第53話 【法則】と【規則】と『万獣大帝』
◇◆◇ 天魔神教 天魔仙跡:白蛇原始樹海 第六公子 白眉剣龍 日月慶雲 ◇◆◇
「ところで師匠よ。大体のところは分かったのだが、少しだけ伏字となって分からぬところがある。――四文字で法の字が三つ目に来る【**法*】と、水の規*である【***力】。【**法*】の方は両方の功法に存在する言葉だ。伏せられている部分について、何かわかるか?」
「む? ホホホッ、伏字とな? 『鑑定』とやらの読み取れぬところはそのようにして表示されておるのじゃな。なかなか興味深いのう……。――ああ、伏字の内容じゃったか? おそらくじゃが、法*の方は【法則】、規*の方は【規則】じゃな。妾が直接その『鑑定』結果とやらを見たわけでは無いから確かなことは言えぬが、まあまず間違いないじゃろうな」
『法*』と『規*』。
特に『規*』の方は、古くは蝶姫を始めて鑑定したときから存在する古株の謎である。しかし意外にもと言うべきか当然というべきか、本座の知りたかったことはあっさりと判明した。流石は師匠だ。
「【法則】と【規則】?」
「うむ、【毒仙龍魂道典】であれば【毒之法則】。【四海覇皇道典】であれば【海之法則】と水の規則である【水極之力】じゃな。俗界ではあまり重視されることのない力じゃが、仙界であればかなり重要なものじゃぞ?」
「ほう、そのようなものが……」
なるほど……であれば、かつて蝶姫こと麻夢蝶を『鑑定』したときに表示された【規*:火***】と【規*:*空**】は【水極之力】の火バージョンと空間バージョンか?
そして【万古仙命水】の【**法*】……聞くだけ聞いてみるか。
「であればその【規則】と言ったか? 火の規則や空間の規則は何というのだ?」
「む? 【火極之力】と【虚空之力】じゃよ。しかし何故……おお、そういえばあの娘、麻夢蝶といったかの。どちらもあの者が持っておった力じゃな。なるほどの、ホホホホッ」
やはりそうか……というか師匠も蝶姫のことを知っていたのか。
まあ蝶姫が生まれた時には百を超える雷に鳳凰の幻影という異象が起こったと聞いている。ゆえにこその『百雷鳳雛』。当時、神教の護宗大陣に宿っていたはずの師匠が知らぬという方が変な話だな。
「では【万古仙命水】に宿る法則の名前はわかるか? 縁あって……というかシステムの試練報酬で手に入れたのだが、半分ほど瑞麟に使ってしまってな。とはいえまだ半分ほど残っておるゆえ、何か良い使い道があるのであればそれも聞いておきたい」
「――【万古仙命水】、じゃと? なんと……それほどの奇物は妾でも見たことがない。たしか天地精華が万古の歳月で集まった至尊霊水じゃな。それを持っておるのか……ああ、法則と用途じゃったな? アレに宿っておるのは【生之法則】じゃ。そして用途じゃが……、その前に童は【万古仙命水】についてどれくらいのことを知っておるのかの?」
……改めて言われてみればほとんど知らないな。
確か当時の鑑定結果がこんな感じだ。
○【万古仙命水】
<分類>:天材地宝
<ランク>:****
<概要>:万古の歳月を経て****が凝結した****。**と**を絶えず湧き出し【**法*】を宿している。ひとたび口にすれば肉体・魂魄・**を**から修復する。俗世の身には耐え難く、資格無き者は触れただけでその命を失う。
<効果>:【******】【******】【****】【****】【俗人排斥】
先ほどの師匠の『天地精華が万古の歳月で集まった至尊霊水』という言で、『万古の歳月を経て~』に続く文言の想像はついたが、それ以外は俗界の凡人である者は触れたら死ぬということしか知らない。ゆえに取り出して改めて調べるということも出来ないでいるのだ。
「ほとんど知らぬな。当時の『鑑定』で読み取れた情報は、本座では触れば死ぬということだけだ。ゆえにあれから【倉庫】の中で放置している。以前瑞麟に使った時は、あの子の卵が勝手に出てきて勝手にその仙命水に浸かってしまってな。あの時は少々焦ったものだ」
「なるほど……しかし卵から生まれたのか? となれば瑞麟は麒麟の末裔などという粗末なものではなく……っ!? ま、まあそちらは後で良かろう。ホホホッ」
いやその前に聞き捨てならぬような言葉が――
「――【万古仙命水】が持つとされる力は、肉体・魂魄・根基の損傷を本源より回復する【生命本源修復】と、霊気と仙気を絶えず生成する【霊仙双気発生】。そして寿命を大幅に延長し衰退を遠ざける【寿元延命】じゃ。加えて【生之法則】も宿っておるから、うまく吸収すれば【生之法則】を身に宿すことも出来ようし、【生之法則】は【海之法則】とも相性が良い。まあ具体的な用途としては、後々【四海覇皇道典】の練功にでも使うがよい」
「……そ、そうか。……まあ有用な活用法があるのであればそれに越したことは無いが……粗末?」
確かに【万古仙命水】の効能と使い道も興味深いが、それ以上に気になるのは瑞麟が卵から生まれたことを知った師匠の反応だ。
麒麟の末裔が粗末って……それ以上となれば麒麟の始祖とかしか思い浮かばぬが……?
