乗ります」


ソラの口角が自然に上がる。


「気に入ってくれてよかった! 心の部品ってのかは分からないけど、君の心臓はどっかで再利用されてるかもだってさ。俺今から列車に乗って育て親の機械人形探しに行くんだ。一緒に来てくれるなら心臓探し手伝う!」

「ハイ。私モ行きます」


即答だった。ソラの笑顔がさらに輝く。


「やった。旅の仲間ゲットー。一人旅とかつまらないよな!」

「ナカマ」

「そ。旅は道連れってやつ」


水色の無機質な瞳に、ソラの笑顔が写り込んだ。

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