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第71話 【四季姉妹剣】と【北天寒氷精】と三年後

◇◆◇ 天魔神教(てんまじんきょう) 潜魔館(せんまかん) 第八階層 秘笈書庫内部禁書庫 第六公子 白眉剣龍(はくびけんりゅう) 日月慶雲(じつげつけいうん) ◇◆◇



 ここは潜魔館第八階層にある秘笈書庫の内部禁書庫。

 目の前では本座の恋人であるところの冷仙月が、本座が渡した()()()()を抱きしめてうずくまっている。

 一見そうは見えぬかもしれぬが、悟りを得るため無我の境地に入っているのだ。


「……」


 今日は例の集会から一夜明けた翌日。

 本座と仙月は互いの得た【悟り】を語り合うため、二人の逢瀬の場となっていたこの場所に来ていた。

 ゆえにおそらく邪魔が入るようなことはないのだが、それでも無我の境地は羽虫一匹でも心魔に陥りかねない危険性がある。ゆえに今の本座は仙月の護法役である。


「…………」


 あー、そうだな……ああ、その後の集会は本座がいくつかの報告を受けた後、自由雑談の時間へと移行した。

 これはいつものことなのだが、毎度この時ばかりは本座も上座を降り、下座の臣下たちと輪になって語らうようにしている。威儀を正すべきところはしっかりとする一方で、その上で臣下たちには本座に対して親近感を持たせる必要がある。忠誠とは、畏怖されるばかりではだめなのだ。


「………………」


 ふむ、ついでに話しておくと、本座が受けたいくつかの報告というのは【白龍十五翼】の入れ替えについてや、この十か月で臣下たちの境地がどのように推移したのかという簡単な報告である。


 実はその中で、潜魔五号生進級時に【十五翼】から外れてしまっていた本座のかつての左腕こと羅厳白が、今回の『実践演習』を経て超絶頂の境地に至り、【白龍十五翼】の一角に返り咲いたというドラマもあったりした。


 別段、残りの者を差別しているわけではないのだが、それでも何となく嬉しいと感じるのが人情というもの。

 これで【白龍十五翼】の中で本座と幼魔館を同じくする譜代の臣下の数は、白刻影と羅厳白、そして以前少し触れたことがある三つ子の三姉妹の五名となる。


「……………………」


 ……うーむ、まだかかりそうだな。

 えー、さらにこの三つ子の三姉妹について触れると、それぞれの名を沈清雪(ちんせいせつ)沈清霧(ちんせいむ)沈清露(ちんせいろ)といい、名の漢字の画数の少ない順に生まれたと聞いている。……正直、『雪』はともかく『霧』と『露』の判別は面倒すぎるとも思うのだが、この三者の両親が何を考えてこの名をつけたのかは寡聞にして知らない。


 加えてその面倒とは別に、それぞれが【白龍十五翼】の中で恋人を作ったりしており、誰が誰となどは覚えておらぬが、確かその三姉妹の相手は『血天王家』の王天翔と、『槍海王家』の王地狼、そして『暗霊白家』の分脈にあたる白刻影の三名である。

 この沈家三姉妹は玉の輿三枚抜きの三姉妹なのだ。


「………………………………………………」


 ……さて、仙月が無我の境地に入っている間、なんとか場を繋ごうと色々と話してみたわけであるが、残念ながらもう本座には語るべきネタがない。

 そろそろ何故仙月がこのような状態になっているのかを話そうではないか。


 ――我らが互いの得た【悟り】について語り終えた後のことである。潜魔館での生活も終わりが近づき、やたら濃いめな思い出話に花を咲かせていた本座と仙月であるが、じきにその話題は卒業後に入る閉関修練へと移った。