「それより童よ。卵から生まれたとなれば、瑞麟は麒麟族の新たな血統の始祖じゃぞ? 其方そのことを知って……おるはずもないの。しかしどのようにして意思の疎通をとっておったのじゃ? これまではあえて聞かなんだのじゃが、俗界最高の御獣訣である野獣宮の野獣心功であっても、麒麟の祖など到底手におえるものではないじゃろう?」
麒麟の祖……合ってんのかい。
しかしそうか、師匠には未だ【万古通霊道典】について話したことがなかったか。……これはまた驚愕と共に処理落ちするかな?
「瑞麟が新たな麒麟族の祖……。ああ、本座が使っているのは【万古通霊道典】だ。万霊と心を通わせ、伴う存在と共に魂を磨き上げる通霊功法なのだが……師匠は知っておるかな? ……ん? そういえばこれも【毒仙龍魂道典】や【四海覇皇道典】と同じく、道典と名前にあるな。――ところで師匠、今度は驚かずとも良いのか?」
「ホホホ……、まあ先ほどから驚きつくしじゃからな。もはや乾いた笑いが漏れるのみじゃ……。【万古通霊道典】、確かに聞いたことがあるの。龍や鳳凰さえも従えたという万獣大帝の独門功法じゃ。それであれば純粋な麒麟である瑞麟と疎通することも可能じゃろう」
「ほほう?」
やはり仙界の大物の独門功法だったのか……。流石は師匠。シショウペディアの面目躍如だな。
「しかし相当に難解な功法であったのではないか? 【道典】と名につく功法のほとんどは、仙界にあって時代の代表者とも謳われる者が作り上げた至高の功法じゃ。今の童であれば、入門段階である『一層』にたどり着ければ御の字と言ったところではないかの?」
「ふむ? ……まあ確かに本座の有する物の中で最も難しい功法ではあるが……『一層』? 今の本座の【万古通霊道典】は『二成』だぞ?」
「……『二成』? いや功法の成就の段階に『成』を使うのは、俗界だけの文化じゃろう? 魔泉心法のように俗界に合わせて再編されたものであれば別じゃがの」
『成』と『層』。思いもよらぬところで生じた齟齬に二人顔を突き合わせて悩んでいると、またしてもシステムの方に『ピコン♪』と通知が入った。
……通知が入ることも珍しいが、こう間を置かずに連続することも珍しいな。
《【万古通霊道典】の情報が更新されました。確認してください》
「……なるほど」
「? 童よ、どうした?」
「いや、今システムの方から通知が来ただけだ。【万古通霊道典】の情報が更新されたらしい。どうやら師匠の言い分の通りのようだ」
……【法則】と【規則】、海王宮に【道典】、そして『成』と『層』か。どうやら仙界には本座が知らぬことであふれかえっているらしいな。
それに先程の師匠の物言いによれば、天魔神教の基本心法たる【魔泉心法】にも何やら秘密が隠されているようであるし、【万古通霊道典】の更新された情報とやらも一応確認しておく必要があるだろう。
せっかくの機会だ。どうせ明日は拠点づくりで一日潰れるゆえ、そこら辺の雑事を……いや、久方ぶりに武学総論の確認でもするとしよう。
……まあそろそろ日も暮れる。明日の予定も良いがその前に野営の準備だな。流石に今日は疲れた。




