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第63話 【真龍血源】と『反噬』と【太古真龍生命元珠】

◇◆◇ 天魔神教(てんまじんきょう) 天魔仙跡:白蛇(はくじゃ)原始樹海(げんしじゅかい) 第六公子 白眉剣龍(はくびけんりゅう) 日月慶雲(じつげつけいうん) ◇◆◇



 【頂上霊宝・烈日】の土台として、数千年もの間利用され続けてなお、凄まじい気配と燦然たる存在感を発し続けている血玉。


 そしてその正体を聞けばさもありなん。

 これは【真龍血源】。

 極めて始祖に近い高貴な真龍の血の一滴である。

 …………一滴?


「一滴? このバケツ五杯分はありそうな体積で一滴なのか?」


「うむ、そうじゃ。粘性が強いというわけでは無いのじゃが、龍の血というのは元に戻ろうとする力が強くての。バケツとやらが何かは分からんが、それは間違いなく一滴の龍の血じゃぞ」


 見たところ50リットルくらいはありそうな血玉であるが、一滴の龍血に間違いはないらしい。流石は幻想生物の代表というべきか、なかなか格が違う。

 

「それより童よ、その刺さっとる【烈日】を抜いてみるがよいわ。本来であれば童のような未熟者では触れることさえ出来ぬじゃろうが、今の童は【剣仙真脈】も【太初真脈】も持っておる。おそらく()()()()であれば問題ないじゃろう」


「そういうものか……」


 師匠に促され、未熟者の本座は血玉に突き刺さったままの剣を握る。

 まあ揶揄したようであるが、実際のところ不快はない。たとえ化境に至ろうとも、仙界の宗門の宝と比べれば塵芥のようなものなのだろう。


「――熱いな」


 剣を握った本座が感じたものは、肉体どころか鉄さえも溶かしてしまいそうな凄まじい熱である。

 その剣が熱を発しているということはまったくないし、現実の本座の手はこれといったダメージを受けていない。

 しかし確かに感じた熱は、幻覚などとは到底思えない代物であった。


「ホホホホッ、どうじゃ童よ。無上剣宗の至宝に、そして【夏之法則】の一端に触れた気分は?」


「……なるほど、これが【夏】だったか。溶けてしまいそうな熱はともかく、全身が脈動するような活力がなにより素晴らしい、な!」


 【夏之法則】の一端に触れたことで、本座の肉体は未だかつてないほどに高揚状態にある。

 そしてその高揚感に導かれるままに、本座は剣を抜きとって力強く振るった。


「ゴハッ!!!」


 口からは盛大に血が飛び出す。


「わ、童!?」


 そして本座はそのまま意識を失った。



◇◆◇



「――らべ! 童!」


 やけに焦りに満ちた師匠の声がする。

 なにごとだ? いや、本座は何をしていたのだったかな?


「…………師匠?」


「おおっ、目覚めたか童よ! 何が起こったか覚えておるか?」


 何が起こったか?

 確か血玉の剣の由来を聞いてから刺さっていた剣を……っ!?


「……本座は気絶していたのか」


「うむ、その通りじゃ。――まったく、未だ化境でしかない童が【頂上霊宝】を振るえるわけがなかろう。【霊宝】の中でも頂点にあるような代物じゃぞ。……しかし身に余る霊宝を振るった反噬(はんぜい)が、わずかな内傷と気絶で済んだのは相当の儲けものじゃったな」


 そういってため息を漏らす師匠。どうやら随分と心配させてしまったらしい。

 ちなみに反噬(はんぜい)とは、魂にまで及ぶ反動のようなものである。自身の力量に対して手に余るような宝器や術法を扱う際に生じることが多い。

 これは下手をすれば魂魄すら傷つけかねないのだ。内傷と気絶で済んだのは本当に運の良いことだった。


 ……それにそういえば、確かに師匠は『()()()()であれば問題ない』とも言っていたな。【夏之法則】の影響で高揚していたとはいえ、これは言い逃れようもない本座の失態である。


「それで? 剣は何処へ?」


「ん、あれならば妾の【倉庫】に入れておる。この魂体の妾ではやはり実力が足りぬ。持つのも一苦労であるし、さっさと童の【倉庫】に収めておいてくれぬか」


 そう言った師匠は、サブシステム【師弟之縁】の【倉庫】の中から【烈日】を取り出す。

 受け取った本座は今度こそ危なげなく【倉庫】へと収めた。


 しかし、魂力第八位階の師匠ですら実力が足りぬのか。良く生きておったな、本座。

 そしてひそかに画策していた『最強の剣で俺ツエー』計画も頓挫である。


「――さて、ではそろそろ血玉の方を処理するとするか」


「ホホッ、そうじゃな」


 何事もなかったかのように話を切り替える本座。

 『最強の剣で俺ツエー』計画? そんなものは存在しない。いいね?


「そういえば師匠。先ほどは聞き忘れていたのだが、無上剣宗と戦争になったと言っていた黒龍族はどうなったのだ? やはり滅んだのか?」


 本座の勘が正しければ、やたらと主人公っぽい始天魔祖師の功績の一部に成り果てたのではないだろうか?


