婚約破棄を狙って記憶喪失のフリをしたら、素っ気ない態度だった婚約者が「記憶を失う前の君は、俺にベタ惚れだった」という、とんでもない嘘をつき始めた
評価は「読んで良くも無く悪くもない」です。
表面だけ見ると普通?の作品です。書き方も、恐らくなろう読者に多い女性に好まれる書き方だと思います。
粗筋は、婚約はしているのだが、たまに会う時もほとんど喋らず不愛想な婚約者と合わないと思った令嬢ヴィオラが自身を記憶喪失だと偽って婚約を破棄してもらおうと考えたらなぜか今まで会っても不愛想だった婚約者が「ヴィオアは自分の事をかなり好きだった」などと言い始めて困惑し、でも記憶喪失の振りをしなくてはいけないのでどうすれば良いのだろうと悩み、さて二人はどうなるのか、という展開です。
結末はハッピーエンドなのでこの手の話が好きな方には楽しめるものだと思います。
で、裏事情を探ります。これと同じタイミングで「薬屋のひとりごと」もレビューを簡単に書くんですが、この作品も同系統で、ヴィオラの主観において成立しているが、実際はそうではない、かも知れない内容になっています。
ここからは作品のネタバレを含みます。
まずヴィオラの先祖が占い師で、婚約者の家であるローレンソン公爵家が過去にうまくいかなかった時に助言して危機を救い、その対価として子孫を結婚させてほしいという約束をし、その約束通りに結婚する予定になっているのがヴィオラと婚約者のフィリップです。
作品の最初の部分を読むと、フィリップがどうも事務的に、恋愛感情無くヴィオラとお茶会などをしていて、ヴィオラに興味もなく別段話さなくて良いなら話さずに済まそうとしているシーンがあります。これがヴィオラからすると苦痛だ、という展開です。フィリップ側としては約束を守らなくてはいけないので感情などは全く関係なく、好き嫌いがどうであってもヴィオラと結婚しなければなりません。この部分でフィリップは思う所があるのかも知れません。
そしてヴィオラはほとんど何も話さずに数時間2人でお茶を飲むだけの時間などを苦痛に思い、どうにかして婚約破棄出来ないかと思案した結果、記憶喪失の振りをしようとします。
この振りはつまりウソをつこうとする、と端的に表現出来ます。
で、この嘘はいかにも分かり易く、そして親族を騙しきれず口裏を合わせて貰うしかない状況だと言えます。
恐らくヴィオラはうまく記憶喪失の振りをしているつもりでしょうが、家族にもバレていると思われます。で、両家の事を考えるとヴィオラとフィリップの婚約が潰れるのはお互いに問題がある。ならヴィオラを言いくるめてしまおう、と展開に見えます。丁度、ヴィオラが嘘を吐いたのだから、我々も嘘をつこう。そのウソを本当にすれば何も問題ない、という考えも見えてきます。
2話「嘘つきのはじまり」で、ヴィオラが1週間寝込んだ時に部屋に飾られていた花を毎日持って来てくれたのはフィリップだ、という話がありますが、実際にその証拠になるものがどこにもありませんw。
この辺りは、周囲のフィリップ好感度アップ作戦の一環でしょうw。
3話「いざ、婚約破棄へ」でフィリップが「君と俺が、愛し合っていたからだ」などと言い始めます。それが嘘だったとしても、ヴィオラにはそれを否定できません。否定したら記憶喪失ではない事がバレます。だからヴィオラも記憶を失う前はフィリップと仲が良かった前提で行動するしかなくなります。
6話「やっぱり、わからない」でフィリップの部屋でヴィオラは「新・恋愛必勝本」などの本を見つけてしまいます。この辺りに、ヴィオラが記憶喪失までして婚約破棄したがっているのを知って、場合により周囲がフィリップにちゃんとヴィオラの機嫌を窺って結婚出来る様にしろと催促したかも知れない事情も含めて、フィリップの努力が垣間見えますw。フィリップはヴィオラから見てただ事務的に淡々とスケジュールをこなせばよいと思っていたがそれではダメだとようやく気付いたのかも知れません。ただ、フィリップはこの婚約自体を良く思っていなかった可能性もあります。愛想悪くしていればその内にヴィオラの方から婚約破棄するなりしてくるだろう、という期待も僅かながらにあった可能性があります。
なぜそんな面倒な事をするかと言えば、これは過去にあった功績に対しての礼であり、それをローレンソン家側から断るというのは約束を守らない、対価を支払わない、という事になり不誠実であり、かなり外聞の悪い事になります。そんな事をすれば周りから無視されて貴族としてやっていけないのでおそらくフィリップの親などはフィリップにかなりヴィオラを納得させろと要求したと思われます。作品には書かれてないのでどこまでの要求かは分かりませんが、最悪はフィリップを廃嫡して親族から養子を取って結婚させれば約束は守られる、という展開もあったかも知れませんが、この話はハッピーエンドなのでこういった展開にはなってません。