 今の仙月の境地は化境の入気境。

 それもこの一月の間に突破したばかりのようであるゆえ、施された龍の呪いが解けぬ現状では、わずか数年の閉関修練でそれ以上の境地を望むことは難しい。

 ゆえに話題は武功境地の話ではなく、もっと細やかな一つ一つの武功の成就の話へと変化していった。


 そしてその時に本座が仙月に渡したものこそ、()()()()こと、仙界の『無上剣宗』の象徴である頂上霊宝【四季至尊剣】が一振り、『烈日』である。


 本座の意図としては、龍の呪いが解けておらぬ……解いてやれぬ現状、今回の閉関修練は、呪いの影響でどうしても効率が悪くなる心法修行よりも、武功や剣に関する悟りを得ることを主眼にすればよいのではないかという意味である。

 そしてそのための頂上霊宝であり、その霊剣の剣意に触れることで剣心と剣理を深め、武功境地によらぬ新たなる力を身に着けろという意味でもあった。


 しかしそんな本座の意図は、仙月に『烈日』を渡した瞬間、勢いよく吹き飛んで行ってしまう。

 ……といっても、『烈日』が独りでに飛び上がって動き出したわけでもなければ、仙月が突如光に包まれて剣へと変身したというわけではない。


 仙月がしたことは、受け取った『烈日』に対して何かを叫び、そのまま抱きしめてうずくまっただけ。


 ただ彼女が発した叫び声が、


 『お姉さま!?』


 だっただけなのだ。



◇◆◇



 前回のあらすじ。

 玉の輿三姉妹の話をしていたら、【四季至尊剣】は『四季姉妹剣』だった。そして夏の『烈日』を姉と呼んでいたことから、仙月は秋の『哀傷』か、冬の『寂滅』っぽい。以上。


 ……まあ冗談はさておき、今日は仙月が無我の境地に入ってから数えて三日目。仙月は当然のことながら、本座もまた根を下ろしたようにどっしりと構え、彼女の護法を続けている最中である。


 無論、この数日間、ただ仙月を見守っていただけと言うわけではない。

 一応施した手立てとして、無我の境地に入った仙月の周囲に心を鎮める『清心陣』と霊気を集める『集霊陣』、そして簡単な物理結界を形成する『守鱗陣』を敷いてある。

 ゆえに彼女が不測の事態に見舞われることはまずない……はずではあるのだが、不測の事態というものは想定外だからこその不測であるわけで、本座も念のため、陣法のみに任せず護法役を担っているというわけだ。


「…………」


 しかしその役目もそろそろ終わりであろう。

 一時期は何故か本当に全身が光り出し、それに呼応するように内功が大いに荒れ狂っていた仙月だったが、『清心陣』を敷いたおかげか、そちらの乱れもようやく落ち着きを取り戻した。

 つまり、いい加減目覚めそうな気配があるのだ。


「……ぅ」


 ……おや!? せんげつ の ようす が……。

 光り輝いている仙月はホントに進化しそうな感じだが、しかしこれは噂をすればというやつでは?


「ぅ、ぅぅ…………慶雲師兄?」


「ああ。目覚めたか、仙月?」


 静かに目を覚まし、ゆっくりと周囲を見回す仙月。

 その首を回す動きに合わせて、ほつれのない絹のような黒髪が揺れ動き、やがて凛とした眼差しが本座の姿を捉える。


 ……しかしあれだな。実に可憐な少女であるが、その可憐な少女の手には本座が渡した『烈日』が握りしめられたままなわけで……。正直なところ、その美しさと相反するように物騒な気配をかなり強く感じる。

 ……ん? 違うな。感じる物騒な気配の由来は仙月の肉体からだ。新たな天賦……いや、血脈か?


「師兄が守っていてくださったのですね。ありがとうございます、師兄」


「フッ、良いわ。本座と其方の仲であろう。――それより、手を出してみよ。脈をとってやろう」


 実際、診脈もするのだが、本命は【鑑定眼】。

 しかし、すみやかに突き出された仙月の手は、何故かどこか冷たく感じる。『烈日』を握っていたのだ、【夏之法則】で体が火照っていてもおかしくはないはずなのだが……?


