ムッチーノの解放
ムッチーノの南門を解放した翌日は、フィウーノ王国も次の手を打ちかねたようで、他の門に対する攻撃も無いままであった。
そのため、街の南西に陣を構えていたルングーザ公国軍はその陣を少し北東に移動させることで、南門に構えていたフィウーノ軍の陣地も活用した強固な陣に変えてある。
フィウーノ王国の本体が西門側にあることから、主にはそちらへの対策となっているが、東門側の敵軍への対策も行なっている。
「今日は平穏だったら楽だったが、まさかそんな話になるとは、な」
「ごめんね」
「レオ様が謝る話ではありませんよ」
仲間たちに分かっている状況を共有したところで、再び代官館から使者が来る。
「お、来たか。昼間は城門の防衛だったか」
「敵も来ないから、午後は私と一緒に治療をしていたわよね。主に馬に対してだけど」
「そうか、それもご苦労だったな」
フルジエロとマルテッラの兄妹のいる部屋に普通に呼ばれているが、国家元首の令息と令嬢、しかも公子は次期元首である。改めてなんでこんなところに自分がいるのかと思ってしまう。
「そうだ、南門の大将だったアイツ、戦争奴隷への処理も終わって色々と話を確認できたぞ」
フルジエロが共有してくれたのは、コスターレ第2公子たちの行方であった。
開戦当時、北方のザガローマ帝国への対応に専念していたフィウーノ王国に対して、南方から攻め入ったコスターレたち。いくら少人数だったとはいえ、国境付近のいくつかの砦を攻め落としていたらしい。ただ、あまりの関係悪化を避けるため街や村を襲うことはしなかったのは侯爵やフルジエロの指示通りだったとのこと。
そしてザガローマ帝国が撤退した後にフィウーノ王国が南方に部隊を向けたときには、コスターレたちは一番守備が固い国境に一番近い砦に立て籠ったようである。
フィウーノ王国軍も、そこを取り返したところで大して実入りもないため、いっそのこと街を一つということで、国境に一番近いムッチーノの街を奪おうとしたらしい。
つまり、コスターレ第2公子たちはフィウーノ王国内でもルングーザ公国との国境に一番近い砦にいるということである。ただ、そこから抜け出せないように最低限のフィウーノ王国軍が取り囲んでいるとのこと。
戦争になったときのために使用する砦であるので、井戸などは整備されているし防衛に向いた城壁なども堅牢であると。
コスターレたちが奪ったときは守備兵も少なかったが、十分な数の兵士が立て籠っていると攻め落とすのは難易度が高いと放置されているらしい。
「ということで、取り急ぎに何か対策を打つ必要はないようだが、このムッチーノの包囲陣を追い払った後は、コスターレたちを迎えに行く必要があるということだ」
「国境付近とは言っても、こちらから再度攻め入って、その砦の包囲軍と戦うのは避けたいというお兄様の意向なの」
「できる限り互いに住民に被害が出ないうちに、そして将兵の損害も少ないうちに休戦協定を結びたいんだ。お前なら何とかできるだろう?」
「努力します……」
は、とか、はい、とは言えないが、この2人に言われて断る選択肢はないことは分かっている。
「ま、正直だな。そうだ、努力してくれたら良い。まずはこの街の包囲陣への対応だな。お前が兵糧をたくさん奪ってくれたおかげで、あちらさんは空腹になるのも目前だったらしいぞ」
「はぁ」
「ということで、このまま攻め続けても勝ち目はない、自国に引き上げるしかない、と思わせれば互いの損害も少ないうちに撤退できるはずだ」
「夜襲を続けつつ、残る兵糧を奪って来て、ということね」
「は」
レオにすれば同じ敵陣地に向かうにしても、昼間の明るい空を飛ぶよりは、夜に飛ぶ方が安全と思っている。
すでに何回も繰り返したことを行うだけの方が気が楽である。後に控えている砦に向かう話を考えるよりも。
「ということだったよ」
レオは宿に戻って、コスターレたちの追加情報を共有する。仲間たちが一緒に向かってくれるならば、レオとしても心強い。
「もちろん一緒に向かいます。ただ……」
「なんか、人使いが荒いよな」
「カントリオ、それを他所で言うなよ」
「もちろん、それくらいは分かっているよ。でも、エルベルトもそう思うだろう?」
「それが貴族たちの普通なのかは知らないけれど、レオばかりなんじゃないか?とは思うよ」
「能力があると思われて重用されているならば良いのですが」
寺小屋や薬剤師の見習いを港町シラクイラでやっていたときには想像もつかなかった金銭や、貴族の爵位を与えられていると考えると、重用されているのかと割り切ることにする。
「そんなことより、レオに早く仮眠をとらせてあげようよ」
一番年下のフィロに言われて恥ずかしくなる仲間たち。
「今夜も気をつけてくださいね」
南門を解放されて、ジリ貧と分かっているからかフィウーノ王国の将兵たちの士気は低い。
「これ以上ムッチーノの街を取り囲んでいても勝ち目はない」
「早く国に帰りたい」
そのような声も聞こえてくる。
レオが再び夜襲をしようとした敵陣の様子である。その気持ちを後押しすることで戦争を早く終わらせることができるならば、と余計に思いながら≪夜霧≫や≪大夜霧≫を活用しながら兵糧を奪っていく。
「またか!いよいよ飯も食えなくなるのか!」
悲愴的な声も聞こえてくるが、目についた兵糧の荷馬車を奪い続けるレオ。
「よし、兵糧の奪取が後押しになったようだな」
翌日にフィウーノ王国軍が北方で撤退を開始したことを聞いたフルジエロの呟きである。
「追撃はいかがいたしましょうか?」
「2度と攻めてくる気をなくすために追撃すべきでは?」
「いや、この後の休戦交渉をスムーズに進めるためには見逃すべきだと思います」
幹部たちでも別れる意見であったが、フルジエロが追撃をしない、と決定し、その旨を徹底させる。