で、フィリップの裏事情がどうかは分かりませんが、フィリップはフィリップなりにヴィオラを好きになるにはどうすれば良いか、ヴィオラに好かれるにはどうすれば良いかを「新・恋愛必勝本」などに求めて、自身には「ヴィオラが好きなんだ」と「はじめての催眠術」という本を読んで暗示をかけようとしていますw。
フィリップがやろうとしているのは関係の再構築で、ヴィオラに好かれるフィリップになろうとしています。言い方を変えると「無理をしている」と言えますw。とにかくヴィオラに好かれそうな事をしようとしていて、一緒に行った事もない釣りに行ったりとヴィオラを楽しませようとしています。
8話「嘘つきな味方」で従兄弟レックスがヴィオラの嘘を指摘します。これは身近すぎる親族やフィリップが指摘するとヴィオラとの関係が悪化するからで、あまり影響のない人物を用意してヴィオラになぜそんな事を考えたのかを言わせてます。そして、レックスは口が上手い様で、ヴィオラとフィリップの仲を取り持つ工作員としての役割を持っていそうです。
レックスがヴィオラが知らないフィリップの側面を話してますが、これをヴィオラが真実かどうか確かめる術がありません。親族だから嘘を付かないだろう、ローレンソン家のフィリップより身内のヴィオラの味方だからフィリップにとって有利になる様な事はしないだろう、という前提でヴィオラがレックスを見ているのを利用して、恐らく嘘をついています。
恋愛事に疎いフィリップの好ましくないデート場所のチョイスはレックスが唆した事にしてフォローしつつフィリップはヴィオラの事を良く考えているんだよ、とここでもフィリップ高感度アップ作戦が展開しています。
9話「思いもよらない」で喫茶店に居て、ヴィオラ達に聞こえる様に会話しているのもエキストラかも知れません。
10話「たとえ何があっても」でフィリップの弟セドリックが登場して、フィリップがヴィオラの居ない場でのフィリップの発言をヴィオラに伝えてここでも好感度アップ作戦を継続中ですw。ここでは多分、嘘ではないと思われますが、それでもその発言はヴィオラが記憶喪失の振りをし始めてからフィリップが自身に暗示を掛けた後の場なので、周囲にも分かり易く伝えているのでしょう。
11話「動き始める」でナタリアが登場します。フィリップが過去にナタリアと共にヴィオラの悪口を言っていたという描写があるので、フィリップはもしかするとナタリアと結婚したかったのかも知れません。どの程度かは別として。そうでなくとも「何もかも釣り合わない」と言ったそうなので、単純にヴィオラを結婚相手と見れなかった、のかも知れません。
14話「わからないことばかり」で同窓会に行かないと言っています。フィリップはヴィオラが同窓会に行かない事に安堵しています。この辺りは、もし同窓会にフィリップとヴィオラが一緒に行ったとして、もしフィリップが昔、散々ヴィオラの事を良く思っていない発言をしていた場合に、知人にその話をされると、レックスなどに協力して貰って今吐いて居る嘘が全てバレるからだと思われますw。そりゃ同窓会に行って「あの時あれだけ愚痴を言っていたのに仲良さそうで良かった」なんて言われたら大喧嘩に発展しそうですw。或いは「前はそんなに仲が良さそうに見えなかったのに何があったの?」とか聞かれたら大変ですw。
15話「それはまるで」で友人ジェイミーの頼みで同窓会に参加しますが、そこでフィリップの嘘が一つバレますw。フィリップは元々同窓会に参加する予定で、ヴィオラに「同窓会に行かない」という嘘を吐いているのが分かります。この時点でジェイミーが第三者でかつヴィオラの味方の可能性が出てきます。フィリップも含めて、嘘を吐いているのをヴィオラが知る機会を作ろうとしている可能性があります。ですが、同時にフィリップの嘘に気づけたのもヴィオラに恋心を抱いて居るシリルの発言があったからなので偶然かも知れません。
ここの話でシリルと話すヴィオラの所に同窓会に参加しないと言っていたフィリップがやってきてヴィオラとシリルの仲に嫉妬して「俺だけ、本当に馬鹿みたいだ」と言っている様に聞こえる台詞がありますが、これは見方を変えると、フィリップはどうにか無理してヴィオラの事が好きな振りをしているのにヴィオラはそんな事を全く気にせずシリルと楽し気に話している、のが「自分だけ馬鹿みたいだ」と発言していると解釈出来ます。
16話「疑問と真実と」でフィリップがヴィオラに同窓会に来てほしくない理由を言っていますがこれもやはり嘘でしょうw。後半でまたレックスが登場し、ヴィオラを惑わす発言をしています。