「おお、よく分かったの童。その通りじゃ。種としての血脈まで途絶えたのかは知らぬが、勢力としての黒龍族は既に無い。無上剣宗との戦で相当の損害を被っておったというのもあるのじゃが、その十数年後に当時太初神教の小教主じゃった始天魔祖師が母親の生家の仇として滅ぼしたらしいの」


 案の定である。主人公体質は行動が予測しやすくて助かるな。

 そして既に黒龍族を滅ぼされたとあれば、ここにある血玉の由来も察することができる。


「ではここにある血玉は黒龍族の物だな」


 ――無上剣宗の仇の血で無上剣宗の宝を修復する。

 これが本座の推測通りであれば、なんとも綺麗な復讐劇である。


「? ホホホホホッ! いや自信満々なところ悪いのじゃが、それは違うぞ童よ。妾は以前保管された黒龍族の血を見たことがあるのじゃが、これとは全然違うものじゃった。あちらも仙界で一勢力を成す由緒正しい真龍族ではあったのじゃが、此度の血玉は始祖真龍の直系の子供くらいの純度じゃ。文字通り格が違うわ」


 ……どうやらこの推測は外れていたらしい。これは恥ずかしい。

 しかし同時に新たな疑問も生じてくる。それほどに良い物であれば、何故始天魔祖師はこれを回収しなかったのだろうか?

 いくら宝剣の修復に利用したとはいえ、修復する方法ならほかにも幾らかあっただろうに……。


「ホホホホッ……童よ、何故始天魔祖師がこれを吸収しなかったのかとでも考えておるのかや?」


「…………」


 本座は黙したまま首肯する。

 どうやらお見通しらしい。


「ホホホッ、知れたことじゃ。これよりも良い物を手に入れて居ったからよ」


「!」


 なるほど。武人として垂涎の代物が、放置ではないとはいえ、あのような勿体ない使われ方をしていた理由はそれ以上の物を見つけていたから、か。

 確かにこれならば筋は通る。すぐさまその発想に至らなかったことが恥ずかしいほどだ。


「確か童は言っておったの。夢の中で始天魔祖師と思われる若者が、奇縁を得て肉体のみならず丹田まで再生させ、病毒の類まで完治したと」


「ああ……」


 そうだ。確かにそのように言った。


「前にも話したことじゃが、妾は仙界で始天魔祖師に拝謁したことがある。まあこれは妾に限らずこの俗界から昇った者は、皆が一度は挨拶に赴くのじゃが、その時に気づいたことがあるのじゃ」


「ほう?」


 この話にも聞き覚えがある。

 確かに挨拶は重要だな。しかし気づいたこと?


「始天魔祖師の丹田には龍族の特徴があったのじゃ」


「…………」


 …………それで?

 いや師匠を謗るわけでは無いのだが、ある程度の特徴であれば【毒仙龍魂道典】を修練している本座の丹田にも発現していよう。

 始天魔祖師がそういった系統の功法を修練していたとすれば、何らおかしくない事象である。


「ホホホホッ。龍の丹田で魔の功法を修練した跡、と言った方が正しいかもしれんの」


 龍の丹田で魔功を修練した……跡?

 言い換え……る?


「――ッ!!!」


 そういえば、本座にはもう一つの胸に秘めていた疑問があった。

 それは壁に刻まれた【太初滅世輪廻掌】の跡のことである。


 本座が夢に見た若者。少なくともあの時点では、丹田が砕かれていたはずの始天魔祖師。

 例え奇縁で丹田が再生したとしても、『覆水盆に返らず』というように、一度散ってしまった内功までもが再生するわけでは無いし、その武功境地も戻るわけでは無い。

 しかしあの場に刻まれた【太初滅世輪廻掌】は、この俗界では絶世の達人であっても展開することすら難しいような絶世掌法。

 あの掌法がどの時点で残されたのかと言うことは、ずっと考えていたことだった。


「そういうことか……」


 しかし今、師匠の言により謎は一気に氷解した。

 龍の丹田で魔功を修練した跡。

 そして――言い()()()


「つまり始天魔祖師は龍の内丹を吸収し、自らの丹田へと置き換えたのか!?」


 師匠の『言い換える』という発言もヒントである。

 言い()()()ではなく、置き()()()

 ――置換だ。


 この方法であれば、ある程度実力を落とさずに丹田を再生させることも可能である。

 そして内丹に残った功力を使えば【太初滅世輪廻掌】のような絶世掌法でも、一度くらいは展開することができるだろう。

 あの掌法の痕跡と共に書かれていた文章は、どう見ても復讐を決意した瞬間のもの。

 やはりこれこそが唯一の解だ。


「ホホホホッ。正しくは内丹ではなく【太古真龍生命元珠】じゃが、まあ内丹みたいなものじゃな。あの剣の記憶を読む限りでは、始天魔祖師はそれを以て【真龍神脈】と【真龍霊体】を獲得し、不完全じゃった自らの道骨・【太初魔骨】を完成させたらしいの」


「……ハッハッハ、本座ではもはや想像もつかぬような領域の話よ」


 例によって、知識不足により大事なところを間違えたらしい本座。

 本座の魂力では不可能だったが、師匠ほどの強さであれば物品の記憶をたどる【在魂大法】が効果を発揮するらしい。


 それにしても未知の【稀物】と未知の【天賦】、そして未知の【道骨】の名が飛び回り、今の本座では雲を見上げるような気分だ。


「――ところで師匠。先ほど『何故始天魔祖師がこれを吸収しなかったのか』と言っていたな」


「うむ、そうじゃな」


 そして雲を見上げるような気分だからこそ、本座はより高い境地を目指して励まねばならない。


「【真龍血源】。――今の本座でも吸収できるのか?」


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