添い続ける彼女の愛
「こうして顔を会わせるのも一年ぶり…ですね」
目の前に彼は立っている
無論エルムである
しかし……どこか様子が…
「久しぶり…いや、僕らはずっと一緒にいたから…それも違うのかな…?」
「僕…やっぱり…エルム様は……
ですが、ならどうして、久しぶりやずっと一緒にいたという言葉が…」
「セリィ、ここでは性格が上書きされるだけだから記憶は引き継いでいるよ」
「そう…なんですか?
私もここに来るのはこれで2度目ですからあまり詳しく知らなくて」
「当然だよ、僕もここに人が『来る』のは……これでただの三回目だから」
「三回…?私たち以外に来たことがある人がいると?」
「人じゃない…でもそこは今どうでもいい」
「そうですね、そんなちっぽけなことはどうでもいいです……
今は…一発殴らせてください」
「……うん」
エルムは目を瞑り静かにその時を待つ
私がそんなことするわけないじゃないですか……
私がエルム様を殴るだなんて…
殴るなんて……
「しませんよ、私は……私は貴方のために生きているんですから」
優しく包み込むようなその包容はエルムの我慢していたものを解き放たせ……
「…セリィ…ぃ…ぅぇぇぇ………どうして…僕はただセリィと一緒に静かに過ごしたいだけなのに……なんでこんなことが起きるんだよぉ……もうやだぁ……もう…やだよぉぉ……」
「……エルム…様…」
何があったのか、こんなことが起きるとは何を指しているのか
そんな疑問がセルナの胸中によぎるが、当の本人はそれどころではない。
どうして、何が起こっているのか
エルムが初めてセルナに泣きついたのだ
本当の意味で、子供のように
泣きじゃくっているのだ
エルムが
しかもここにいるエルムが、である
恐らく性格が関係しているのもあるだろう。
でも、それでも、これまでエルムがセルナに泣きついたことなんてなかった。
いくら辛くてもいくら苦しくてもセルナに自身の激情をぶつけることはなかったのだ。
今ここにいるエルムは管理者、つまりなんの封印も掛かっていないエルムが対処できない何かが起こっている、そしてそれはエルムにとってこれまで悲劇として起こってきたことより辛苦であるということを表していた。
「何が…何があったんですか……エルム様」
「……封印が消えたんだ…どうしてか知らない…けど……消えちゃったんだよぉ…」
「封印が…消えた?」
封印されているのは、悲劇により分離した人格と能力
それらの封印が消えると何が起こるのか私にはわからない
解けたとは違うのか
「ごめんなさいエルム様…私には封印が消えると何が起こるかがわからなくて……」
「……ダメなんだよ…17個もの人格が一つの身体に入るわけない
ましてや僕は異端だ
大抵のこと……いや、出来ないことの方がほとんどないっていうくらいなんでもできる……」
わからない
何がなんだか全然わからない
つまり何が…
「暴走するんだよ、僕が、僕の全ての能力が
この世界全土に向けて
暴走したのが回復や治癒とかならまだしも、もし魔術や吸収などの異系だったら…それこそ天災すら生ぬるいほどのことが起こるに決まってる…
そんなの……やだ…」
「でもエルム様なら再封印くらいできるんじゃ……」
自分の失言に強く悔いる
それができない状況だからこんなことになっているのではないのか
何度も何度も同じ失敗を繰り返してる自分に腹が立つ
なんで出来ないことがほとんどないって言ったと思っているんだ
それにエルムがやだと言ったことは天災すら生ぬるいほどのことが起こるととではないだろう
エルムのことだ
きっと私の住んでいるこの世界を自分で壊すことに嫌だと思っているのだろう
「さっきの発言はすみません…私の失言でした…」
「ごめん…僕がセルナの期待に添えないのが悪いんだよ
僕はセリィ…と……ただセリィを静かに過ごさせることすらできない……それどころか、僕自身がそれを壊している……なら僕は…これまでの人々に…そしてなにより…セリィに悪影響しか与えてない…
そんな僕は……どうしてこの世界に生まれ…なんのためにこんな万能にも等しい能力を持って…それを今実際に制御できていない……そんな僕はセリィとこの世界にいていい存在なのかな…いや…僕はいない方がいい…よね……」
紡がれるエルムの言葉は連なるごとに白に染まりきった心界は夜を迎えるがごとく暗く黒く染まっていく……
「……ごめんセリィ…ごめん……僕はこれで終わらせるから……離してぇ…離してよぉ……」
徐々にセルナすら拒み始めるエルムに対してセルナは絶対にその包容を緩めることは一切なく逆にきつくなっていた。
「もう…いいですか…
もう言いたいことは言い終わりましたか…」
「………セリィは…優しい…」
「この優しさはエルム様だけにですよ」
「…だから…もう……離して…」
「嫌です」
「……もう……セリィ……
……僕を嫌って──────」
その消え入りそうな声は超至近距離にいるセルナにですら聞き逃しそうになるほど小さかった
だか、セルナは聞き逃さない。
ここで聞き逃せばきっと終わってしまうと知っているから
その極小の言葉を全否定した
「絶対に無理です!!」
否定をしたセルナの言葉に先程よりほんの少しだけ大きくなったエルムの声がセルナに投げかけられる
「……なら…セリィも一緒に来てくれるの?」
「…勿論です、私にはエルム様が全てですから」
「…そっか…ありがと…なら…今…離し───」
……まったく
「違いますよね、一緒にというのなら離す意味なんてないですもんね」
「……」
「考えるまでもありません……エルム様を信じている私なら絶対に私を一緒に連れていくことなんてしませんから」
「……するわけないよ
君はこの世界に必要だもの……僕と違って」
「必要……必要ですか」
それでしたら……
私からだけでなくこの世界でエルム様はもっとも必要な神の一柱…なんですが…
「そもそも必要性は関係あるんですか?」
「……え?」
「必要とされなければこの世界にいてはいけないのですか?」
「…でも、僕は……害しかもたらしてない…」
「あるじゃないですか……エルム様がもたらした利だって」
「ないよ…全て僕が僕の尻拭いをしてたようなものだよ
だから反面だけ見れば僕が利をもたらしたように見えるだけ
実際は全然拭えてない…害しかもたらしてない…
神災…やっぱりこの言葉は僕にぴったりだね…
神のごとく力をもった厄災
あんな目を向けられるのも仕方がない…いや…当たり前かな…」
「あんな屑共のことなんて気にしなくていいんです…
それにエルム様がこれ以上自分を責めるのを見たくない
自身に必要性がないというのなら私がエルム様を必要としています
たとえ一緒にいてエルム様が私を危険に晒すとしても
私は、私にはエルム様が必要です。
だから、私をずっと側に……私をエルム様の女にしてください」
「………うん……」
私は、今、ようやく
世界でもっとも大事でもっとも大好きな人の女になります……
そして白と黒に染められたエルムの共通心界はなにかに染まる前の元の姿を取り戻し始める……