17話「はじめて、君が」で愛読書が舞台化するという話を聞いて見に行く事にしたが父に頼んで手に入ったチケットは2枚組。意図は当然フィリップと行け、なんでしょうがヴィオラはそんな事も考えずに、数少ない友人の中からジェイミーを選びますが、ジェイミーも気を遣って3日の予定の内、最終日は付き合えないと言ってフィリップと行くように仕向けます。ここは付き合いのマナーの範囲なのでジェイミーがフィリップ寄りかどうかまでは分かりません。分かるとすればジェイミーがヴィオラの気持ちが優先でシリルとフィリップのどちらでも構わないと思っている事位でしょう。
19話「見えない未来」で舞台を見終わったヴィオラとフィリップが「また一緒にいけたらいいですね」、「君は来年の今頃も、そう言ってくれるだろうか」と話してますが、フィリップからすればいつ嘘がバレるか、ヴィオラがやっぱり記憶喪失のままフィリップと結婚出来ないなどと言いだすか不安でしかありませんw。でも恐らくは嘘がバレるのが怖いのでしょう。
この話の後半で、ナイジェルという少年が出て来てヴィオラを試しています。体裁だけでも取り繕うかどうか辺りを調べていると思います。体裁を取り繕うならまだフィリップにも可能性はある、という感じでしょうか。それを後押しする様に20話でチケットを渡してます。この後のフィリップの態度は、ヴィオラからは描写通りに見えているんでしょうが、恐らくはフィリップは試験に合格したのかどうか気がかりじゃないと言った感じだったのだと思いますw。それで「一次試験通過」みたいな結果が出て安堵しているのかも知れません。
21話「変わっていくもの」で小道具であるインコが登場しますw。インコなどは誰かの声の真似して鳴き声を上げるので、「実はフィリップは小さい頃からヴィオラの見えない所でヴィオラを想う言葉を言い続けていた」という設定ですw。印象操作というやつですw。本人の気づかない所で情報が漏れる、から意図して伝えたものではないから普通なら隠す筈のものが漏れたから、そこに伝える事で得たい効果があるという意図がなく、それだけ信憑性が増す、という狙いです。或いは、フィリップの父辺りが、もしフィリップが普段からヴィオラを悪し様に罵っているといつそんな言葉をヴィオラに聞かれるか分からないからインコを飼わせてそういった発言をさせない様にした、或いはフィリップ自身がそうなる様にした、のかも知れませんw。普段から演技してないとどこでボロが出るか分からないので。
24話「でも」で味方の振りしてヴィオラから情報を引き出すレックスの登場です。中間報告の様なものですw。
ここで「記憶喪失のフリ、続けてみなよ。結局、今までの態度の原因もわかってないんだろ? それに今お前の記憶が戻ったと言えば、フィリップは死ぬと思う。良くて引きこもり」という発言をレックスがしていますが、これはフィリップからすればどう見えるかと言うと、関係の再構築を努力している所に、「あ、元の関係でいいです」とヴィオラが言い出す事になり、ヴィオラがフィリップの努力を認めなかった、というのを示す事になります。必死に努力している所を「不合格」と言い渡される様なものですw。フィリップの鼻っ柱をボッキボキに折る事でしょうw。
26話「たったひとつだけ、わかること」でフィリップが「理由なんて、わからない。けれど俺はもう、ヴィオラじゃないと駄目なんだ」と言ってますが、多分背景事情はヴィオラと結婚しないならお前廃嫡ね、とかそんな生臭いものでしょうw。
28話「誕生日1」でヴィオラがなぜフィリップと気まずい関係になっていたのかが書かれています。普段のフィリップの様子を知っているジェイミーがさり気なくヴィオラが気づけるように配慮したのかも知れません。ただ同時に、この話ではこの解釈はないと思いますが、いずれ公爵家に嫁ぐであろうヴィオラの現状の能力が公爵夫人には届かない、からもっと頑張ってもらいたい。でも直接言われて従うだけならその時は頑張ってもいずれまた何もしなくなる、から自発的に動く様に一芝居打った、という解釈も実はあります。でも多分ここでは前者の解釈で話が進むと思います。後者の解釈の場合、フィリップが普段から煽てて仕向けるという方法もありますがそれをしていないので。
この話辺りの特進クラスの同級生というのがエキストラかどうかは話の展開では分かりません。でもエキストラの可能性が高いです。以前にヴィオラがシリルの肩についていた糸くずをとろうとした、というのを外から見ればこんな感じだよ、と伝えたかったのかもしれません。