 まあ、とりあえず『鑑定』。


【冷仙月】

・種族:人族 器霊

・身分:潜魔 剣宗之象徴

・地位:潜魔

・境地:化境の入気境

・状態:先天被呪<龍呪>

<天賦>道骨:万霊剣骨<弱体化>

    天賦:先天剣胎

    天賦:九天剣心

    天賦:仙剣器霊之化身<封印>

    天賦:天魔巫女

    神通:万***<封印>

    神通:斬***<封印>

    神通:北天寒氷精<封印> NEW!

    血脈:剣仙真脈

    真脈:太初真脈 FREE!

    体質:無病長寿

<功法>心法:魔泉心法 十一成 UP!

    剣法:月輪剣法 十二成 UP!

    剣法:真辰月輪剣法 十二成 NEW!

    剣法:無月空剣 六成 NEW!



「――うむ。重畳だな、【剣尊血脈】が【剣仙真脈】に蛻凡しておる。加えてそれとは別に強い寒気も感じる。何かを得たようだな」


 その何かの正体とは、何故かこれまた封印されている【神通・北天寒氷精】のことである。

 おそらくこれは仙月の前世である剣の由来の力であり、やはり大方の予想通り、冷仙月は【四季至尊剣】が一振り、『寂滅』の生まれ変わりであったようだ。身分も『剣宗之象徴』となっておるしな。

 その他にも二つほど【神通】を保有していることも気になるが、そちらは呪いが解けた後の楽しみに取っておくとしよう。

 ……ああ、そうだ。解けると言えば、かつては封印されていたはずの【太初真脈】の封印が解けている。これも推測になるが、おそらく本座の持つ【太初之火】が近くにあるからだろう。血脈が影響されて【太初真脈】が活性化したのだ。


 ついでに言えば、いい加減煩わしい龍の呪いも解けてくれぬかなとも思ったのだが、やはりそう上手くはいかないらしい。


「すべて師兄のおかげです。こちらの剣、お返しいたしますね」


 ふむ……呪いを解いてやりたいところだが、確か仙月は今13歳だったか。

 呪いの解法に伴うアレコレは、せめてこの神教で冠礼(元服)と見なされる15歳までは待ちたいところである。


「否、その剣は仙月、其方が持っておくがよい。」


 ゆえにその代償と言うわけでもないが、その剣は仙月こそが持ち主に……いや、共に居るべき相手に相応しいと思う。


 兄妹も、姉妹も、共に居られるのであればそれに越したことはないのだから。



◇◆◇



《【秘匿試練①・龍体覚醒】が達成されました。【秘匿試練②・初火封魂】が達成されました。【秘匿試練③・樹王屈服】が達成されました。【秘匿試練④・塵芥(じんかい)灰燼(かいじん)】が達成されました。【秘匿試練⑤・妹剣(まいけん)護法】が達成されました。【秘匿試練⑥・姉剣(しけん)貸与】が達成されました》


《報酬が付与されます》


《『混元値』を100万獲得しました。【天賦・八卦理見(はっけりけん)】を獲得しました。【心法・蛇魂化龍訣】を獲得しました。【心法・麒麟養元訣】を獲得しました。【稀物・水源珠(すいげんじゅ)】を獲得しました。【稀物・火元珠(かげんじゅ)】を獲得しました》


《【秘匿試練①②③④⑤⑥】すべての条件が達成されました。報酬が付与されます》


《『混元値』を300万獲得しました。【霊宝:百陣(ひゃくじん)玄盤(げんばん)】を獲得しました。【天材地宝(てんざいちほう)玄黄(げんこう)不変(ふへん)仙壤(せんじょう)】を獲得しました》



◇◆◇



 ――おっと、秘匿試練か。なかなか久しぶりであるな。

 しかしそうか、試練の内容から察するに本座が『烈日』を仙月に渡すところまでが読まれていたということか。心中を読まれたとあっては多少面白くないが、それでこそのシステムであろうな。


 報酬の内容は……まあ閉関修練中にでも確認すれば良かろう。来る出関の日、本座が覚えていれば解説でもしようではないか。


 ――では諸君、三年後に。

 また会おう。


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