30話「誕生日3」でフィリップが「幸せというのは、怖いものなんだな」」「いつか終わりが来てしまうと思うと、怖くなる」と言ってますが、これも嘘がバレたらバッドエンドでいつまでも騙しとおせるか自信がないのかも知れません。ここの後半でジェイミーがフィリップの事を話してますが、これもヴィオラには確かめる手段がありません。ヴィオラがフィリップに好意を抱き始めているのでジェイミーはそれを後押しすべく思い出の美化を狙っているのかもしれません。
31話「終わりはいつも突然で」で、以前にフィリップとナタリアがヴィオラの悪口を言っていたのをヴィオラが知っている事実をミラベルが告げ、フィリップがなぜ自身が婚約破棄されようとしているのかを知ります。ここでフィリップは振り回されているつもりが実は自分が原因だったとようやく知ります。ここも問題は、先ほどの解釈の前者か後者でどこにフィリップが驚いているのかです。前者ならヴィオラが知っていた事になり、後者からヴィオラが泣いて走り去り意図した効果がなく悪影響しかなかった、という部分になります。ここのミラベルの暴露は話の前半でシリルとの会話を受けて、今なら話してもヴィオラがフィリップを嫌わないだろう、という思惑がありそうです。そして、フィリップとナタリアの悪口を伝えたミラベルを悪者にして、過去の出来事の印象を変えようとしています。
ここまででなぜエキストラが協力するかと言えば、周囲にとってフィリップとヴィオラが結婚するのが一番被害が少なく、混乱が起こらないのと、こんな簡単な協力で公爵家に恩を売れる、からです。
ミラベルにしてもナイジェルにしても、こんなチャンスはあまりないわけです。それがいずれ実益となって返って来るのは確実なので皆、協力します。ヴィオラが婚約破棄してもそれで利益が出そうなのはフィリップとナタリアくらいなので。でも、ナタリアの実際の性格が分からないのでどうかが分かりません。ナタリアもエキストラとして動いて居そうな雰囲気は出してます。あくまで第三者に見える描写のナタリアはヴィオラからの視点でしかないので。現実的に考えればこの時点でナタリアに婚約者かそれに準ずる恋人が居なければナタリアはどうにかヴィオラとフィリップの中を壊そうとしている可能性がありますが、大抵はこの時点でナタリアがフィリップと気軽に話せるレベルの貴族なら婚約者は居る筈で、そうなるとナタリアもエキストラと考えた方が良いでしょう。でもこの作品ではナタリアの婚約関係の話などがないのでそのあたりの判断が付きませんし、焦点はヴィオラなのであまり関係ありません。
で、ここからクライマックスで、ヴィオラが嘘を吐いていたのを白状します。で、なんやかやとして、ヴィオラの方から意思表示をさせる展開に持っていっています。
33話「今までも、これからも」でハッピーエンドになるんですが、フィリップはここで「その、君は、俺のことが好き、なのか」という一連のセリフを言っています。ここでのフィリップは複雑でしょう。無理して演技してヴィオラに好かれようとして成功して実際に好かれたわけですが、それは演技しているフィリップを好きになってくれているわけです。これからフィリップは死ぬまで延々と演技し続けて嘘を吐き続けるしかありませんw。フィリップとしては、努力したけどやっぱりヴィオラはフィリップと婚約破棄すると言い、フィリップはそれに対して自身は義務を果たしたと言い、廃嫡されない結果を得て、恐らくはナタリアあたりと結婚する、のが希望だったかも知れません。そしてフィリップはこれから嘘を吐き続けて、常に嘘がバレないかとヒヤヒヤしながら生活していく事になりますw。
レックス辺りは、そんなもん多少の嘘も交えて付き合っていくもんだと思って居そうで、ある程度の大人の事情での諦めも含めてやっていくのが普通だと考えているだろうから、フィリップやヴィオラもまだまだ子供だと思って、正直な2人を可愛く思っている、のだと思います。
で、「……本当に、ずっと、君が好きだったんだ」とフィリップが言ってますが、こういった裏事情を勘ぐると、逆に聞こえて、それを無理やり好きだと思い込もうとしている、と見えます。「嫌い」の所を「好き」に変えると結構あからさまな発言以外はそれとなく聞こえると思います。
評価は「読んで良くも無く悪くもない」です。
表もすんなり読めて裏を勘ぐってもそれ程醜悪でもないと言えそうなんですが、この裏に気づかない人物がこれを読んで同じ事をされる危険性というのがちょっと気に掛かります。これがワクチンになるか、それともそういった騙しやすい人物を見つけ出す試金石になるかが微妙だと思います。
裏だけ繋がれば、不都合な行動を取る人物を周囲がどうにか本人の主観から見える情報の印象操作して良い様に操ろうとしている、と受け取れます。実際、フィリップへ好感を抱かせようとする話は全部ヴィオラの見えていない所で起こっていてそれを証言する人物の信用でしか判断出来ません。




